23.「安全は絶対じゃない」
またもや、視点はインチキ教祖に戻ります。
何度も視点が切り替わってしまい、申し訳ありません。
「よっ! アミーラ、いつもタウンのパトロールお疲れさん!」
「インちゃん!」
アミーラの歓迎会から一夜明けた、昼過ぎのこと。
俺――インチキ教祖は、会議から逃げるため――いや、今日もタウンの平和と安全のために、信者である住民たちの様子を見回っていた。たまたま……その途中で、仕事中のアミーラと出くわした。
「どうしたの? 相変わらず会議をサボっているの?」
「まあ……そんなところだ。あっ、ジュダスには言うなよ? 今頃顔真っ赤にして俺のこと探しているだろうから」
「ヘイヘイ――教祖様の指示なら――信者のボクは従うよ」
流石はアミーラ。
こっちのノリに、しっかり乗ってくれる。ほんと、いい奴だ。
「しかし、アミーラも相変わらず仕事熱心だな……。昨日の歓迎会で疲れ、残っているだろう? ちょっとくらい休んでも、バチは当たらないんじゃないか?」
「いや、ボクにとってはこんなのへっちゃらさ。月の星団にいた頃は、もっと朝早くから過酷な修行ばっかりで……そっちの方がよっぽどキツかったからね」
「それに比べれば、このタウンのパトロールなんて、天国みたいなもんだよ」
アミーラは、タウンの治安部のリーダーを務めている。
治安部とは、日常ではタウンの内外を巡って治安と秩序を守る〝パトロール〟、非常時には真っ先に前線へ向かう〝先陣〟を担う部隊だ。
リーダーに任命されたのは、月の星団での経験が評価されたことと、治安部のメンバーであるルーベンスをはじめとした推薦が大きかった。
アミーラは、見かけるたびに「休んでいるか?」と心配になるほど、いつも働いている印象だ。
本人いわく、「じっとしてる方が苦痛だから、働いてる方がボクの性に合ってる」とのことらしい。
……仕事が大っ嫌いな俺からしたら、ぜってえ理解できねぇや。
「それで……変わりないか? 今日もタウンは平和かな?」
「いや――変わりないといえば、変わりないんだけど……」
アミーラは、どこか言いにくそうな雰囲気で言葉を濁した。
「ん? どうした? 気になることでもあったのか?」
「うん……さっき、門番のプーランから連絡があってね。“誰かがタウンに侵入した音を聞いた気がする〟って」
「〝誰かがタウンに侵入した音を聞いた気がする〟!? なんだそりゃ?」
あまりにも曖昧な内容に、思わず声を上げてしまう。
「いや、ボクも聞いたときは同じリアクションだったよ? でも、プーラン自身、〝気のせいだったらすまない〟って感じで、どこか歯切れが悪くてさ……なんか、引っかかる言い方だったんだ。だから、タウンのみんなには知らせず、とりあえずボクだけに伝えたってわけ」
「ふ~ん。でも、今のところ異変はないんだろう? 結界術も反応してないし……」
「油断は禁物だよ、インちゃん。プロの泥棒とかなら、結界系魔術をすり抜ける手段くらい持っているだろうし――〝安全は絶対じゃない〟よ」
〝安全は絶対じゃない〟
アミーラのその一言が、妙に重たく響いた。
その言葉に、俺はハッとさせられる。
「……そうか。そうかもしれないな。ありがとう、アミーラ。俺、ちょっと平和ボケしていたかもな」
俺は背筋を伸ばすように、気を引き締めた。
「……それでどうする? 皆にも知らせて、警戒態勢に入るか?」
「いや……一応、プーランの気のせいって可能性もあるしね。まだ、事を大きくする段階じゃないよ。それに、侵入者がいるかどうかを調べるために――ボクがいる!」
アミーラがそう言って、自分の鼻を指さす。
「オーク族の種族的特異性として――嗅覚があるんだ! ボクの鼻なら、タウンの信者以外の匂いを嗅げば……必ず察知できるよ!」
アミーラは、自信満々に胸を張る。
――そして、たまたまだけど、自分の鼻を誇るその姿に、俺はある人物の面影を重ねていた。
このタウンを守るため、命を懸けて戦った騎士――リチャード・モロサスの姿に。
……フッ。
「そうか。なら、アミーラ、俺も一緒に探そう。タウンを守るためにな!!」
「えっ!? いや、それは大丈夫だよ。今のところはボクだけで充分だし」
「人手は、多いに越したことはないだろ?」
「……もしかして、会議からサボるために、パトロールに同行しようとしてない?」
「……バレたか」
「やれやれ……まあ、いいよ。どうせ誰かがついてくるなら、インちゃんみたいに信頼できるヤツの方がいいからね」
アミーラはそう言って、ふっと笑った。
こうして俺とアミーラは、タウンに潜入したかもしれない侵入者を探すことになった。
補足)
ヴェダはヒーラーたちが集う「医療部」ならぬ「癒療部」のリーダーです。
ジュダスは、タウンの長であるインチキ教祖に次ぐNo.2のポジションとして「副長」を務めています。




