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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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22.「セキュリティ魔術」

 幻鏡視点です

「ここが……インチキタウンか」


 太陽が空高く昇ろうとしている頃、私様は目的地と思しき場所へと到着していた。

 高台の上から、眼下に広がる集落を見下ろす。

 そこには、家々や教会のような建物、それ以外にも用途不明なさまざまな施設が立ち並んでいた。無秩序ではないが、どこか独特な雰囲気の漂う町並みだ。

 遠目には、私様と同じくらいの背丈をした種族たち――人間か、エルフか、それともまた別の種族か。そこまでははっきり見えないが、ちらほらと活動している様子が確認できる。

 そしてもう一体。巨大な翼を掲げた、まるでドラゴンのような種族の姿もあった。


(流石は……信者の数が六百を超える共同体。タウンの規模も、そこに暮らす種族のバリエーションも、なかなか豊かだ)


 私様は、あらためてインチキタウンの大きさと構成に感心する。

 これまで対峙してきたどのカルト教団よりも大規模で、整った組織を感じさせる。信者の数も、桁違いだ。


「タウンの全勢力に真正面から戦いを挑むような無茶はしない……私様も、そこまで愚かではない。私様の目的はふたつだ」


 自らの意図を再確認するように、声に出す。


「一つ、インチキタウンがどんな教団なのかを調べること」

「二つ、インチキタウンの長である――インチキ教祖。こいつがどんな教祖なのかを見極めることだ」


 インチキタウン――この地には、良い噂もあれば、悪い噂もある。

 だが、私様はそういったゴシップに振り回されるつもりはない。組織の本質がどうなのか、それは自分自身の目と耳で確かめるべきだ。

 そして、その長であるインチキ教祖。

 こいつの本性も私様が見極める。

 もしも、インチキ教祖とその信者たちが、真っ当で健全な宗教活動をしているというのなら――私様は何もしない。信仰の自由は尊重すべきだ。そのまま静かに立ち去るだけの話。

 ――だが。

 もしもインチキ教祖が、あの女のように。

 信者を騙し、搾取し、腐った教団を築き上げた悪しき教祖であるならば――そのときは、私様が、狩る!


 決意を胸に、私様はタウンの外縁へと足を進める。

 やがて見えてきたのは、木材で作られた大きな門扉。その上には、門番と思しき者が二人、警戒を怠らず見張っていた。

 一人は、二足歩行でトカゲのような姿をした種族――リザードマン。

 もう一人は、褐色の肌に白銀の髪を持つ、美しくも鋭い印象を湛えたダークエルフ。

 私様は物陰に身を潜め、ふたりの様子を慎重に観察する。


(さて……門番に見つからずに侵入するには)

「天岩戸」

 ――スッ。


 私様は静かに、透明化の魔術を発動した。

 身体が空気に溶けるように、視界からその姿が消える。

 これで見た目には気づかれにくくなった。

 だが――それだけで十分とは言えない。


(本当の問題はここからだ……こういう拠点には、外敵の侵入を防ぐため、セキュリティ魔術が張られていることが往々にある)


 セキュリティ魔術。別名「結界系魔術」あるいは「結界術」とも呼ばれる防御魔術だ。

 一般的には、空間に目に見えない境界線を張ることで、外部からの魔力を感知し、侵入を察知する。または、侵入そのものを拒むバリアを展開することも可能だ。

 要するに――透明人間になった程度では、突破できない仕掛けである。


(私様の天岩戸は、あくまで視覚的に存在を消す魔術。このまま正面から飛び越えて侵入すれば、結界に引っかかる可能性が高い)

(それを対処するには――)

「桃源郷」

 ――パッチン。


 指を鳴らす音と共に、私様はもうひとつの魔術を発動した。ファントム魔術だ。

 この魔術には、ふたつの効果がある。

 一、生者がこの煙を吸い込めば、対象の脳に干渉し、幻覚を見せる。

 二、高度なファントム魔術を駆使すれば、セキュリティ魔術に感知されず、すり抜けることができる。


 今回は、二、の効果――セキュリティ魔術対策として桃源郷を選択した。


(もちろん、結界をすり抜けるのは容易ではない。セキュリティ魔術も日々進化を続けており、ファントム魔術への耐性を持つ結界も増えてきている)

(つまり、私様の魔術が上回るか、インチキタウンの防御が勝るか――それは実際にやってみなければわからないということだ)


 ゴクリ、と喉が鳴る。

 緊張を抑えながら、私様は覚悟を決め、足音を極力殺しつつ門へと近づいていく。

 やがて門扉の直前までたどり着くと、私様はタイミングを見計らい――

 そのまま門番ふたりの頭上を飛び越えるほどの高さで、軽やかに跳躍した。

 ――スタッ。

 静かに着地したつもりだった。

 だが――門番のダークエルフが、ぴたりとこちらを見た。

 その視線は、まるで……見えているかのように、私様の着地点を正確に捉えていた。


「うん?」

「どうした、プーラン?」

 隣のリザードマンが問いかける。


「いや……今、何か音がしなかったか?」

(なに……!? 気づかれたのか?)


 私様は即座に動きを止め、息を殺す。

 気配も足音も、すでに消している。それでも、気づかれたのだとすれば――


「さぁ? ワイには、なにも聞こえなかったが……」

 リザードマンはのんびりとした調子で首をかしげる。


「……うーん……」

 ダークエルフはなおも目を細め、こちらを見つめ続ける。


 バレたのか、それともただの勘か――その判別がつかないぶん、むしろ緊張が走る。


「……すまない、気のせいかもしれないな。結界系魔術も反応していない。一先ず、見張りを続けよう」


 そう言って、ダークエルフは視線を逸らし、門の外へと向き直った。


(……ふぅ……)


 警戒が解けたのを確認し、私様はゆっくりとタウンの内部へと歩を進める。


(そういえば――忘れていたな……エルフ族の種族的特異性を)

(エルフは、聴覚に優れた種族……たとえ視覚的に消えていても、完全に油断はできない)


 それでも、騒ぎにはなっていない。

 門番が異常を認識していないということは――


(……私様のファントム魔術が、タウンのセキュリティ魔術を上回ったということだ)


 仮にも六百を超える信者を抱える巨大な教団。

 その規模を考えれば、内部への侵入を許すはずがないと、住民も門番も信じて疑わないだろう。――だからこそ、抜け道がある。

 セキュリティに絶対の信頼を置く者たちは、突破される可能性を考慮しない。


 私様は門を越え、タウンの内部へと足を踏み入れた。

 インチキ教祖のいんちきを暴くために。

 そして、このインチキタウンという巨大なタウンの真の姿を知るために――

 私様の潜入調査が、今、始まった。



 そしてインチキタウンへと潜入する幻鏡――

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