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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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20.「また両目が濁った」 前半

 すみません、また例によって文章が長くなってしまったため、前半と後半に分けて投稿します。


 後半は、もう少し時間を置いてから投稿します。

「……今にも疑問に思うことがある」


 秘境の山奥。

 墓の前で、私様はぽつりと呟いた。

 ここは相棒と初めて出会った場所。

 その思い出の地に、私様は墓を建てた。


「この新しき世界へ行く前……チュートリアルの世界である――白き世界。そこで私様は、自分のスキルタイプがコネクトであることを無理やり知らされた。そして、その特徴――つまりルールを叩き込まれた」

「だが、今の状況と、そのルールにはどうしても矛盾がある」


 ――コネクトの基本ルール。

 ・譲渡者が()()するか、あるいは譲渡者が渡した魔力を返してほしいと強く願えば、その魔力は触れずとも譲渡者の元へ戻る。


「譲渡者だったはずの久奈子が……いまも、私様の魔力の中に残っている。これは久奈子が生きている証なのか……それとも、このルールには例外があるのか?」

「……ハッ、きっと……後者なのだろう。久奈子が亡くなったことは――私様が誰よりも知っている」


 墓の前で、私様はひとりセルフツッコミをする。

 当然、その独り言に返事をしてくれる者などここにはいない。


「……さらばだ、久奈子。といっても、相変わらず行くあてのない旅に戻るだけだが」


 そう言い残し、私様は墓から離れて歩き出した。


 …… …… ……


 …… ……


 ……


 目的もなく、私様は歩き続ける。

 どこへ行くのか、どこに行きたいのか決めてもいない、気ままな旅。

 以前は、それでも楽しかった。

 隣に相棒がいてくれたから。

 いや、相棒と一緒に旅をすることが、この新しき世界で、唯一の楽しみでもあり、それが目的でもあった。

 ――いつだって、失ったあとに、気づく。その大きさ。当たり前にあった日常のありがたさを。


「なぁ……久奈子、私様はなんのために生きればいい――こんな腐った夢のない世界で」


 私様は呟く。

 そして思う。前の世界と、この新しき世界について。


 頑張っても報われることがない世界――自分より努力していない者が人から賞賛を得る不条理さ。


 生まれたときから不幸な人生を歩むことが決まった世界――生まれたときから、国、身体、貧困、その他、恵まれない状態から不自由な人生を歩む者もいれば、生まれたときから裕福で自由な人生を歩む者もいる不平等さ。


 悪人が得をし、善人が損をする不条理な世界――「人には優しくしよう」と教わって、その通りに優しくあろうとする者を食い物にする人間がいる。しかし、食い物にされた者が必ず裁かれるとは限らない不正義さ。


 人はそんな真実に絶望し、現実世界とは別の世界に理想郷を見出したのだろう。

 それが「天国」「浄土」「異世界」といった言葉が生まれた理由なのかもしれない。

「精一杯正しく生きようとした者が報われる世界もあってもいいじゃないか」、

 そんな思いを反映した世界がある可能性を、人々は願ったのだろう。


(だが……結局、この世界もクソだった……)

(前の世界と変わらない、不条理さ、不平等さ、そして……不正義さがあった……少なくとも、この世界も理想郷ではなかった)


 ああ、いつからだろうか。

 また()()()()()()気がする……

 世界を映す両目が、以前よりも汚れてしまった気がするのだ。

 この現象は以前にもあった――私様が第六十代目神鬼魔鏡教団の教祖であった頃に。


 ――妾様だって、そなたと同じ時期があった。だが……〝結局、何も変えられなかった〟。妾様もまた、母と同じ道を辿った

 ――そして、やがてそなたも妾様と同じ人間になる。なにせ、そなたもこの妾様の血を継ぐ、立派な娘なのだから……これが妾様からの本当の卜占うらない


 そのとき、あの女――母の声が背後から聞こえた。

 私様はおそるおそる後ろを振り返る。


「馬鹿な!? なぜ……貴様がここにいる?」


 そこに立っていたのは、私様と同じ服装を着た、ブクブクと太った中年の女性。

 彼女の瞳も、私様と同じくオッドアイ――だが、色合いが微妙に異なる。

 私様の右目が黄緑、左目が紫であるのに対し、その中年の女性の瞳の色は、右が濁った黄緑、左が赤紫のオッドアイだった。

 彼女の名は――社陸照魔鏡。

 私様の母にして第五十九代目神鬼魔鏡教団の教祖でもある。

 つまり、私様の母が背後に立っていたのだ。

 この世界にいないはずの彼女が、たしかにそこにいた。


「……違う! 貴様は実体ホンモノではない!! 虚像ファントムだ! これはファントムだ!!」


 私様は叫ぶ。

 まるで現実ではないとむきになって否定したくなるように。

 なぜ、私様は母のファントムを見るのか?

 敵からファントム魔術でもくらったのか――それとも、私様の深層心理の底にあるトラウマが反映されているのか?


 ――精々悩み、あがき、もがき、そして苦しむといい。そなたも鬼道の使い手……やがて妾様たちと同じく、鬼の道へと堕ちるその時まで……

「……黙れ!」


 ――その両の瞳も、いずれは濁るでしょう……鏡のような娘よ……

「黙れ! 貴様の存在など見たくない!! 貴様はこの世界に存在していないのだ!!」

「消え失せろ!!」

 ――ピキッ!


 その叫び声と共に、母のファントムは鏡が割れるようにひびが入る。そのひびは段々と大きくなり――

 ――パリンッ!

 割れていった。


「ハァ……ハァ……今の一体何だったのだ……?」


 そこから、一旦は母のファントムを見ることはなかった。



 闇堕ちしていく幻鏡……

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