15.「ウ、ウンコー」
洞窟でインチキ教祖から「頼む! 俺も魔術を使ってみたいんだ!」と言われた。インチキ教祖曰く、他者から魔力を貰うことで、魔術を使えるスキルタイプと聞いた。ジュダスは謎に包まれたコネクトの特性ついて知りたかったため、コネクトについて教えて貰うことを条件に魔力を譲渡することを承諾した。
ジュダスがインチキ教祖から教えられたコネクトの特性とは、大きく分けて以下四つだ。
一、自身の魔力だけでは魔術へと出力できないスキルタイプであること
二、他者から魔力を貰うこと(コネクトへと魔力を渡す者を以後、〝譲渡者〟と呼ぶ)でその魔力を解析し、譲渡者と同じ魔術を行使できる。なお、コネクトが魔術を行使する際は、コネクトの魔力が減る。譲渡者の魔力が減ることはない
三、譲渡者が死亡するか譲渡者が渡した魔力を返却してほしいと強く願えば、渡した魔力は触れずとも譲渡者の元へと戻る
四、コネクトへの魔力の渡し方は、譲渡の意思を持って触れるだけでいい。ただし、触れて渡すだけなら渡す分だけ魔力が足されるだけだが、譲渡の際にコネクトに対して奉仕の度合が強ければ強いほど、単純な足し算ではなく、渡した魔力以上にコネクトの魔力は大幅に強化される
インチキ教祖はそれ以上深く説明しなかったが、ジュダスは一旦納得し、握った手を介して少量の魔力を譲渡するつもりで念じた。するとジュダスの中で不思議な感覚が生じた。自身の魔力が彼の身体に通り彼の魔力と混ざった感覚を味わった。
どう表現すればいいのだろう。例えるなら、食事のように自身の血肉が彼の血肉へと変換されるのではない。自身の血肉が、彼の血肉と共にあることを感じ続けるような感覚だった。
とにかくジュダスの魔力の一部がインチキ教祖の中に残り続けている感覚を彼女は味わっていた。
そして、その後、インチキ教祖はジュダスと同レベルで火天を発動できるようになった。ジュダスも火天を学び始めたころは、未熟だったため、火加減を間違え、よくやけどしたものだが、コネクトが魔術を行使する際は、譲渡者の技量まで再現できるみたいだ。インチキ教祖が火天で遊んでいる姿を見て、ジュダスは不公平だと感じていた。
そういった経緯を経てジュダスはインチキ教祖が紛れもないコネクトだと確信していた。
場面は戻り、説法会。インチキ教祖はジュダスから魔力を貰ったままであるため火天を発動し、オールラウンドのように振る舞い続けていた。案の定、他の信者たちは、コネクトは魔術を使えないという固定概念があるため、インチキ教祖がオールラウンドであると誤解していた。そうなると全ての真実を知っているはずの〝ウンコウ様が間違えた〟という真実を目の当たりにしたため、その動揺は計り知れないものだろう。
ジュダスはインチキ教祖の言動に憤慨と同時に失望していた。
――ジュダスさん。……あなたもあなたの両親も騙されていますよ。その真実教に
――もう一度言いましょう。ジュダスさん。あなたもあなたの両親も騙されている。受け入れるのは難しいかもしれませんが、真実教はカルト宗教というやつだ
ジュダスは自宅でインチキ教祖に言われた言葉をこの時思い出していた。
この世の真実を全て知り、真実の幸せもそこに在るとされている真実教。
だけど、両親が出家したおかげでジュダスにとって幸せな家族生活が無くなった。両親が以前のような仲睦まじい夫婦でいられなくなったこと。ジュダスが知っている優しい両親ではなくどこか狂信的で怖さを感じる性格へと変貌したこと。そんな性格に変えた真実教に対しモヤモヤするような心情だった。信じたいけど信じられる理由が欲しい。そんな考えが一番近いところか。真実教を疑うことは、真実を極めたウンコウを疑うことと同義であるため、周りに教徒が多いナレーザでは、この気持ちを誰にも打ち明けることが出来なかった。そんな中で、インチキ教祖と出会い、真実教と無関係の他人だからこそ悩みを打ち明けることができた。
それを一方的に真実教は悪だ! みたいな言い方をされて、曲がりなりにも信じてきたことを否定された気持ちになりついムキになった。でも今思えば、ジュダス自身、真実教に思うところがあったからこそ、彼の言葉に必要以上にムキになったかもしれないと。ジュダスはこの時内省した。
彼がコネクトだと知り、彼に特別性を感じた。説法会が始まる前にパパとママから出家しなさいと迫られる中、助けてくれた彼に優しさをどこか感じた。
――だがら、今から俺がたった一つの質問をあいつにする。その一つの質問で暴いてやるよ。あいつのいんちきっぷりを。あいつは真実なんて見抜いていねえってところを
この言葉をジュダスが聞いたとき、ウンコウに対し、自信満々で対峙する彼に実は期待していた。もしかしたら、もしかすると、ウンコウ以上に彼は真実を見抜いていて、ウンコウを華麗に論破するそんな姿が見れるかもしれないと。そんな姿を見たら、本当に彼の信者になってもいいかもしれない。それくらいジュダスはワクワクしていたのだ。
だが、現実はどうだ。真実を見抜いたウンコウに対し、彼はあろうことか虚偽でウンコウを貶した。このまま放置しておくと、ウンコウが本当にいんちき扱いされてしまう。
「(皆の前で話そう。ウンコウ様は間違っていないと。そしてインチキさんがコネクトであることを証明しなければ)」
ジュダスは責任を感じ、皆の前で真実を話すことを決めた。それと同時に彼の嘘を暴くため、彼がコネクトだと証明するための作戦を考えた。
ジュダスの作戦はこうだ。まず皆の前で、彼が魔術を使える仕組みを話す。そして、三、のルールにより返却の意思を持って、魔力を返してもらう。(実際に魔力が返却されることは洞窟で実証済み。その後、彼にまた魔力を渡したが)
そして再度彼に魔術を発動するように促す。彼はなんらかの言い訳をするかもしれないが、魔術を発動しない姿を皆の前に見せつければ、嘘をついたと気付く者もでてくるはずだ。
「(そうと決まれば、一刻も早くウンコウ様の名誉を回復させなくては)」
ジュダスの中では、ウンコウがインチキ教祖のスキルタイプを当てたのは、教徒が合図でウンコウに教えたからでは? という考えがあった。もし……もしコネクトであることをジュダスが漏らさなければ、ウンコウはインチキ教祖のスキルタイプを当てることはできなかったのでは? この考えが一瞬浮かんできた。が、それは自分の思い過ごしだと蓋をするように強く思うようにした。
「(ううん。違う違う。ウンコウ様は真実を見抜いた! インチキさんはその名の通りいんちきな奴……そうよ! ウンコウ様は間違えないんだわ! 今までも……そしてこれからも……信じるべきなのは真実教)」
ジュダスは意を決し、その場で立ち上がり発言しようとする。
「ウ、ウンコー」
ジュダスが発言しようとしたとき、それまで黙していたウンコウがついに口を開いた。
「か……勘違いするなよ。余はおぬしがオールラウンドであると見抜いておったわ……だが、余は、あえて間違えたフリをしたのだ。おぬしの態度を見るためにじゃ」
タイトルが酷いような気がしますが、ま、まあいいでしょう。
明日は投稿時間を変更して、20時40分に続きを投稿します。