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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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19.「久奈子」 後半

「……某はミスをしていたようだ……」


 ゲルメズが重く口を開いた。


「ああ、私様たちをもっと早く始末しなかったことか?」

「違う。もっと前――倒すべき優先順位から、間違えていた」

「実力から考え、強い貴殿を優先的に倒すべきだと考えていた……貴殿さえ先に殺してしまえば、問題はないと。だが、そこが間違いだった」

「なんだと!?」


 ゲルメズは久奈子の方へ視線を向ける。


「そこの黄緑髪の人間族――いや、某は、()()()から先に殺すべきだったのだ。久奈子さえ先に倒しておけば、後は容易だったはずだ」

「死を目前にした人間族は、貴殿のように皆、絶望して死を受け入れていた……だが、久奈子だけは違っていた。あれほど精神力の強い人間族は初めてだ」


 ゲルメズの口元に笑みが浮かぶ。


「――あっぱれだ。久奈子よ」


 信じられなかった。

 あれほど人間族を見下し、頑なに私様たちの名前を呼ぼうとしなかったゲルメズが――久奈子だけは認め、名前で呼んだのだ。


「……フッ、確かにな。貴様の言う通りだ、ゲルメズ。久奈子を先に倒しておけば、貴様たちは負けなかっただろうに……」

「勘違いするなよ、まだ勝負は決まっていない!」


 ゲルメズはアタシュ・バフラムを構える。


「ああ……そうだな。これから決着をつける」


 私様も構えた。

 あの魔術を発動するために、左手は掴むように指を曲げ、右手は人差し指をピンと伸ばす。両手首を合わせ、前方――ゲルメズへと向ける。


「くそぉ! まだ抵抗するなんて――」

「ゲルメズ! あんの人間族をさっさと殺すわよ!!」


 アービーとザルドは、アイスウォーター魔術で消化したのだろうか、火傷を負いながらも生きており、ゲルメズの隣へと飛び出す。

 前方に、ゲルメズ、アービー、ザルドが揃った。


(好都合だ……ここで一網打尽にしてやる!)


「ゲルメズよ……貴様のファイア魔術を超える、火の神の力を――いや、〝日の神〟の力を見せてやろう!」

「なに!?」


 私様は唱える。あの魔術を、切り札を。

 その名は――


「天照オオ――」

「……何だ、その魔術は……一体!?」


 それが、ゲルメズの最期の言葉となった。


 …… …… ……


 …… ……


 ……


「久奈子! 久奈子! 勝ったよ!! 私様たちは……貴様のおかげだ!!」


 ダエーワ・ファミリーを倒した私様たちは、背後に倒れている久奈子に声を張り上げた。

 自分でも勝利に浮かれているのが分かるほど、気持ちが高ぶっている。

 辺りは、ゲルメズと私様のあの魔術で凄まじく燃え上がっている。暗く広い部屋は火に包まれ、そろそろ脱出しないとまずい状況だ。


「……うん、ちゃんと……見ていたよ……凄かったね」


 久奈子は弱々しい声で、いつもより細い目をやっと開けて答える。まるで今にも眠ってしまいそうだ。


「大丈夫か!? 怪我か!? 魔力が足りないのか!?」


 明らかに久奈子の様子は良くない。仕方ない――あれだけのダメージを負い、ゲルメズに勝つために大量の魔力を注いだからだ。

 ヒーラー魔術を使えるほど私の魔力は残っていない。だが、魔力を渡すことならできる。

 さっそく私様が魔力を差し出そうとしたそのとき――


「幻……いいんだよ! もうあたしは……助からない」

「……へっ!?」


 思考が一瞬止まる。久奈子は何を言っているのだ?


「まだ……全部……最後の一滴まで……渡し切れていなかった……だからかな……まだ話せている」


 魔力を渡そうとしたはずなのに、逆に久奈子の魔力が私様のほうへ流れ込んでくる。


「馬鹿……やめろ! 貴様何をして……」

「これで……本当に……ゼロ……もう魔力が……残っていない……」

「久奈子! な、なんで……」


 嫌だ、嫌だ、受け入れたくない。久奈子が――久奈子が死ぬなんて。

 私様が魔力を久奈子に渡しても、すぐに自分のもとへ戻ってしまう。久奈子は受け取ることを拒んでいるかのようだ。


「……泣かないで……相棒……」

「大丈夫……あたしの……魔力は……あなたに残るから……」

「最後に……あなたには……過去ばかりじゃなく……前を向いて生きて……お願い……よ」


 それが久奈子の最後の言葉だった。

 いくら呼びかけても、返事はない。辺りは熱に包まれているはずなのに、久奈子の体は次第に冷たくなっていった。



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