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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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18.「あの魔術さえ使えていたなら」 後半

「……うん? 某の気のせいか? 今、黄緑髪の人間族の目が、一瞬、燃えるように輝いた気が――」


 ゲルメズがボソボソと何かを呟いている。

 けれど、あたしにはそんなことを気にしている暇はなかった。


(今のあたしの残り魔力量……そして幻の残り魔力量……。あの魔術を発動するには――)


 その瞬間、あたしは悟った。

 あたしのすべきことを。いや――あたしの役割を。

 もっといえば、この新しき世界に来た理由。

 あたしが今まで生きてきた意味。

 そのすべてを理解した気がした。


(そうか……そうだったんだね。ようやくわかったよ。あたしがこの世界で生きていた意味は――幻のためだったんだ……)


 前から思っていたことがある。

 〝あたしが努力して覚えてきた魔術は、本当にあたし自身のためのものなのか?〟と。

 幻は、あたし以外の誰からも魔力を貰ったことがない。

 つまり、幻が使える魔術は、あたしが覚えた魔術だけ。

 金印、天岩戸、三角縁神獣鏡――そして、あの魔術までも。

 それらはどれも、あたしのような凡人のためというより、〝卑弥呼の子孫かもしれない〟幻にこそふさわしい魔術だった。


(あたしが魔術を覚えてきたのは……あたしのためじゃない。幻が使えるようにするため……きっと、そういう運命だったんだ)

(そして、あの魔術を幻が使えるようにするには――あたしが魔力を渡さないといけない! 今までのような、ちょっとやそっとの魔力じゃ駄目。全部……あたしの魔力を全部渡すつもりで――)


 魔力を全部渡す。

 それが何を意味するのか、あたしは理解している。

 魔力とは、第二の血。

 血が尽きれば命が終わるように、魔力が尽きれば命も終わる。

 コネクトに魔力を渡すということは、自分の血肉を分け与えるに等しい行為。


(何かを得るには何かを捨てる──逆に言えば、何かを捨てることで何かを得られる。あたしの命を捨てることで幻が助かるなら……喜んで差し上げる!)


 あたしは覚悟を決めた。


「目つきが変わった? あの目は……まさか……」


 他人から見れば、あたしは幻の踏み台にすぎないのかもしれない。

 幻という主役スターを輝かせるためだけの、引き立て役。

 でもね……あたしの存在意義がそうだったとしても、あたしはそれでいいと思っているの。

 ――こんな考え、おかしいかな?


「久奈子……なんで……来るの?」


 幻が絶望した表情で、あたしを見つめている。

 この子は、自分が死ぬよりも、あたしが死ぬ方がずっと苦しいんだ。

 なんて……優しい子。幸せになるべき子。救われるべき子。

 だから――絶対に死なせない。

 幻には悪いけど、ここで終わるのはあたし。


(幻……あなたが過去に苦しむとき、あたしも胸が痛かった。だから、前を向いて生きてほしい)

(これから先、あたしの命はなくても……あたしの魔力ちにくは共にある。だって、あたしたちは相棒だから。ずっと一緒だよ)


 この新しき世界に来て二年。

 その中でも、あなたと過ごしたこの五か月間は特別だった。

 前の世界も含めて――一番、充実した人生だったかもしれない。

 ありがとう、相棒。

 あなたのおかげで、あたしは自分を好きになれた。


「まずい! 今すぐ、あの黄緑髪の人間族を殺せ!!」

「どうしたのゲルメズ?」

「あの目は――死を目前にした絶望の目じゃない! 希望を見出した……生きた目をしている!!」

「奴は何かをする気だ!! いや、ここで某が――」


 ゲルメズがアタシュ・バフラムを振りかざす。

 あたしと幻にトドメを刺そうとして――

 ――ガシッ!

 その前に、あたしは幻の手を掴んだ。


「お願い、幻。あの魔術でゲルメズたちを倒して――!」


 その瞬間、あたしの魔力が幻へと流れ込んでいく。

 二つの力が溶け合うように混ざり合う……そんな感覚を、全身で感じた。



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