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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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17.「三角縁神獣鏡」 後編

 長くなりましたが、これにて第十七話は終わりです。

「天岩戸」


 久奈子はゲルメズに向かって駆け出すや、ふっと姿を消した。

 透明人間――目くらましの効果がまだ残っているとはいえ、安全を期しての行動だろう。どうやら本気で、ゲルメズを仕留めにいくつもりらしい。


(久奈子がゲルメズを狙うなら――私様は残り二体を――)


 私様は二枚の鏡を再び放り投げた。


「金印!」


 直後、フラッシュ魔術を鏡に撃ち込み、反射させる。先ほどシヤーフとサブズを葬ったのと同じ要領で、今度はアービーとザルドを仕留める算段だ。

 だが、その瞬間――。


「……仕方ない! アービー、ザルド、()()を使うぞ!」


 ゲルメズが辛うじて細く目を開き、仲間に鋭く指示を飛ばす。


「「「鬼凶アシャ」」」


 次の刹那、ゲルメズ、アービー、ザルドの額に――ボコリ、と浮かび上がったのは「凶」の一文字。


(あれは――なんだ!?)


 私様が放ったフラッシュ魔術は鏡に反射し、倍加した光線ビームとなってアービーとザルドへ襲いかかる。


「ぐぬ!」

「ぬお!」


 だが、奴らは咄嗟に腕で急所を庇った。倍の威力を誇るはずの光線ビームは、肌を焼く程度の火傷に留まった。


(肉体が急に硬く……!? まさか、さっきの魔術は――)

「待て、久奈子! 奴らは肉体強化系インファイター魔術を――」

「遅い」


 ゲルメズは目を閉じたまま、背後へ鋭い後ろ回し蹴りを放つ。

 ――ボキッ!

 嫌な音とともに、久奈子の天岩戸は解け、彼女の身体は遠くへ吹き飛ばされた。


「久奈子!」


 駆け寄ろうとした私様の前に、アービーとザルドが立ちふさがる。


「おっと!」

「あんたの相手は私たちさ!」

「どけ! 桃源郷!!」

 ――パッチン!!


 ブーメランのように戻ってくる鏡へ向け、ファントム魔術の紫煙を放つ。

 その煙は鏡に跳ね返り、アービーとザルドの方へと流れ込み、二人は思わず吸い込んでしまった。


「――なに!?」

「こ、こんな器用な真似まで……」


 動きを封じた二人を横目に、私は久奈子の元へ駆け寄った。


「う……うっ、げっ」

「大丈夫か!? 久奈子、今すぐ治す!」


 首が良からぬ方向へと曲がり、声すらまともに出せない。私様は急いでヒーラー魔術を施す。


「……助かった、幻……」


 やがて首は元に戻り、言葉もはっきり発せられるようになった。


「中々やりますねぇ……」


 ゲルメズの声が響く。


「特にそこのカウンター魔術の使い手……シヤーフとサブズを倒し、さらにはアービーとザルドを一瞬で封じるとは……今までで最強の敵だ――貴殿は」

「……称賛はいらん。聞きたいことがある。なぜ、透明化した久奈子の位置を見抜けた? その額の〝凶〟と関わりがあるのか?」

「ふむ、それも一因だが……本質は、この角だ」


 ゲルメズは己の頭に生えた角を指差し、冷たく告げる。


「オーガ族の角は飾りではない。蛇の舌のように空気中の匂いを嗅ぎ分け、敵の位置を探知できる……いわば、生きたセンサーだ」

「さらにインファイター魔術で感度を増幅させれば、透明化など意味を成さない……まぁ、〝種族的特異性〟を持たない人間族には理解できないかもしれんが」

「理解しているさ。要は視覚が封じられても、その角があれば見失わないということだろう? ……いちいち人間を貶めずにはいられんのか、貴様は」


 不快を押し殺しつつ、私は構えを取る。久奈子もまた立ち上がり、隣に並んだ。


「久奈子、怪我は……?」

「平気。戦えるよ。ただ、目くらましが効かないのは厄介だね」


 ゲルメズはアービーとザルドの方へと視界を向ける。


「ファントム魔術のおかげでしばらく動けまい……その上、今は無防備。ならば、某が配火はいかどもを守りつつ、一人で相手をするしかあるまい」


 アタシュ・バフラムを振り下ろす。舞い散った火の粉は、やがて炎の分身二体へと姿を変えた。

 ゲルメズは口元を吊り上げる。


()()()()()()()()


 分身はアービーとザルドの護衛へ回り、ゲルメズ自身は――

 ――ゴウゥッ!!

 そのまま私様たちへ、猛スピードで突っ込んできた。


「っ! 金印」

「金印」


 久奈子は真っ直ぐゲルメズへ向けて光を撃ち放つ。

 私様は鏡を高く投げ上げ、その落下する一瞬の間に、カウンター魔術で何度も何度も光を反射させ、ゲルメズへと収束させた。

 だが――光速の攻撃を、ゲルメズはあっさりと躱してみせた。


(なに!? あの動き……あれは、オールラウンドというより――)


 ゲルメズが一瞬で間合いを詰める。

 私様は慌てて落下する鏡を掴み、久奈子と自分を庇うように構えた。

 だが次の瞬間、ゲルメズは鏡を回避しながら、あっという間に私様たちの背後へ。


(しまった――防御が間に合わな――)


 背後から襲いかかろうとするゲルメズ。


「桃源郷」

 ――パッチン!!


 久奈子のファントム魔術が発動し、紫煙が炸裂する。

 ゲルメズはそれすら見切り、後方へ大きく跳び退いた。煙を吸わぬよう、完全に躱してみせたのだ。


「――助かった、久奈子。今のファントム魔術がなければ、二人ともやられていた」

「なんなの!? あいつのあのスピード!」


 私様たちは、ゲルメズの予想を超える身体能力に驚愕していた。

 アービーからはゲルメズのスキルタイプは〝オールラウンド〟と聞かされていた。だが、あの身のこなしは……。


「……フン、全力で戦えるのは気持ちがいいな。やはり配火どもがいない方が、某は戦いやすい……」


 ゲルメズは愉悦を滲ませて呟いた。


「貴様……スキルタイプは〝インファイター〟だな? 今まで手加減していたのか? いや――正体を隠すために実力を抑えていたのか?」


 スキルタイプ・インファイター。

 生まれつき強靭な肉体を持ち、インファイター魔術(別名・肉体強化系魔術)を得意とする。

 オールラウンドが多様な魔術を扱える汎用型ゼネラリストだとすれば、インファイターは肉体強化に秀でる代わりに、他の魔術を不得手とする特化型スペシャリストである。


「ほう……わずかな動きで、よくぞ某のスキルタイプを見抜いたものだ」


 ゲルメズは包み隠さず、素直に答えた。


「えっ? あいつ、オールラウンドじゃなかったの? ってことは、アービーの情報は噓だった? でも……あのファイア魔術の高度な扱いは――」

「ああ、それはおそらく、アタシュ・バフラムという武器の性能おかげだろう。インファイターであっても、本来なら苦手とするファイア魔術を、オールラウンドに劣らぬほど自在に扱える……そういう仕様になっている。――そうだろう、ゲルメズ」

「……いかにも。なら、ここからは隠し事ナシでいこう」


 ゲルメズは角に指を突き立て、自らの血をアタシュ・バフラムへと滴らせる。

 ――ボゥウウ!

 紅炎は瞬時に蒼炎へと変貌し、鬼火のごとき不気味な光を放った。


「ここからが本当の戦いだ」


 アタシュ・バフラムを振り下ろす。舞い散った火の粉は、やがて無数の炎の蛇となって襲いかかってきた。


「ハァッ!」

「フン!」


 久奈子が銅剣を薙ぎ払い、私様は鏡で反射させて炎の蛇を散らす。

 だが、ゲルメズの猛攻は止まらない。


「まだだ! 四方八方から襲いかかれば、いかにカウンター魔術でも対処はできまい!」


 ゲルメズはシュンと高速移動し、火の粉を撒き散らしながら私様たちの周囲をぐるぐると旋回する。

 そして、足がピタリと止まった瞬間――いつの間にか、ゲルメズの分身、炎のトカゲ、炎の蛇が無数に現れ、私様たちの逃げ場を完全に封じた。


「なんだと!? この数は――」

「幻!」


 焦る私様たちの顔を見て、ゲルメズはほくそ笑む。

 そして、勝利宣言のように言葉を吐いた。


「終わりだ……人間族よ。久しぶりに本気を出せて嬉しかったぞ」


 告げるや否や、蒼炎の軍勢は一斉に飛びかかる。


(駄目だ……この量はさすがに捌ききれない……っ!)

(……ここまでなのか?)


 最後に浮かんだ思考はそれだけだった。

 耳をつんざく爆裂音、肌を焼き焦がす熱気――次の瞬間、蒼炎はすべてを呑み込んだ。



 補足)

 配火――ダエーワ・ファミリーにおける信者にあたるメンバーの呼び方です。


 今回のお話で出てきた〝種族的特異性〟。

 ゲルメズは要するに「人間族には取りえがない」と散々バカにしていましたが、実は人間族にも〝種族的特異性〟があります。そのあたりは、いずれ物語の中でちゃんと説明する予定です。


 ――そして作者の本音。

 ゲルメズ……強すぎません?

 本当は今回、幻鏡を勝たせるつもりだったのに、気づいたらゲルメズが勝っちゃってました。

 いや、ちょっと待て――どうやって勝たせろっていうんだ、これ……!


 でもまあ、次回こそ幻鏡の反撃にご期待ください。

 ゲルメズ、なんでお前が勝ってんねん(笑)。

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