17.「三角縁神獣鏡」 中編
すみません。
前半・後半の二本で投稿する予定でしたが、結果的に前編・中編・後編の三本に分けて投稿することになりました。
後編は、早ければ明日投稿予定です。
「くっ!? アービー! ザルド! 手を貸せ!!」
「「!? わかった!!」」
ゲルメズは焦った声で二人を呼び、アービーとザルドは咄嗟に隣へ並び立った。
「ハァ!」
「水蛙」
「雷蠍」
ゲルメズのアタシュ・バフラムと炎のトカゲ。そこへアービーのアイスウォーター魔術、ザルドのサンダー魔術が加わる。三つの力が重なり合い、私様が跳ね返した炎は相殺された。
「……まさか、反撃型魔術の使い手までいたとは……厄介だ」
そう、これが三角縁神獣鏡の武器としての性能。
この鏡は〝カウンター魔術〟――別名「反撃型魔術」と呼ばれる特性を持つ。
カウンター魔術とは、攻撃を受けたことで発動条件が満たされ、倍以上の威力にして跳ね返す魔術だ。
条件を満たさない限り発動しない点で言えば、罪と罰式魔術にも似ている。
「しかし、即座に気づいて対処するとは……伊達に修羅場を潜っていないようだな、貴様らオーガ族も」
今までの雑魚敵なら、初見殺しのように一撃で倒せていた。だがゲルメズは瞬時に対応してみせた。
ゲルメズたちはしばらく動かず、私様たちを睨みつけている。
「……どうした? 来ないのか? 下等な人間族と見下していたのに、怖気づいたか?」
「……」
「幻……あいつら、カウンター魔術に警戒して、中々動けないみたいだね」
そう、ゲルメズたちは私様のカウンター魔術を知った今、もはや不用意に攻撃を仕掛けられなくなったのだ。
戦況は互いに睨み合ったまま、膠着する。
(やはり一度にまとめて倒すのは難しい……それなら――まず、奴からだ)
「そういえばだが――貴様らに言いたいことがあった」
「何だ?」
「どうしたの、幻?」
ゲルメズと久奈子が反応する。
私様は、ある作戦のため――挑発するようにダエーワ・ファミリーへ言葉を投げかけた。
「貴様らはまるで、オーガ族のために人間族を殺しているように言っていたが……本当は、〝自分たちだけ〟のためだろう?」
「――なんですって?」
アービーが食いつく。
「そのメンバーの少なさが何よりの証拠だ。オーガ族は太古ならまだしも、現代では無駄な争いを好まぬ穏やかな種族と聞く。人間族との戦いで絶滅の危機に陥ったことで、なおさら考え方は変わったはずだ」
「つまり、もし聞いた通りの種族であるなら、オーガ族の大半は貴様らのような過激な考えには賛同しない――大方、オーガ族から煙たがられ、追放されたクチだろう?」
「……」
図星なのか、ゲルメズは黙り込む。
「だからメンバーもたった五名。だからこんな辺境でひっそり暮らしている。本当にオーガ族が貴様らに協力的なら、もっと仲間はいるし、人間族と戦争を仕掛ける方法などいくらでもあるはずだ」
「……えーと、つまりオーガ族から見ても、あいつらダエーワ・ファミリーは迷惑ってこと?」
「ああ、久奈子。そういうことだ」
久奈子の一言に、アービーの顔は憤怒に染まる。
「ふざけんな! 正しいのは私たちダエーワ・ファミリー! 間違っているのは頭の固い族長どもだ!! この行いは、オーガ族が神族になるための必要な試練!!」
「そうだ! オーガ族は長い歴史の中で――卑劣な人間族によって牙を抜かれ、腑抜けとなった! 我らはその目を覚まさせるために戦っているのだ!」
ヒーラーのサブズを守る形で一歩下がっていたシヤーフも、ついに激昂した。
「落ち着け! これはあの女の罠だ。怒らせて攻撃を誘い、カウンター魔術で跳ね返す算段だ……このままでは相手の思うつぼだぞ!」
ゲルメズが意図を理解し、仲間を宥めようとする。
だが、私様はさらに挑発を重ねた。
「おっと、図星のようだな……感情でしか返せないところや――私様のカウンター魔術にビビッて攻撃できないところを見るに――貴様らも案外大したことないな!!」
「なにぃ!?」
ザルドまでが食いつく。
いいぞ、皆の意識が私様に集まっている。あとひと押し――もう少しで奴を倒せる。
私様は二枚の鏡を人差し指でピザ回しのように、クルクルと回す。
「……この際、真実を教えてやろう。オーガ族の大半は、人間族が消えることよりも……貴様らダエーワ・ファミリーが消えることを望んでいる! つまり貴様らの殺戮は、まったくの無駄なのだ!!」
私様のトドメの一言で、シヤーフの表情は爆発した。
「ふざけるな! こうなれば――俺のファントム魔術で、キサマらに地獄を見せてやる!!」
「乗るな、シヤーフ!!!」
ゲルメズが怒鳴る。だがシヤーフは耳を貸さず、前に踏み出した。
「いいや、そろそろ俺にも戦わせろ! 下等な人間族ごときのファントム魔術より、俺の方が上のはずだ!!」
「アービーから聞いたぞ。キサマらもファントム魔術の使い手らしいな? ならば――どちらが上か、勝負だ!!」
シヤーフはメンバーの誰よりも前へ出た。
(かかったな!)
私様は回している二枚の鏡を、さらに勢いづけて回転させた。
クルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクル――ッ!
「久奈子、タクティクスBでいくぞ」
私様は背後の久奈子に向け、低く小声で合図する。
「! わかったBね」
久奈子も、ダエーワ・ファミリーに聞こえないほどの声で応えた。
そして――シヤーフがファントム魔術を発動しようと、指をパチンと鳴らしかけたその瞬間。
「フンッ!」
私様は二枚の鏡を、ブーメランのように鋭く投げ放った。
「「「「「!?」」」」」
突如の行動に、ダエーワ・ファミリーの面々は驚愕した。
シュルルルルル――ッ!
「そこだ! 金印!!」
鏡の軌道が狙い通りの位置に差しかかった瞬間、私様は両手からフラッシュ魔術を放つ。
鏡から反射された二本の金色の光線は、シヤーフの耳の穴とサブズの額へと、まさに命中した。
シヤーフとサブズはその場に即死する。
「なっ!? しまった、ヒーラーが狙いか!」
「サブズ――っ!!」
「ま、まさか……跳弾のように命中させるとは……」
そう――これこそが、私様の作戦。
ヒーラーのサブズを狙うため、奴らを挑発し続け、意識をすべて私様に向けさせたのだ。
おかげで、サブズを取り囲む防御は薄くなった。
まあ、ついでにシヤーフまで倒せたのは、嬉しい誤算だったがな。
すぐさま次の段階へ移る。
「今だ、久奈子!!」
「ええ!! くらえ、金印!!」
――ピカッ!!
今度は久奈子が、私様の背後からフラッシュ魔術を発動する。
しかし、今回のフラッシュ魔術は、攻撃のためではない。
「……なに!? 今度は目くらましか?」
「眩っ!?」
「うぐっ!?」
そう――光の輝度を強め、奴らの視界を一時的に封じたのだ。
これがタクティクスB。
視界を封じた状態で、一気に決着をつける戦術である。
シュルシュル――ガシッ!
鏡が手元へと戻った私様は宣言する。
「チャンスだ! 残り三体――このまま畳み掛けるぞ!」
オーガ族を主人公にした追放系って、「なろう」に存在するのでしょうか?
補足)
反撃型魔術。
用語だけでいえば初出は、創世記第1章 真実教編・9.「火天」のエピソードになります。
ここから登場させるまでに、ずいぶん時間がかかってしまいました。
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