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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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15.「天岩戸」 後半

 そして、合流ポイントに辿り着いたとき――

 サブズとシヤーフから逃げ切ったであろうアービーが、すでに先に待っていた。


「アービー!」

「ザルド! あなた……」


 アービーとザルド、二人が対面した瞬間――すぐに抱き合った。


「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!゛ ゛怖゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛お゛ア゛ー゛ビ゛ィ゛イ゛イ゛イ゛イ゛」

「ごめんね……わたくしだけ逃げて、本当にごめんね……!」


 涙を流しながら、二人は長く、深く抱き合っていた。


(感動の再会か――。少し前の私様なら、アービーとザルドの行動など理解できなかったかもしれん……。だが、今の私様には、久奈子がいる。もし久奈子と、こんな状況で再会すれば――)


 ふと、久奈子の方へと顔を向けると――

 ニシシと笑顔で、私様を見つめる久奈子がいた。


(……フン、大方「あたしたち、いい仕事したね!」などと思っているのだろうな、久奈子)

(……まあ、気分が悪くないのは、認めてやる)

「アービー、ザルド……感動の再会のところ悪いが、話がある」


 私様は、そろそろ話を切り出すことにした。

 本当は、もう少し二人の時間をそのままにしておいてやりたかったが。


「貴様ら、この後、行くあてはあるのか? この先、ダエーワ・ファミリーから逃げ続けられるという保証はあるのか?」

「そ、それは……」

「うっ、確かに……保証なんて……」


 アービーとザルドは俯き、言葉が詰まる。

 おそらく、教団から逃げることに精一杯で、先のことまで考える余裕などなかったのだろう。

 だが――大丈夫。二人を保護してくれる団体を、私様と久奈子は知っている。


「もし、行くあてがないのなら……いいところを紹介しよう。……その名は、シン・マーヤ・ヒーラーズ協会(SMH)」

「「シン・マーヤ・ヒーラーズ協会?」」


 アービーとザルドが、思わず同時に声を上げる。


「ああ。貴様らのような、元カルト信者を支える団体だ。教団から逃げ出せたとはいえ、一度染みついた価値観は、この先、社会で生きていく上で障害となり、必ず苦労する。だが、彼らなら――貴様らの力になってくれるだろう」

「確かに! この先、奴らが血眼になってアービーさんとザルドさんを探すにしても――SMHなら、きっと匿ってくれるもんね!!」


 久奈子が、私様の言葉に補足を加える。


「……そんな、心優しい団体があるのですね……」


 ザルドはホッとした表情を浮かべた。

 そして、アービーは大粒の涙を手で拭う。


「ぐすん……幻鏡さん、久奈子さん……。友を助けるだけではなく、その後のケアまで考えてもらえるなんて――」

「フッ、安心するのはまだ早い。SMHまで案内するが、詳しい話は――!」


 ……その時だった。

 会話の途中、私様は〝ある違和感〟に気づく。

 ――アービーが、流れる涙を手で拭っていた。その行為自体は、ごく自然なもの。

 だが――その〝拭う手〟の形が、なぜか「指鉄砲」のような形をしていた。


(……指鉄砲の構え――あれは……アイスウォーター魔術を発動する際の構え――!!)


 アービーは拭った大粒の涙を、突如として久奈子に向かって放った。


「えっ――!?」

「久奈子――っ!!」


 ――ダンッ!!

 ――ビチャチャッ!!

 咄嗟に、久奈子の盾になるように私様の手に涙が当たった。


「えっ……幻?」

「ぐっ!? に……げろ……くな……こ」


 涙が手に当たった途端、全身が痺れるように身体の自由が効かなくなり、呂律も回らなくなる。


「そうはさせるか! 鬼殺酒ハオマ


 ――ビチャチャッ!!

 アービーの指鉄砲から放たれた水に、久奈子も当たってしまった。


「はぁあん!?」


 久奈子も私様と同じく、地面に倒れ込む。


「はぁ……はぁ……」

「久奈子!」


 私様も久奈子も呼吸が荒く、まともに息ができない状態だった。


「「イェーイ! 大・成・功!!」」


 パチーンッとハイタッチを交わすアービーとザルド。


「き……貴様らぁあああ」


 私様は必死に起き上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。


「あらぁ? 教えたはずよ? わたくしの得意魔術は、アイスウォーター魔術だって」

「こ……れ……は……ど……く……か?」

「毒……というよりはお酒よ。魔術名【鬼殺酒ハオマ】。酒豪のオーガ族でも、たった一滴肌に染み込めば酔いつぶれてしまうほどの純度の高い酒。()()な人間族ごときが耐えられるわけないわ……」


 私様たちを見下すように、クスクスと笑うアービーとザルド。気に入らん。今すぐに仕留めたくなるほどだ。


「それに、あなたのお友達はもう酔いつぶれているわぁ~~」


 ザルドがムカつく笑みを浮かべ、久奈子を指さす。


「うっうううん」


 久奈子はアービーの魔術の影響で、全身が赤くなり、完全に酔いつぶれていた。


(久奈子!?)

「く、そぅ……」


 私様は最後の力を振り絞り、人差し指をアービーに向けた。


「あらぁ、フラッシュ魔術で反撃する気? そんな状態で撃てるのかしら?」


 アービーは危ない遊びを楽しむかのように、私様の手を握り、それを己の額にピタッとくっつける。

 つまり今、ここで魔術を発動すれば、確実にアービーを仕留められる状況だ。


「ほらほら頑張って~~♡」

「やめなよ! アービー、死んじゃうって~~」


 アービーとザルドは、まるで「撃ってみろ」と言わんばかりの余裕な態度だった。


「金――」

(くそぉ、意識が朦朧として――)


 段々と景色が暗くなっていく。

 そして――


「会わせてあげるわ……わたくしたちの鬼頭に」


 意識が途切れる瞬間、最後に聞いた言葉がそれだった。



 次回、鬼頭、とうとう登場……!

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