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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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15.「天岩戸」 前半

 すみません、また例によって文章が長くなってしまったため、前半と後半に分けて投稿します。

 後半はもう少ししたら投稿します。

「スゥ~~、おーい!!! わたくしは戻ったぞ――っ!!!」

「友を返せ――っ!!!」


 アービーは北側の遠くから、中央に建つ一軒家へ向けて声を張り上げる。

 私様と久奈子は、アービーとは反対側にあたる一軒家の南側で、静かに待機していた。

 アービーの叫び声が辺りに響き渡ってから、しばらくして――


「おい、シヤーフ! アービーがあそこにいるぞ!!」

「のこのこ戻ってくるとは……今度こそ捕える!!」


 一軒家の中から、緑と黒のオーガが飛び出してくる。

 あれが、サブズ、そしてシヤーフというやつだろう。

 そして、サブズとシヤーフは、アービーを見つけるや否や、全速力で追いかけていく。

 アービーもまた、迫る二人から逃げるように、必死で駆け出した。

 ――あれが本当の〝鬼ごっこ〟か。

 私様は、そんなことを思った。


「アービー、うまく誘い出してくれたね……幻の作戦通りかな?」

「……いや、赤のゲルメズの姿が見えない。おそらく、あの家の中で待機しているのだろう」


 そう――これが私様の秘策。

 なんということもない。脱走したアービーを囮とし、その隙に私様と久奈子がザルドを救出するという、ごく単純な作戦だ。

 理想を言えば、ダエーワ・ファミリーの構成員全員がアービーの後を追ってくれれば良かったのだが、現実はそう甘くはない。

 今はただ、アービーがどれだけ上手く時間を稼いでくれるか、そして私様たちがどれだけ早く任務を遂行できるかにかかっている。


「久奈子!」

「ええ! わかっている!!」

「「――天岩戸あまのいわと」」

 ――スッ!


 私様たちは、ある魔術を発動するための構えとして、人差し指をピンと伸ばす。

 その瞬間、指先からピカッと閃光が走り、まるで透明なマントを羽織ったかのように、身体の輪郭がふっと空気に溶け込んでいく。


 魔術名【天岩戸】――これはフラッシュ魔術、別名「輝光きこう系魔術」とも呼ばれる。

 この魔術を発動すれば、カメレオンや光学迷彩ステルス技術のように、姿を見えにくくすることができるというわけだ。

 ただし、発動中は魔力を消費し続けるため、長時間の使用は好ましくない。

 なお、フラッシュ魔術を発動する際の構えは、「人差し指を伸ばす」――それだけである。


「ゲルメズに見つからないこと……それと、あの家にはもしかすれば、罪と罰式(トラップ)魔術が仕掛けられているかもしれん。細心の注意を払って進むぞ」

「うん!」


 透明人間になったとしても、所詮は〝見えにくくなる〟程度に過ぎない。

 音や匂いまでを消すわけではないのだ。だからこそ、慎重に進む必要がある。

 私様からも、久奈子の姿はほとんど視認できない。

 だが、彼女の返事は確かに耳に届いた――ならば、行くとしよう。


 ――ジャァアアアアアアア……。

 窓を開けて、私様と久奈子は静かに家の中へと忍び込んだ。

 内部は――ごく、普通だった。

 複数の男女が共同生活を送っているような、ありふれた生活感。そこかしこに私物らしきものが雑多に置かれ、多少の乱雑さもある。

 カルト教団らしさも、特別なオーガ族らしさも見受けられない。

 むしろ人間族がここで暮らしていたと聞かされれば、誰もが信じてしまいそうなほど、平凡な空間だった。


(……一体、どこにザルドはいる? そして――ゲルメズは)


 私様と久奈子は手分けし、部屋を一つひとつ、慎重に確認していく。

 ――しばらくして。


「これは……? 幻、いる? げーん?」


 小声で久奈子の呼ぶ声が聞こえた。

 私様はその声を頼りに、彼女のいる部屋へと向かう。


「っ! こ、これは……!?」


 そこにいたのは、天井から吊るされるように拘束された、黄色のオーガ族だった。

 見るに堪えない痛々しい傷跡が無数に刻まれ、まさしく――拷問を受けた者の姿だった。


「う、うう……」


 かすかなうめき声が漏れる。

 目を閉じているところからして、意識は朦朧としているようだった。


(仲間……いや、〝信者〟にここまでやるとは……。ということは、アービーの話は――本当だったのか)


 ダエーワ・ファミリーの信者グルである可能性も念頭に置き、私様はアービーのことを完全には信用していなかった。

 だが、彼女の言葉通り、ザルドがここまで酷く拷問されていたとなれば、アービーとザルドは、真に〝脱会を望んだ元信者〟だったのかもしれない。

 少なくとも――私様は、徐々にアービーのことを信じる気になりつつあった。


「幻! きっと、あの人が……ザルドさんよ!」

「ああ、今すぐ助けよう!」


 私様と久奈子は、天岩戸の魔術を解き、その場に姿を現す。


「あのう! 大丈夫ですか!?」


 久奈子が、やや声を上げて問いかけると――


「うう……っ! あ、あなたたちは……?」

「目が覚めたか……ザルドよ」

「安心してください。あたしたちは、アービーさんの協力で、あなたを助けに来ました!」

「!? アービーが……?」


 ザルドはその名を聞いて、目を見開いた。驚きが露わになる。


「時間がない。ここからさっさと脱出するぞ」


 ――ジャキンッ!

 私様は右手に魔力を集中させ、強化した手刀でザルドを拘束していた鎖を断ち切る。

 解放されたザルドは、力尽きたように床へ崩れ落ちた。


「立てますか? ザルドさん!」


 久奈子が手を差し伸べるが――ザルドはその手を掴めぬほど、衰弱していた。


「……申し訳ございません。とても、まともに立てる状態では……」

「どういうことだ? オールラウンドの貴様でも、応急処置程度のヒーラー魔術は使えるはずだろう?」

「……かなりの魔力を、奴らに奪われました。反撃の手段を封じるために……」

「……そうか、仕方ない。久奈子!」

「うん」


 私様と久奈子は、それぞれザルドに向かって、ヒーラー魔術を発動する。

 ――スウゥゥウ……

 その効果で、ザルドの傷は徐々に癒えていった。

 とはいえ、完全回復とはいかず、応急処置として傷口を塞ぎ、かろうじて走れる程度にまで回復させるにとどめた。


「……あいにく、私様も久奈子も、スキルタイプはヒーラーじゃないからな。悪いが、今はそれくらいで我慢してくれ。一刻も早く、この家から逃げねばならん……わかるな?」

「……はい! わかっています。応急処置でも、ありがとうございます……!」


 もしこの場に、スキルタイプのヒーラーさえいれば――ザルドのダメージなど、おちゃのこさいさい。一瞬で全回復できたことだろう。

 だが、あいにく私様も久奈子も、ヒーラーではない。全回復させるには、時間もかかれば、魔力の消費も激しい。

 それに、万が一ゲルメズに見つかり戦闘となれば、魔力の温存は必須だった。

 立ち上がれるようになったザルドを連れ、私様たちは、家からの脱出を開始する。

 侵入したルートを辿り、行きと同じように、窓から外へと出た。

 そして、脱出に成功した私様たちは、アービーと事前に決めていた合流ポイントへと向かう。


(……おかしい。ゲルメズの姿が、どこにも見えなかった。まさか、偶然家に留守だった……?)


 ここまで上手くいき過ぎていることに、逆に私様は不気味な違和感を覚えていた。

 合流ポイントへ向かう道中も、常に背後に意識を配り、尾行や気配を探ることを怠らなかった。



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