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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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13.「ダエーワ・ファミリー」 後半

 喉が渇いていそうだったので、とりあえず、竹で作ったコップを渡し、水を飲ませる。


「うん、ゴクゴク、ぷはー……ありがとうございます!」

「自己紹介がまだでした……わたくしの名は、アエーシュマ・アービーと申します」


 アエーシュマ・アービー。それが、その女性オーガ族の名らしい。


「あっ、あたしの名は、大口久奈子です!」

「……私様の名は、社陸幻鏡だ」


 久奈子に続いて、私様も一応、名乗る。


「久奈子さんに……幻鏡さん、人間族らしい素敵なお名前ですわね」

「あはは、人間族らしい〝素敵な名前〟って、どういう意味ですかね?」


 久奈子とアービーは、会って間もないというのに、すでに打ち解けた様子を見せていた。

 流石、久奈子。コミュニケーション強者の達人だ。

 このまま久奈子に任せれば、いずれはアービーの話を聞き出せそうではある。

 だが――私様は一刻も早く、アービーが助けを求める理由を知りたい。

 二人が雑談しているところ悪いが、話の腰を折らせてもらうぞ。

 いや、別に、久奈子が私様以外と仲良くなるのが気に入らんとか、そういうんじゃないからな。言っておくが。


「雑談はその辺にして単刀直入に聞こう。アービーよ、一体なぜ、久奈子に助けを求めた? 今も誰かに追われているというのか?」

「それは……」


 私様の問いに、アービーは言いにくそうな表情を浮かべる。

 ――仕方ない。ここは私様が嫌われ役を買おう。フォローは久奈子がしてくれるだろう、多分。


「もし、そのまま何も言わないのなら――こちらが助ける義理はない。貴様が盗賊など、なにか罪を犯しているのなら、追っている者の方に正当性があるからな」

「私様たちは、悪事の片棒を担ぐつもりなどない」

「幻! あんた、そんな言い方ないでしょう!!」


 アービーは、迷いの色を見せていた。

 だが――


「……いいのですか? あなたたちに話しても」


 アービーが唾を飲み込む音が聞こえたあと、ようやく口を開いた。


「当然だ。むしろ話してもらわんと、貴様を信用できない」

「幻!」

「いいです、久奈子さん。幻鏡さんの言っていることは正しいです」


 怒る久奈子を、アービーは宥める。

 そして、俯きながら、ぽつりぽつりと語り始めた。


「……わたくしは、ある教団の信者でしたが、たった今、その教団から逃げてきたところです」

「……教団!? もしかして、また、カルト教団なの!?」


 飽きれたような声で驚く久奈子。まあ、無理もない。

 この()()()()()()()()()、カルト教団が多いのは仕方ないのかもしれないが――それにしても、いくらなんでも私様たちは、カルト教団と縁があり過ぎる。


「お願いです! あなたたちの力を貸して頂けないでしょうか? わたくし、今にも奴らが殺しに来るのではないかと、不安でいっぱいで――」


 アービーは、泣きそうな顔で、久奈子に縋りつくように訴える。


「なるほどな……その話が本当なら、私様たちに頼るよりも、もっと大きな組織に助けを求めるべきだろう。例えば、この国を統治している〝ディオネロ帝国〟などにな」

「一人で行くのが不安なら、私様と久奈子が一緒についていこう……それでどうだ?」


 私様はディオネロ帝国まで同行することを提案した。だが、アービーは、どこか納得のいかない表情を浮かべる。


「国は……どうせ動いてもらえません。『政教分離』だとか、なんだとか……まともに相手してもらえないのが関の山です」

「そうは言っても、あたしと幻だけであなたをかくまい続けるのは無理があるわよ」


 久奈子が、もっともな指摘を入れる。


「それだけじゃありません……自分だけ逃げておきながらなんですが、一緒に逃げてきた友が、奴らに捕まったのです。彼女を助けないと――今頃、拷問を受けているかもしれません」

「お願いです! あなたたちの力を貸してもらえないでしょうか? 教団を潰して欲しいとは言いません、ただ――友を助けたいだけなんです!!」

「頼れるのは――あなたたちしかいないんです!!」


 アービーは、涙を浮かべながら、私様たちに土下座するように懇願してきた。

 一見すれば――教団に恐怖しながらも、友を助けようとする美しい友情愛。

 だが、私様にはどうにも引っかかるものがあった。


(……怪しい。なぜ、この女は私様たちを教団に案内しようとする? 私様たちの実力を知っているわけでもないのに……)


 私様はどうも、この女が信用できなかった。

 傍から見れば、教団の洗脳が解けた元信者に見えるかもしれない。

 だが――それはあくまで〝演技〟で、もしかしたら真の正体は、私様たちを教団に誘い込むための信者サクラかもしれない。

 それこそ、マインドコントロールによって、私様たちを新たな信者に仕立て上げるつもりで――


「……アービーさん、ちなみに教団の規模はどれくらいですか?」

「久奈子!」


 久奈子が、話に食いつくような素振りを見せたので、私様は思わず怒鳴った。

 だが、久奈子は意に介さず、アービーの目をまっすぐ見つめ、答えを待つ。


「計五名……いえ、計三名です! わたくしと友を除けば、教祖一名と信者二名の、計三名だけとなります!!」

「なるほど……敵は三名だけね。すみません、ちょっと、幻と二人きりで話させてください」


 アービーが頷いたのを確認すると、久奈子は私様を連れて、彼女の声が届かない場所まで移動する。


「今まで戦ってきた教団と比べれば……一番小規模じゃん! 幻とあたしなら、やれるよ!」

「久奈子、貴様本気なのか? アービーの話を信じると?」

「いや、別に百パー信じているわけじゃないよ? でも……でも、もしアービーさんの話が本当だったら、ここで見殺しにしたら、あたしはきっと後悔する」


 久奈子は遠くにいるアービーを見つめていた。

 その瞳は、まるで彼女に同情するかのように――いや、実際に同情しているのだろう。

 久奈子の良いところでもあり、悪いところでもある。

 誰にでも優しく、その者の立場に立って、共感しようとする。

 その優しさに、私様が救われたこともあった。

 だが――カルトというのは、こういう優しい人間を標的にして、食い物にしようとする。


「私様は反対だ。前にも言ったはずだ、『カルト教団は関わるだけ不幸になる存在だ。下手に首を突っ込めば、命がいくつあっても足りはしないぞ』――っと、勝算はあるのか?」

「――別に、今回はカルト教祖を倒す必要はないじゃない? アービーさんの願いは〝友を助けること〟。それなら、あたしたちのファントム魔術で、敵三名に掛けることさえできれば……簡単に達成できるはず」


 久奈子は、まっすぐに私様の目を見つめてくる。

 こうなった久奈子は、頑固だ。中々うんとは言わない。


「ハァ……わかった。アービーのためではなく、貴様のために協力しよう……だが、久奈子、これだけは約束してくれ」

「約束?」

「ああ。もし、少しでも危ない目にあったら、〝自分の命を優先して逃げること〟。

 そして……もしアービーが信者――つまり、グルだった場合、私様はアービーを仕留めるかもしれん。その時は、止めないでくれ」

「これらを約束するなら、協力する」

「……うん、わかった。その時は、幻の言う通りにする」


 私様も、最終的にはアービーの〝友〟を助けることに同意することにした。

 そして、アービーのもとへ戻り、それを伝える。


「ありがとうございます――本当にありがとうございます……!」


 アービーは、何度も頭を下げて礼を述べる。


「それで、その教団はどんな教団なんだ? アービー」


 私様は単刀直入に問いかける。

 アービーは、小さく息を整え、そして答えた。


「その教団の名は……ダエーワ・ファミリー」

「わたくしのような、オーガ族で構成された教団です」



 次回、一応、この世界でカルトが多い理由について説明したいと思います。

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