12.「何者かになりたい」 後半
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久奈子の話は続く。
「前の世界では、教祖の娘として生まれ、そして教祖までやった……新しき世界では、最も希少なスキルタイプ・コネクトに該当している」
「幻は、どちらの世界でも〝普通〟とは違う人生を歩んでいる。本当に特別な人間。漫画やアニメなら、主人公かラスボスにだってなれる存在」
「対するあたしは……前の世界では誇れることなんてなかった。頭も運動も並み程度。働いていた会社も中小企業で、その辺にいる女と変わらない。しかも、スキルタイプはありふれたオールラウンド」
「漫画やアニメなら、脇役……いや、モブ扱いだよ。幻と一緒にいると、ときどき、自分がみじめに思えるの」
「……ごめんね。幻は一切悪くないのに」
「……久奈子」
こんな弱気な久奈子、初めて見る。いや、今まで私様の前では、弱さを見せていなかっただけなのかもしれない。
「――フッ。教祖をやったといっても、開祖からならまだしも、私様がやったのは〝教祖の娘〟として生まれたからだ。医者の子が医者を目指すように、職人の子が家業を継ぐように、ただ親の真似をしただけ……いや、真似を強いられただけ。特別でもなんでもない」
「……でも、でも、それでも、あたしは何者かになりたかった。幻みたいに普通とは違う人生を歩んでみたかった」
「久奈子。そもそも〝普通〟ってなんだ? 私様にとっては、教祖の娘として生きるのが普通だった。世間から避けられる目で見られるのも、入学を妨害されるのも普通だった。私様からしたら、むしろ貴様の人生の方が特別に思える」
私様は久奈子の手を握る。
「それに、私様が魔術を使えるのは……貴様のおかげだろう」
「幻……」
「オールラウンドの貴様が魔力を渡してくれたからこそ――貴様の魔術を私様も使えるのだ。もしお互いがコネクトだったら、意味がないだろう? 極端な話、貴様にとって私様がいなくなっても困ることはない。だが……私様にとっては、貴様がいなくなると――困ってしまう」
「何者かになりたいというなら……久奈子、貴様はすでに私様にとって〝唯一無二の相棒〟だ」
「……」
久奈子は沈黙する。
我ながらクサいセリフを言ったと思う。らしくないし、恥ずかしい。顔が赤くなっているのがわかる。だが、それでも久奈子には伝えたかった。
やがて、久奈子は笑顔を見せ――
「そうだよ……そうだよね。あたしたち相棒だもんね! 幻」
「フッ。やっといつもの久奈子に戻ったか」
「――ったく、しょうがないよね。幻はあたしがいないと駄目なんだから。しかも、もし幻とあたしが戦ったらあたしの圧勝。渡した魔力を返せって念じるだけで、幻は魔術を使えなくなるし」
ドヤ顔でやれやれポーズをとる久奈子。聞き捨てならん。
「な、なんだと!? 直接戦えばそうかもしれんが、総合力なら私様の方が上だ! 魔術のセンスは私様の方がある。貴様が覚えた魔術だって、私様の方が使いこなしているだろう!」
「な、なんですって!!」
おかしいな……ネガティブになっている久奈子を励ますつもりだったのに、いつの間にか私様と久奈子はおでこを突き合わせて、睨み合っていた。
だが、またいつの間にか――
「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」」
また、お互いに笑いあった。
きっと傍から見れば、「こいつら何をしているんだ?」と思われるだろう。
だが、それが楽しい。
前の世界を含め、こうして笑い合える相手に初めて出会った。
それが嬉しい。
焚き火の火を消したあと、私様と久奈子は眠りについた。
――そして、次の朝。
私様の目がふと覚めると、隣に久奈子の姿がなかった。
(……どこかへ行ったのか?)
そう思い、身を起こしたとき、やや遠くに久奈子の姿が見えた。
だが――
久奈子の傍らには、もう一人の影。
その者は久奈子より一回りも大きな体格で、全身が青い肌をしていた。
そして両肩を掴み、険しい表情で久奈子に迫っている。
久奈子は、怯えを隠しきれない顔をしていた。
(人間!? いや……あの巨躯に青い肌……間違いない、あれは大鬼族!)
そのオーガ族は、大きな口をガバッと開き、久奈子に迫ろうとする。
「久奈子!」
私様はなりふり構わず、久奈子の元へ駆け出した。
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