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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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11.「やめんしゃい!」

 今回のエピソードは、時系列だと3.「相棒」の続きとなります

(新しき世界に来てからも、色々あったな。久奈子との出会い、そして、久奈子から魔力を受け取り、神仙しんせん教のカルト教祖・サイ・オウボウとの戦い……さらに今回の、知識の(ナレッジズ・)ゲートのカルト教祖・レウコスとの戦い……こうして振り返ってみると、私様の人生は、なぜかカルトと縁深い)

「相棒? ……幻? ……げーん?」

(そして、今も久奈子とは、なんだかんだで一緒に旅を――)

「幻ってば!!!」

「うわぁ!? な、なんだ久奈子?」


 私様が「神鬼魔鏡」教団の教祖となった経緯から現在までを回想していたら、いきなり隣に座る久奈子に怒鳴られた。


「さっきから何度呼んでも反応しないから……もしかして、また、昔のことを考えていたの?」

 ――ギクリッ!

「……ああ」


 久奈子は、私様の胸の内を言い当てた。


「ハァ~~、幻の悪いところだよね……そうやって、いつまでも過去を引きずるところ……」

「幻は前の世界で死んだ……なら、前の罪はそこで清算でいいじゃない。いい加減忘れて、新しき世界では新しい人生を――」

「私様は忘れてはならないと考えている」


 励ましの言葉を受けながらも、私様はハッキリと否定する。


「これは生涯忘れてはならない罪だ」

「……幻」

「泉生に殺されていなければ、その末路は、間違いなく母のような鬼畜カルト教祖になっていた。そして……私様が行動しなかったせいで、寺島は死に――曽根弥と泉生に、手を汚させることになった」

「やめんしゃい!」

 ――バキッ!

「ぐはっ!?」


 突如、頬に衝撃。

 久奈子がいきなり殴ってきたのだ。


「あっ、しまった。つい癖の方言が出ちゃった!」


 久奈子は、パンチしたことよりも、自分の博多弁が出てしまったことに驚いていた。

 そして私様は、殴られた痛みよりも――前の世界を含め、生まれて初めて「人に殴られた」という事実の方に衝撃を受けていた。


(あの女でさえ、私様を殴ったことなどなかったのに……)


「お客さん!? やめてくだせぇ! 喧嘩はよくないですぜぇ!」


 御者のマジドが馬車を止め、私様たちを宥めようとする。


「ああ、すみませんマジドさん。お騒がせしました。もう殴りはしないので、安心してください」


 久奈子が謝罪し、再び私様へと振り向く。


「幻! いい加減〝悲劇のヒロイン〟ぶるのをやめなさい! ネチネチとみっともない!! 同情でも誘っているつもり?」


 久奈子は私様にガミガミと説教を浴びせる。止まらない。


「漫画とかであんたみたいなキャラが出てくると――イライラするのよ!! WEB漫画だったらコメント欄でボコボコに叩かれているわね。下手したら、そのキャラを出した作者まで叩かれている! 『陳腐なんだよ! そんなキャラ好きになれるか!』――って、作者に説教するために書き込むレベルよ!」


 話の内容はまったく意味がわからない。だが久奈子は、とにかく私様を説教し続ける。


(――思えば、こうして説教されるのも初めての経験か?)


 教団側では、母から説教されることもなければ、従者から説教されることもなかった。

 世間側でも、学校の教師や大人たちから相手にされることはなく――まるで存在しないかのように扱われていた。

 まあ、それも当然といえば当然だ。私様の生い立ちを考えれば。


「……幻、またマイナスなことを考えているでしょ?」

 ――ギクリッ!

「幻、正直言って、あたしはあんたの気持ちはわからない。宗教なんて、日本人にとっては〝なんかヤバそうだから近寄らない方がいい〟って思うのが普通でしょ。あたしもその一人」

「……そう思うのが正しいかもな。現に私様がいた教団はカルトだった」

「でも今のあんたはもうカルト教祖じゃない! 元! も・と・カルト教祖よ!! この世界では、ただの一人の女に過ぎない! スキルタイプが特殊なのは認めるけど」

「……久奈子」


 胸の奥に、不思議な感覚が広がる。なんだ、この気持ちは。


「もうあんたは神鬼魔鏡とは関係ない!! いつまでも過去に囚われてんじゃない!!」


 荒げた声を出し続けていた久奈子は、「ハァ……ハァ」と息を切らし、やがて落ち着いた声で言葉を紡ぐ。


「……それでも、それでも、過去のことでネガティブになるなら――寺島さん、曽根弥さん、泉生さん。その人たちへの謝罪と後悔の念を忘れなければいい。ただ悲劇のヒロインぶるんじゃなく、〝過ちから現在いま以降をどう生きるか〟を考えればいいじゃん」

(過ちから現在いま以降をどう生きる……?)


 思ってもみなかった考えに、心が揺さぶられる。


「……過ちを忘れなければ、あんたはきっと同じ失敗を繰り返さないよ。そして――」


 久奈子は言葉を続ける。


「殺された寺島さんは、この新しき世界にいるかもしれない。曽根弥さんや泉生さんも、いずれ来るかもしれない。その時はちゃんと謝ろう。あたしも一緒に謝るから」


 久奈子の澄んだ黄緑色の瞳が、優しく私様を見つめる。

 それは、見つめるだけで己の瞳まで澄んでいくような――心が浄化されるような不思議な感覚だった。


「……そうかもな。久奈子、貴様の考えが正しいのかもしれない」


 久奈子の説教に、心が救われた気がした。

 煙のようにまとわりついていたモヤモヤが、晴れていく。


 そして、私様と久奈子は、そろそろ馬車から降りることにした。


「あざっした! 6銀貨シルバーと50銅貨ブロンズとなりますぜぇ」


 6銀貨と50銅貨――日本円にすると、およそ6千500円。

 私様はちょうどの金額をマジドに渡した。


「おふたりさんとも、喧嘩はほどほどに、仲良く旅してくだせぇよ!」


「「あ」」

 私様と久奈子は、思わず同時に声を上げてしまう。


 そうして御者のマジドと別れ、ここからは、また私様と久奈子、二人だけの歩みとなった。

 相変わらず、行き先も決めていない気ままな旅。だが、久奈子が隣にいる――ただそれだけで、歩ける。

 流石は相棒か。


 ……そういえば。

 今になって気づいたが、教祖時代にあった両目の濁りが、いつの間にか消えている。

 新しき世界に来てからなのか、それとも、久奈子と出会ったおかげなのか。

 世界を映す私様の両目は――今日も、美しく澄んでいた。






 久奈子に殴られた場面――「お袋にもぶたれたことないのに!」という某名台詞のパロディが浮かんだのはナイショ♡

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