10.「君がこれから生きていく新しき世界の案内人さ」 後半
新しき世界? 魔術? 魔力のスキルタイプ? 一体何の話をしているんだ。
「色々と気になるだろう。だが、ちゃんと順を追って話す――と、その前にこれだけは言っておこう」
白き世界の何者かは、前置きするかのように言った。
「うん?」
「君がこの白き世界に居られる時間は限られているんだ。君たちの時間単位で表すなら、約10分だ。10分ほど過ぎたら、君は新しき世界へと飛ばされる。だから、僕の話はちゃんと聞いた方がいいよ。当然、僕もわかりやすく説明することは心がけるけど」
「というのも、前回、僕がそのことを忘れていてね……てら、いや、インチキ教祖君には大分迷惑をかけてしまったからさ」
「――インチキ教祖? ハッ、おかしな名前の奴もいたもんだな」
何者かの話よりも、「インチキ教祖」という名前のインパクトに反応してしまった。
これは私様が教祖をやっていたから、余計に反応してしまったのだろうか。
教祖ということは、何かしらの教団の長をやっているのだろうが、自ら「インチキ教祖」と語るということは……ひょっとしてギャグでやっているのか?
「彼の話は……よそう。話が脱線するし、プライバシーに関わるしね。まあ、運が良ければ新しき世界で会えるかもね」
「いや……別に会いたくはないのだが」
話の流れから、その「インチキ教祖」とやらも新しき世界にいるのだろうが、別に会いたいと思うほど興味はない。
いや、そもそも私様は、その新しき世界とやらにまったく興味がないのだ。
何者かの話は続く。
「よし、そろそろ本題に入ろう。まず魔術のことだが――『いらん』」
「えっ?」
当然と言えば、当然かもしれないが、何者かの声に戸惑いがあった。
「くだらん。私様は、魔術も魔力のスキルタイプとやらも、まったく興味がない。聞くだけ退屈だ」
「さっさと――その新しき世界とやらに、私様を飛ばせ!」
「…………ええっ!? ちょ、ちょっと待って! 君が生きやすくするためにも聞いておいた方がいいよ? 一応ね! 新しき世界の法則は、君がいた前の世界とはまったく違って――」
「だから、いらん! 私様は、別に生きていたいわけじゃないし――それとも、制限時間を過ぎないと、新しき世界とやらに行けないのか?」
「いや……そんなこともないけど――僕がその気になれば、すぐにでも新しき世界へ飛ばすことはできる」
「……でも、君みたいなタイプは初めてだよ。普通は、皆、制限時間まで情報を得ようとするのに……」
「私様は、ゲームのチュートリアルが嫌いなのだ……操作方法も、ゲームの進め方も、プレイしながら体で覚えたい派だしな。興味が持てない長話なんて、聞いていられない」
私様の返答に、何者かはしばらく黙った。
当然、新しき世界では、己の命がかかっているだろうから、ゲームと違って生き返りはできないのだろう。それくらいのことは理解している。
「本当に……いいんだね?」
「ああ」
でも、死ねばそれまでの話だ。私様は己の選択に後悔などない。
「ハァ~~、じゃあ、わかった。君を新しき世界に飛ばそう。今すぐに」
何者かは、説得に応じないとわかると、すぐに折れるようなトーンで言った。
すると、私様の身体はだんだんと透明になり、白き世界から消えていった。それはつまり、新しき世界へと飛ばされるということだ。
「だけど――」
今にも消えかけている私様に向かって、何者かがまだ話しかけようとする。
「なんだ、話はまだ続くのか?」
「だけど――君の〝魔力のスキルタイプ〟とその〝特徴〟、この二つだけは君の頭にインプットしておこう」
「一応、この白き世界では転生者にスキルタイプを教えることが法則なんでね。悪いけど、無理矢理でも理解してもらうよ」
――キュィイイイイイイイイン
「な、なんだ!?」
私様の頭にチップを埋め込まれたように、何かが入り込んだ感覚に襲われた。
そして、その正体は情報だった。私様は無意識にその情報の内容を口にした。
「私……様の……スキルタイプは――」
「――それでは、行ってらっしゃい。この先は君の目で確かめてくれというやつだ」
その言葉を最後に、私様の視界は、白き世界から死んだときに見た暗黒の世界へと変わっていった。
◇
「行ったか……」
幻鏡が、白き世界から消え去った後、何者かが、一人で呟く。
「……まさか、驚いたよ――二人連続で『コネクト』に該当する者が現れるなんてね……これは史上初じゃないか?」
何者かは、何かを悟ったのか、「フフ」と小さく笑った。
そして、次に予言めいたことを告げた。
「インチキ教祖と幻鏡――彼らなら本当に出会うかもしれない」
「スキルタイプ・コネクト……新しき世界で、それに該当する者と出会うのは、本来、一生に一度あるかないかほどの確率だが……」
「なぜか、コネクト同士はいつの時代も出会ってきた。それは、運命の赤い糸のように、宿命の定めかのように……まさに『コネクト』という名前に由来するように」
「――もっとも、出会った先が、幸か不幸かは……それは彼らの選択次第だ」




