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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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8. 濁りゆく瞳、待ち受ける刃

 曽根弥が寺島を殺した事件から、一ヶ月が経とうとしていた。

 事件当初は、マスコミや世間から滅茶苦茶に叩かれ、その対応に追われ続けていた。

 今もなお、ほとぼりが冷めているとは言えない。だが、それでも事件当初に比べれば、落ち着いてきた気がする……いや、それは私様の感覚が麻痺しているだけなのだろうか。

 だが、変わったのはマスコミや世間だけではない。教団の内部にも大きな変化があった。


 ――それは、従者の脱会。

 曽根弥が殺人を犯したからか。あるいは、これまで教団を導いてきた母が、まるで逃げるように姿を消し、頼りない娘である私様が教祖に就いたからか。あるいは、そのすべてが重なってのことか。結果として、五十人を超える従者が教団を去った。

 その中には、家族や知人、脱会支援団体のサポートで去った者もいれば、自らの意思で去った者もいた。

 つまり、従者たちすべてが盲目信者というわけではなかったのだ。

 あるいは、これまで盲目であった者たちの中にも、今回の事件をキッカケに目を覚ました者がいたのかもしれない。


 しかし、肝心の教祖である私様は――未だに教団を解散してはいない。その理由は、「教団が無くなれば困る従者がいるから」――嘘だ。

 本当は、私様自身が変わりたくないからだ。変わることが怖いからだ。

 結局、私様自身は、教団に何ひとつ変化を起こしていない。

 変わっていないのは――私様だけ。

 ……いや、一つだけ変わったところがある。

 不思議と、見る景色が前よりも()()()()()()感じられるのだ。

 疲れや寝不足のせいだろうか。世界を映す両目が、以前よりも汚れてしまった気がするのだ。


「今朝、神のお告げを聞いた! その御言葉によれば、本日も修行に専念せよということだ!! マスコミや世論の声に惑わされるな。むしろそれらを修行における苦行と思い、励むがよい」


 私様は、いつも通り、朝会で鬼道による神の声を従者に届ける。

 当然、鬼道や神の声など――いんちきだ。

 従者が教団を離れないようにするため、今日もまた嘘をでっち上げて伝える。

 従者を騙すことに、心を痛めぬわけではない。だが、それならそもそも嘘を吐かなければいいのに、なぜか今日も私様は嘘を吐いている。

 一体、私様は何をしているのだろう。あれほど、あの女を軽蔑し、憎んでいたのに……これでは、まるであの女と同じやり方――


 ――妾様だって、そなたと同じ時期があった。だが……〝結局、何も変えられなかった〟。妾様もまた、母と同じ道を辿った


 そのとき、あの女――母の言葉が頭をよぎった。

 あの女はあれから消息不明となった。

 愛用の(グッド・)男性従者ルッキングガイと今もよろしくやっているのか、あるいはどこかで野垂れ死んでいるのか……知る由もない。

 だが、探そうとは思わない。生きていようが死んでいようが、正直、どうでもいい。

 それよりも私様は、事件への対応、教団の混乱を収めるのに、日々追われている。

 それよりも、今は――正直……疲れた。


 ――精々悩み、あがき、もがき、そして苦しむといい。そなたも鬼道の使い手……やがて妾様たちと同じく、鬼の道へと堕ちるその時まで……

 ――その両の瞳も、いずれは濁るでしょう……鏡のような娘よ……


(ああ、そうか……結局、私様もあの女のような人間になるのか……)


 今になって、呪いの言葉が身に沁みる。

 私様は、あの女のような人間になりたくないと願いながら、何も変える行動も努力もしていない。

 それどころか、あの女と同じ人間になることを、どこかで受け入れつつある。

 いずれ私様は、鬼道による嘘を従者に伝えることに、何の痛みも感じなくなるだろう。

 そしてあの女――歴代教祖たちがそうであったように、私様もまた愛用の(グッド・)男性従者ルッキングガイを作り、その内できた子を虐待ネグレクトし、その子もまた……そうやって、この教団は繰り返し、維持されていくのだろう。永遠に。罪なき一般人を死なせても尚。


 私様はふと、鬼道の修行のため瞑想にふける従者たちを見渡した。いや、正確には――目を向けているのは、男性従者ばかりである。


愛用の(グッド・)男性従者ルッキングガイか……セックスって気持ちいいのか?)

(気分転換に……今夜経験してみるか……)


 ペロリと舌なめずりをしたあと、私様は一度休むために部屋へと戻ろうとした。

 番人の従者に軽く挨拶を交わし、襖を開けて自室へ入る。

 そして、教祖になってからいつの間にか習慣となった、煙管による一服を始める。


「……ぷはー」


 紫煙を吐き出しながら、今夜は誰を選ぶか――そのことに思いを巡らせていた。


 ――そのときだった。


 スゥ……


「待っていたわよ……幻鏡。いや、第六十代目神鬼魔鏡教団の教祖よ……」

「!」


 寝室の方から、すーっと襖が開く音と同時に、女性の声が響いた。

 その声に、私様は聞き覚えがあった。


 振り返ると――


 そこに姿を現したのは、池上泉生だった。

 殺人事件を起こした曽根弥の妻であり、一年前に教団を去ったはずの元従者。

 なぜか、彼女がそこにいた。

 その手には、刃渡り二十センチほどの包丁を握りしめて――。


 今章の主人公・社陸幻鏡と、その相棒・大口久奈子のイラストをXに公開しました!

 ぜひご覧ください!!

 https://x.com/MMNAsatsukiyoru

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