3.「相棒」
幻鏡と久奈子は旅を続ける。
「いや~~今回の敵は、楽勝で良かったね! 幻!!」
「楽勝……か。レウコスはまだしも、門徒には強そうな者もいた。運に助けられたところもあるぞ」
「だが、運も実力のうちと考えるなら……確かに楽勝だったな。私様たち」
「んもう、こういう時くらい素直に喜ぼうよ。幻! いや相棒!」
私様と久奈子は、タクシーに乗るように馬車に乗っていた。御者は、ゴブリン族のマジド・サーイク。
本来ゴブリン族といえば砂漠地方に住む種族だ。この山岳地方シン・マーヤで見かけるのは珍しい。
「お客さん、あそこの岩塊を見てくだせぇ。彫刻みてぇに美しくって、この辺りじゃ観光スポットになってるんでさぁ」
馬の蹄がパカラッ、パカラッと規則正しく響く。進むあてもなく気ままな旅路。澄んだ空気と共に流れる景色は、まあ、悪くはないものだ。
しばらく景色を眺めていたところで、久奈子がトントンと私様の肩をつつき、話題を振った。
「ねぇねぇ相棒、そういえば次は、どんなカルト教団を潰すの? また知識の門のときのように、信者のフリをして潜入する?」
「……カルト教団を潰す? 何だいきなり。その言い方じゃ、まるで私様たちが積極的にカルト教団を狙っているみたいじゃないか。一応言っておくが、前回も今回も私様たちは巻き込まれた側だ。好きで潰しているわけじゃない」
「ええ~~!? そうなの? てっきり――幻、いや相棒はカルト教団に恨みがあると思っていたよ!!」
――そういえば、自己紹介が遅れていたな。もっと早くに言うべきだった、なんて言わないでくれ。さっきまで忙しかったのだから。
先ずは、このやかましい相棒から紹介しよう。
彼女の名は、大口久奈子。
見た目はナチュラルボブの髪型に、黄緑色の髪と瞳。身長も胸も私様より小さめだ……おっと、しまった。胸は余計だったな。
服装は、髪色と瞳色に合わせて、上半身には肘までしかない蛍光黄緑のショート丈小袖。それを桃色の帯で蝶結びにして背に結んでいる。下半身は袴風のミニスカート、足元は黒の編み上げ足袋ブーツだ。
彼女は、この世界で生まれ育ったのではなく、私様と同じく前の世界からやってきた人間らしい。
性格は、このように明るく活発的で、どこか抜けているような子。
私様は二十六歳で、久奈子は二十八歳。私様より二つ年上だが、彼女は年齢の割に子供っぽい性格をしている。だからこそ、どこか放っておけない奴だ。――まあ、その明るさに助けられているのも、否定はできないがな。
「恨みか……どうだろうな。カルト教祖には嫌悪はあれど、恨みまで持っているかと言われると……正直わからない。ただ……」
――そして、私様こと社陸幻鏡。
髪はパープルブラックの長髪。右目は久奈子と同じ黄緑色、左目は髪色と同じ紫色――いわゆるオッドアイというやつだ。
服装は、あの〝邪馬台国の卑弥呼〟を思わせるようなもの。上半身には淡紫色の上衣をまとい、外套は紺と白を基調とした長衣。腰には赤い帯を結び、下半身は裾を赤で彩られた衣を着ている。要するに、豪華な衣装をまとった巫女を想像してくれればいい。
足元には、異彩を放つニーハイブーツを履いている。
「……カルト教団は関わるだけ不幸になる存在だ。下手に首を突っ込めば、命がいくつあっても足りはしないぞ」
「だから、私様はむしろ――カルト教団なんぞ関わりたくはない」
「流石詳しい。元カルト教祖様だけあって言うことが違うね」
「……昔の話だ、久奈子」
久奈子の言う通り、私様もカルト教祖だった時期があった。
それはこの新しき世界ではなく、前の世界で生きていた頃の話だ……。
正直に言えば、思い出したくもないし、振り返りたくもない。
だが――忘れてはならない。否、振り返らねばならぬ罪。
今一度、私様は振り返る。この新しき世界へと転生するに至った、その経緯を。
それは、私様が「神鬼魔鏡」教団の教祖となる、さらに前まで遡る――。
次回、社陸幻鏡の過去回想が幕を開ける。




