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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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1.「カルトを狩る元カルト教祖」 前編

「門徒の諸君! これより血の儀式を始めよう」


 とある館の一室にて。

 人間族、ドワーフ族、獣人族……さまざまな種族が集められ、いままさに儀式が始められようとしていた。

 部屋の壁には、己の尾を噛む蛇――ウロボロスの紋章。

 床には、血を思わせる赤き文字で描かれた魔法陣のような紋様。

 そして中央に据えられた台の上には、紫とも黒ともつかぬ長髪の女性が横たえられていた。

 その台の前に立つのは、片眼鏡をかけ、短剣を握るドワーフ族の男性。

 彼の名は――レウコス・カルポース。

 この館の名は「知識の(ナレッジズ・)ゲート」。

 表向きには種族を問わず、孤児や身寄りのない者を受け入れる居場所とされていた。だが、その実態は――館に住まう者たちへレウコス・カルポースの教えを刷り込み、カルト教団さながらの組織へと変貌していた。

 教祖たるレウコスは「先生ティーチャー」と呼ばれ、信者は「門徒」と呼ばれることが定めとなっていた。

 レウコスは、ゆるやかに儀式を進める。


「今から彼女はここで死ぬ、この先生ティーチャーが殺すのだ……だが、門徒たちよ、恐れてはならない」


「死は決して終わりではない。むしろ〝死〟という行為は、この悪しき偽物の世界から真なる宇宙の世界へと行けるための〝門の鍵〟となるのだ」


 横たわる女性は眠らされているのか、それとも死を覚悟しているのか……あるいは、すでに命を落としているのか。一切の動きは見られない。

 レウコスは短剣を高く掲げた。


「至高神よ……この先生ティーチャーの行いを見て下され。この死を――あなた様に捧げます」


 そう言って短剣を振り下ろした、その瞬間――。


 バシッ!


 横たわっていた女性――いや、私様が、突如レウコスの腕を蹴り上げ、短剣を弾き飛ばしたのだ。


「い、いたぁ!! な、何事なのだ!?」

「ティ……ティーチャァア!?」


 レウコスは蹴られた腕を押さえ、私様の行動に驚愕していた。門徒たちも同様にざわめき立つ。

 いいだろう。茶番もそろそろここまでにしよう。


「フン! 長々とした演説もこれで終わりか。退屈すぎて、本当に眠ってしまうところだったわ」


 犠牲者を装い台に横たわっていたのは……何を隠そう、この私様こと、社陸幻鏡様であった。

 私様はすかさずレウコスを捕らえ、銃で脅すようにそのこめかみに人差し指を突きつけた。


「げ、幻鏡……お前、何を――」

「動くな。命が惜しければ無駄な抵抗はしないことだ……もっとも貴様が自分の教えを()()に信じているなら、こんな脅しなど無意味のはずだがな」


 レウコスのスキルタイプはヒーラー。しかも、こいつの戦闘能力が低いことは、とっくに把握済みだ。

 実際、普段は尊大な態度をとるこいつも、今は怯えに震え、身動き一つ取れない。

 門徒たちも同じく、凍りついたように立ち尽くしていた。


「な、何をしている門徒ども! この先生ティーチャーを、さっさと助けんか――っ!」

「お、お言葉ですが、先生ティーチャー。我らが下手に動けば、あなた様の命が……」


 そう、門徒たちもすでに理解していた。――私様がレウコスを人質にしているという事実を。


「何を怖れている? 貴様なら真なる宇宙の世界とやらに行けるのだろう? ならこのまま死んでもいいじゃないか?」


 私様の冷笑に、レウコスは「ぐぬぬ」と言いたげに顔を歪める。そして、こいつに私様はひとつの提案を投げかけた。


「レウコス、貴様に最後のチャンスをやろう。今すぐ門徒たちに、自らの教えが〝いんちき宗教〟であったと白状し、この館を去れ。二度と戻ることも許さん。……そうすれば命だけは見逃してやろう」

「なっ、なんだと!?」

「10秒だけ待ってやる。10数えて、それでも白状しなければ――この場で殺す」

「10……9……8…」

「く、くそぉ……な、なら……しょ、しょうがない……み、認め……」


 レウコスは命惜しさに、要求を呑もうとする。


 だが――。


先生ティーチャー……わ、私は……死んでも、真なる世界(プレロマ)に行けるのでしょうか?」

「ヴァレンティヌス!?」


 声を上げたのは、人間族の門徒ヴァレンティヌス。

 問いかけに一瞬戸惑ったレウコスだったが、やがて何かを思いついたかのように、ニチャァと下卑た笑みを浮かべた。


「そうだ……ヴァレンティヌスよ。いや、我が愛しき門徒たちよ。今すぐ全員で先生ティーチャーを助けよ! たとえここで死んだとしても、それは誇るべき殉教。真なる世界(プレロマ)へと至ることを、この先生ティーチャーが約束しよう……!」

「レウコス! 貴様……!!」


 自らの保身のために、門徒の信仰を利用するレウコスの姿に、私様は吐き気を催すほどの嫌悪を抱いた。

 まるで、()()()のような人間性だ。こいつの性根はわかった。やはり、カルト教祖とはこんなものばかりか。


(こんな奴、生かしておけるものか!)


 私様は魔術を発動し、トドメを刺そうとした――その瞬間。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ヴァレンティヌスが絶叫し、私様めがけて突進してきた。


「久奈子!!」

「わかっている!!」


 同じくスパイとして門徒に潜り込んでいた仲間――久奈子が割って入り、ヴァレンティヌスの動きを制する。

 彼女は鋭い肘打ちをみぞおちに叩き込み、一撃でヴァレンティヌスを気絶させた。


 本エピソードに登場した、ナレッジズ・ゲートのカルト教祖の「レウコス・カルポース」。

 レウコス・カルポースという名は、ギリシャ語で「白い果実」を意味します。


 数分後、後編投稿予定です。

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