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11.「あれが悪魔」

 真実教の男性教徒が暮らす施設に着いたインチキ教祖とジュダス。在家教徒も入信希望者でも聴聞ちょうもんすることができる週一の説法会。説法会はこちらの施設の中の道場で開催される。ジュダスと同じ、黒服のカンフーのような服装を着た、エルフ族の者達も続々と道場の中に入っていた。インチキ教祖も道場の入り口付近まで近づいていた。


「しかし、ジュダスの家でも見たあの不気味な目のマーク、やっぱり真実教のシンボルマークだったのか。すると、集落で見たあの変な黄金像のおっさん。あれがウンコウとやらをモデルに彫刻されたものかな? なあジュダス。ジュダス?」


 先ほどまで、そばにいたジュダスの姿が急に消えた。あたりを見回すと、入り口から離れた林付近にジュダスと男女のエルフが何やら話し合っている雰囲気だった。

 インチキ教祖はジュダスが気になり、ジュダスの元に向かうのだった。


 ◇


「ウンコウ様も認めているようにジュダス。あなたには才能がある、出家してここで修行した方が、あなたの魔力が強まり、魔術の才能も伸ばせるって。いつまで迷っているの?」


「そうだぞ。タマル様の言う通りだ。真実教と出会う前からもパパはいつも言っていただろう? 優れた才能を持つ者はその才を世に活かすべきだと。そしてウンコウ様の言う通りにすれば、それが一番世の中の為になるんだ」


「そう言うけど、肝心のママもパパも魔力が成長しているどころか、退化してるじゃない! 出家する前のママとパパとの方が、健康的で魔力も強かったわ。修行が正しければ、今頃ママとパパの魔力も前より成長しているはずじゃない」


「あなた……ウンコウ様の……真実の修行を疑うというの!」


 真実教を否定するかのような反論をしてしまった私に対し、今にも首を絞めてきそうな勢いで急にヒステリックになるママ。ママの態度に私は怯み、ママをなだめるために慎重に言葉を選ぶ。


「……そうじゃないけど、魔術訓練校で訓練した経験もあるし、自分なりに魔術の勉強法、トレーニング法は確立しているつもりだわ。もちろん真実の修行が無駄なんて言うつもりはないけど」


「だいたい、魔術訓練校なんてママ反対だったんだから! 訓練校に通っている時間があったらさっさと出家して修行していた方が、今より遥かに成長していたわ。それなのにカリオテが外の世界を知ってみるといいなんて言っちゃって、ジュダスを行かせたんだから」


「はい……すみません。タマル様。あの時の私が間違っていました。」


「カリオテは真実を知らないから間違える。本当にダメな夫だわ。だから私よりも地位が低いのよ!!」


 グチグチとパパに八つ当たりするママ。パパは申し訳なさそうな態度で「はい」と言いながらと頷き続けるのだった。


 当時、魔術訓練校に通いたいという私の願望に対し、ママは心配して、ナレーザから出ることを反対していた。しかし、パパは私の強さなら大丈夫だからと、背中を押してくれた。心配してくれるママも嬉しいが、それ以上に私の思いを尊重してくれた、パパの言葉が嬉しかった。


 最終的には、ママも了承し、ナレーザから出発する私を両親は笑顔で見送ってくれた。両親の期待に応えるためにも精一杯訓練してきたというのに、後から訓練校に行ったのは間違いだったと一方的に言われて複雑な気持ちを抱いた。


 でも、それ以上にママがパパにあたる態度が酷くて見ていられなかった。私がナレーザに帰ったときは、既にママとパパは出家している立場となりその時から、ママとパパの関係はこうなっていた。訓練校に通う前は家族全員、在家教徒の立場だったけど、ママとパパは仲良しでこの温かい家庭が私は好きだった。


 私も結婚したらママとパパみたいにいつまでも仲良しな夫婦でいたいなと思っていたのに……出家した以上、立場を守らないといけないのか、パパを呼び捨てにするママとママのことを様付けするパパを何度見ても受け入れられなかった。


「何度も言うけど、本当に出家しないといけないの? 在家のまま教えを学ぶのは駄目なの? これも何度も言っているけど、私はむしろママとパパに家に帰ってきてほしい。そして叶うことなら、昔のように仲良しだった頃のママとパパに戻ってほしいよ!!」


 真実教から脱会は考えられない。真実教に疑問に思うことはあるけど、脱会した後は、死ねば終わりなき地獄の苦しみが待っていると思うと怖くて抜け出せないからだ。


 でも……もし家族全員在家教徒の立場で一緒に暮らす生活に戻れたら……仲良かった頃のあの二人に戻れるかもしれない。私はその可能性を……希望が捨てきれない。


「馬鹿言わないの! 今更在家に戻れるわけないじゃない!!! 今までのママの修行を全部無駄にしろって言うの?」


 私の思いを馬鹿と一言で切るママ。在家に戻ってほしいと主張する私と出家しなさいと主張するママとパパ。いつもこうやって話は平行線になる。


「今度とばかりはもう待っていられませんからね! あなたは早急に出家しないといけないの。じゃないとウンコウ様の命が……真実教が……なによりあなたの命が危ないのよ!!」


 急に私の腕を掴んで引っ張るママ。


「いっ痛いよママ。急になにするの!」


「タマル様!? いきなりどうしました? 流石に無理やり出家させるのは、教え的にもどうかと。ジュダスも痛がっていますし……」


 ママと同じで私を出家させたいはずのパパもママの急な態度に驚いているようだ。


「うるさい。あんたは黙ってジュダスをウンコウ様のところに持っていくのを手伝いなさい! 手遅れになる前に! 悪魔に呪い殺される前に! ジュダスに禊を受けて貰うのよ!」


 手遅れ? 悪魔? 禊? 何のことを言っているの? ママの言葉にパパも理解していないらしく、ママを手伝うべきか悩んでいるようだった。そんなときに。


「あのう……取り込み中すみません。俺の信者が何か迷惑でもかけましたか?」


 インチキさんが、急に割って入ってきた。俺の信者とは私のことだろうか? 聞き捨てならないな。


「困るな。俺の信者に用があるとしてもまずは俺に話を通して貰わないと」


「俺の信者? ……というかあなた誰よ? これはうちの家庭の話ですから、部外者は口を挟まないでくれません?」


 見ず知らずのインチキさんの介入でママは戸惑いながら私の腕をつかんだままその場で歩みを止める。


「よくぞ聞いてくれた。まず自己紹介からだな。俺は宗教インシュレイティド・チャリティの教祖をやっています。インシュレイティド・チャリティだ。俺のことは、インチキ教祖と呼んでくれ」


 宗教の教祖と聞いて余計に驚くママとパパ。インチキさんの話は続く。


「うちの家庭ということは、なるほど。あんたらがジュダスの両親か……というか俺は部外者じゃねえ。なぜなら、お宅の娘さんは真実教とかいう胡散うさんくせえ宗教からうちの宗教に改宗するからだ!」


「えっ、なっなんですって!? ジュダス! あなたいつの間にこんなわけわからん男の宗教に入ったの!? それよりも真実教をやめるってどういうことよ!? ママ聞いてないわ!」


「あっどうです? パパさんとママさんもこれを期に娘さんと一緒に……」


 空気を読まずに布教してくるインチキさんと私を問い詰めるママ。パパは啞然(あぜん)としたまま突っ立っていた。話がこれ以上ややこしくなる前に早急に立ち去るのが得策かもしれない。


「離してよ! 落ち着いたら後でこの件話すから」


 私は掴んでいたママの手を振りほどき、インチキさんの腕を掴んで急いでママとパパから離れた。


「ま、待ちなさい! ジュダス!! ジュダスウゥゥゥ」


 ママが私を呼ぶ声をするが、ここは無視だ。


 私は説法会の道場に向かって走りながら、インチキさんに話をする。


「まったく……私がいつインチキの信者になりましたか? あなたのせいで、ママとパパに誤解されたじゃない」


「でもジュダス困っていそうだったから……というかお前のお母さんなんかきつそうだな」


「今はそうかもしれないけど……出家する前のママは、優しく、滅多に怒らず、人当たりが良かったの。パパもおかしいけど、特にママは出家してから人が変わったように思えるわ……それよりも私を助けるためだったのね。ありがとうございます。インチキさん。正直、困っていたから離れることができてよかったわ」


「いや//別にぃ//俺の信者だしぃ。ジュダスがどこかに連れてかれると俺一人で説法会に参加することになるしぃ。でも信者たるもの、教祖に礼を言うのは素晴らしいぞ。その調子で俺にもっと感謝しろ。俺を(あが)めよ。」


 私の素直なお礼に照れる態度を見せるインチキさん。良かった。この人思ったよりも悪い人じゃないかもしれない。


「フフ。なら今だけは信者になってあげるわ。ありがとうございます。教祖様~」


 不思議とこの人の信者になってあげてもいいかな~と少しだけそう思いながら、私はインチキさんにおじきをするのだった。


 ◇


 インチキ教祖とジュダスが離れて行った後、タマルとカリオテはその場で立ち尽くしたままだった。


「何だったんでしょうかね? あの男は。見慣れない服装にウンコウ様と同じ人間ということはナレーザの外から入ってきた余所者ということは確かなはずですが……それよりもジュダスが真実教を脱会するというなら大変だ。ウンコウ様にこの事を報告しますか? ……タマル様?」


 カリオテの質問を聞いていないのか、ぶつぶつと何かつぶやくタマル。


「まさか……あれが悪魔だというの!? ならば悪魔が顕在化(けんざいか)するほどの事態だということに……前からおかしいと思ったのよ。ジュダスが出家したがらないなんて。挙句の果てには真実教を辞めるなんて、それら全てがあの悪魔に操られていたなら腑に落ちるわ」


 そうつぶやいた後、タマルはジュダスが走っていた方角を見つめたまま決心するような顔つきへと変わる。


 あたりの木の葉っぱが揺れ動くほどの突風が吹いたあと、タマルは静かに宣言する。


「どんなことをしてでも……ジュダスを救済して貰わなくては……そうどんなことをしてでも」



 最後まで読んでいただきましてありがとうございました。


 もし面白いと思っていただけましたら、評価(★)を入れてもらえると幸いです。


 特に楽しんでいただけた話がありましたら、その話の「いいね」を押してもらえると励みになります。


 次回、ついに説法会編となります。

 明日も21時に更新します。

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