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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第3章月の星団編

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35.「最強の武器」

 今から発動する魔術は、時間帯によって構えが変わる、珍しい魔術だ。

 月の出のときは、月に向かって、掌を見せる。

 日の出のときは、日光を避けるように、掌を地面、あるいは影に向ける。

 そして今は、日中。

 よって、日光を避けるように、左掌を己の影に向ける。

 これで構えは完了。あとは、魔術名を唱えるだけだ。


「出ろ! 吸血鬼族ヴァンパイア・()手口・ハンド


 その瞬間、俺の掌にキスしたくなるような、ツヤがある唇がプルンと現れた。

 だが次の瞬間――

 唇がぱっくりと開かれ、肉を突き破り、骨をも砕かんばかりの、鋭く長い犬歯が姿を現す。


「飛べ! 俺の腕よ」


 ボウッ!


 俺は左掌をイブリースに向け、そのまま前腕ごとロケットのように発射した!


「なに!?」


 思わぬ攻撃に、イブリースが一瞬たじろいだ。だが流石、すぐに反応し、剣で飛んできた腕を弾く。


「フッ、驚いたけど、正面から来る攻撃など――ぐっ!?」


 ズキュウウウン!!


「捕えたぜ、イブリース」


 キスしたら死ぬような唇、つまり、飛ばされたはずの腕がイブリースの右腰に吸い付いていたのだ。


「な、なぜ!? 弾いたはず」


 疑問に思うイブリース。強者の余裕として、その疑問に答えてやろう。別にバレても問題ないからな。


「よく見るんだな。俺の腕を」


 その答えは――飛ばした前腕と上腕が土でできた細い糸で繋がっていたのだ。


「なるほど……この糸が繋がっている限り、弾いても操作可能というわけね」


「ああ。今腕を飛ばしたのは、ゴーレム族(ゴーレム)の腕貫(・アーム)の魔術の力だ――そして、これからが、吸血鬼族ヴァンパイア・()手口・ハンドの魔術の力だ」


 チュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!


 キスした唇から俺はイブリースの血を吸う。

 血と言っても吸っているのは、人間の赤い血液ではない。

 もう一つの血……そう、魔力という第二の血を吸っているのだ。


「くっ、こんなもの!」


 イブリースは、吸収を止めるため、土の糸を斬る。

 だが、そこは自動回復によって、糸は即座に再生し、引き続き、イブリースの魔力を吸い続ける。


「カルト教祖が信者の財産を搾取するように――このまま、お前の魔力、根こそぎいただくぜ!」


「……仕方ないわ」


 斬っても無駄だと思ったイブリースは、腰に吸い付いた前腕を掴む。そして、それを無理やり引きちぎった。


 ブシュゥッ!


 腰から血が噴き出す。だがイブリースは怯まず、その腕を――粉々に斬り刻んだ。


「痛てぇ!」


 俺は、糸を釣竿のリールのように上腕へと戻し、そこから前腕を回復させる。


「へへ。吸えたのはほんの数秒くらいだが、――それでもお前の総魔力の三割は頂いた。ご馳走様ってやつだ」


 イブリースは俺を睨みつけながらも、黙っていた。――ようやく、あいつの余裕そうな表情を崩すことができたぜ。


「イブリース、今使った魔術を解説してやろう」


 優位に立った俺は、マウントを取るようにドヤ顔で語り出す。


「魔術名は、【吸血鬼族ヴァンパイア・()手口・ハンド】。吸血鬼族の魔術だ。血液を吸えば体力が回復し、魔力を吸えば魔力を回復することができる。さらに、舌をレロレロっと上手く操作すれば――血液と魔力も同時に吸うこともできるっちゃできる……だが、その場合は、吸収速度が片方のときよりも半分に落ちちまうがな」


「……」


 イブリースは黙って俺の解説を聞いていた。そして、やがて口を開く。


「急に手の内を明かすようになるとは……どういう心境かしら? あなたは、隠すタイプだと思ったけど?」


「……別に、バレても問題ないからな」


「もしかして……ワタクシが手の内を明かしたことに、対抗意識でも燃やしちゃった?」


「……別にぃ」


「あらぁ、いい年しているだろうに、かわいいところがあるじゃない♡」


「その気味の悪いリアクションやめろッ!」


 ニヤニヤ笑うイブリースに、俺の苛立ちはさらに増した。


「とりあえずわかったか? これがコネクトの力だ。 種族特有の魔術も、魔力譲渡をすれば、それを再現できる……インファイターが戦闘向きのスキルタイプだろうと、最強と明言されているのは、コネクト」


「つまり、お前じゃ俺に勝てねえ!!」


 俺はイブリースに指をさし宣言した。

 が、イブリースは「クク」と笑っただけ。まるで、動じていない。


「戦闘はスキルタイプの優位性だけで、決まるものじゃないわ。あなたが、スキルタイプ最強なら……ワタクシは、最強の武器で対抗すればいい――このように!」


 イブリースは後方へとジャンプし、空中で刀剣を構えた。


「来るか!?」


断獄ハッド


 空中で、イブリースが刀剣を横に薙ぐ。その太刀筋を見た瞬間、俺はとっさに宙へ飛び上がる。

 ズバンみたいな斬撃音は……なかった。だが、さっきまで俺が立っていた地面には、綺麗すぎるほどの〝切り傷〟が刻まれていた。


「あの斬撃、一体何を……?」


「知りたいの? 教えてあげてもいいけど、後悔するかもよ?」


 地面に着地したイブリースは、刀剣を構え直しながら、余裕の笑みを浮かべる。


「ほう……その魔術も知られても問題ないと?」


「ワタクシはね。だけどあなたの問題よ? ほら、よく言うアレよ。〝世の中には知らない方がいいこともある〟ってやつよ」


 イブリースは、むしろ、俺に気遣うように、言った。

 さっきまで、俺の方が優位な雰囲気を出していたのに、またあいつがなんか優位な雰囲気を出しやがった……だが、魔術の仕組みを知ればそこから対抗策は生まれるかもしれない。ここは素直に聞いておくぜ。


「聞こう……俺の予想では、空間ごと斬る魔術ってところかな?」


「その上よ」


 イブリースは、俺の予想を即座に否定し――次の瞬間、静かにその答えを告げた。


「絶対切断――これがルカ・イフルズの真価よ」


「絶対……切断?」


「文字通り、斬る動作をするだけで、どんな対象でも斬ることができる。物質、空間、時間、法則、そして存在そのものの本質すらもね」


 言葉の意味が重く響く。


「あなたを斬ったとき、自動回復が機能しなかったでしょう? それは、〝斬った〟という結果だけが現実に残り、傷や過程といった要素は切り捨てられたからよ」


「(何言っているんだ? アイツ……説明を聞いてもよくわからん)」


「まあ、わかりやすく言うなら――断獄ハッドと唱えて斬れば、斬れぬものはないと考えればいいわよ」


「うお!?」


 イブリースは、今の会話の最中に、「ハッド」と唱えて、突く動作をした。

 俺は、射線上から離れた。はるか先の雲に風穴が開いた――ったく、油断も隙もねえな。


「関わった者全てが悲惨な末路を辿ったとされる妖刀。魔王を討った勇者の聖剣……この世界には、数々の刀剣はあれどこの〝ルカ・イフルズ〟に勝る刀剣はなし――ワタクシはそう自負している」


「斬ることに関して、これほど極めた刀剣はないでしょう……」


 その表情は、まさに選ばれし者の誇りと確信に満ちていた。


「だが、()()()()()()から、当然なんらかの代償があるはずだろう? ハッドを使う際には」


「血の代償理論ね……ワタクシたちはディヤ理論という名で呼んでいるけど――ええ、もちろんあるわ」


 イブリースは神妙に頷く。


断獄ハッドを発動するには、莫大な魔力消費。そして、もうひとつ。〝神への揺るぎない信仰〟が絶対条件」


「信仰……だと?」


「この刀剣を作った鍛冶師たちがそうであったように……信じ切ることができない者に、刀剣の真価発揮はありえない」


 イブリースは、己の信仰と見つめ直すように、静かに威厳ある雰囲気でそう話した。


「ところで――インチキ教祖。あなたに問いたいことがあったのよ」


 イブリースは、急に顔つきを変え、俺に問いかけてくる。


「なんだ?」


「あなたは神を信じて教祖をしているのか? それとも信じていなくて教祖をしているのか? どちらだ?」


 俺はその問いに――


「はぁ? 信じているわけねーだろ。俺が神のように崇められて、幸せに生きてぇから教祖やっているんだよ。神がいようがいまいが、そんなのどーでもいいわ」


 鼻をほじりながら、俺はイブリースの問いに答える。

 あっ、鼻水が固まっていないからか、鼻水がネチョーっと指につく……仕方ない。戦闘中に、イブリースの服で拭くか。敵だから遠慮する必要もないしな。


「……火獄かごくに堕ちろ! お前は」


 イブリースは俺の回答に、怒りを顔に出し、刀剣を構える。


「怒ったか……いいだろう。そろそろ決着をつけようぜ、イブリース」


 空中で俺は、イブリースを見下ろす形で構える。

 互いに眼差しを交錯させ――

 先に動いたのは、イブリースだった。


断獄ハッド


 イブリースはX字と十字型に斬りかかる。俺は間一髪、それを躱す。

 見た目では、わかりづらいが、この世界に亀裂が生じた気がする。


「躱した!? いえ、躱しきれなかったようね!」


 ニヤリと笑ったイブリースの言葉と同時に、俺の右腕に、鋭い痛みが走った。

 そして、右腕の方に見ると、俺は気づいた。

 ()()()()()()が斬られたことに――


「なっ……!? 斬られたことすら、気づけなかっただと……?」


 自動回復で右腕と右の翅の回復に動くが、翅が斬られた以上、飛行が上手くできず、落ちそうになる。

 そして、イブリースは、墜落しそうになる俺をそのままハッドによる突きを放とうとする。

 ――だが、この程度の状況、俺が予測していないはずがない。


「掛かった! 炎蜥蜴の(サラマンダー)尻尾切り(・テイルカット)


 その声と同時に、切り落とされたはずの俺の右腕から、炎火系でできた分身が現れ、イブリースへと飛びかかった。


「なっ!? いつの間に……――そうか! あの右腕を切り落としたときか?」


 そう、魔術名【炎蜥蜴の(サラマンダー)尻尾切り(・テイルカット)】。この魔術は、サラマンダー族の魔術。

 本来は、相手によって尻尾を切られたときに、発動する魔術だが、俺の手を尻尾として、代用が可。魔術の効果は、切られた尻尾(今回は俺の腕)から炎火系の分身を生み出す。相手によって切られるというのが条件トリガーなので、自分で切り落とした場合は発動しない。


 スパスパとイブリースは、炎の分身を何度も斬るが、その炎はすぐに再生される。

 イブリースが炎の分身に手間取っている隙に、右腕と右の翅の回復が完了し、地面に着地する。


氷水装束ザムザム


 イブリースは氷のトーブを着用し、炎の分身を斬り付ける。炎の分身は氷の斬撃によって、凍死した。


「(ハッドを攻略するには――()()()()しかない。だが、失敗すれば……即ち、死)」


 俺はある秘策を旨に、炎の分身を倒したばかりのイブリースに向けて、両手を横向きの指鉄砲の形で構える。


「八寒冷山」


 両手から、地吹雪のような冷気が巻き起こる。

 だが、イブリースは平然と吹雪の中を進んでくる。


「愚かね! この氷のトーブを着用している限り、氷魔術への耐性が得られるのよ! こんな冷気、意味がないわ!」


 氷の装束を活かし、まるで氷上のスケーターのように滑るように近づいてくる――

 イブリースの狙いは、おそらく至近距離からハッドを放ち、今度こそ仕留める気なのだろう。


「まだだ!! ヒュゥウウウウ。氷竜の(ドラゴンブレス・)息吹(ホワイト)


 両手で八寒冷山を放ちながら、口からドラゴン族の氷水系魔術を放つ。

 三重の冷気が重なり、この一帯を氷の大地へと変える。

 イブリースも流石に三重の冷気をぶつけられたことにより、その場で足が止まる。

 そして、イブリースの身体が凍結していく。


「やったか!?」


 俺がそう言った瞬間、凍結していたはずのイブリースの氷が解けだし……


炎火装束ジャハンナム


 イブリースは、今度は炎のトーブに着替えた。

 そして、俺に向かって飛び込み――


断獄ハッド


 至近距離から放たれた、あらゆるものを断つ斬撃――


「ハァ……ハァ、流石に、断獄ハッドと……トーブの併用は……魔力の消費が激しいわね……」


「でも、油断したあなたを斬れてよかったわ……断獄ハッドは、照準を定めてから斬る魔術。ちょこまかと動き続けられていたら、当てにくい…………から……ね?」


 イブリースは話している途中に、ふと――違和感に気づいたのだろう。

 斬ったはずの俺の身体。その様子が、明らかにおかしい。

 ゆっくりと、静かに、俺の身体はズレていく。そして――パキンという音を立てて、真っ二つに割れ、その場に崩れ落ちた。

 だが、そこに血は一滴たりとも流れていなかった。


「……っ!? 血が、出てない……?」


 イブリースの記憶には残っていたはずだ。以前、俺の身体を斬ったとき――あふれるように血が流れ出たことを。

 けれど、イブリースが今回斬ったのは、本物の俺ではない。氷で作った俺の像だったのだ。


ゴーレム族(ゴーレム)の腕貫(・アーム)


 俺はイブリースの後方から、魔術を発動する。

 イブリースは俺の声に気づき急いで振り返ろうとする――


ハッ――」


神速飛行ゴッドバード


 バキィ!


 イブリースが反撃する前に、俺の拳がイブリースの顔面に直撃した。

 その勢いで、イブリースは吹っ飛び、手からは刀剣がスポンと外れ、空を舞った。

 そして、氷の壁に激突し、崩れ落ちるように倒れ込む。


「がっ……は……分身とは……ッ。そんな単純な策に……このワタクシが……」


 イブリースは吐血しながら、呟く。


「ああ。これが俺の秘策だ。もし、この作戦が通じなかったら、俺が負けていただろうな」


「ま、まだよ……まだ、勝負はついていないわ……ッ!」


 イブリースはチラッと落ちた刀剣を目にする。

 そして、渾身の力を振り絞って、刀剣に向かって飛び出した。


「無駄だ、涅槃寂静」


 俺は、魔力で作った手で、イブリースより先に刀剣を掴み俺に引き寄せる。


「これで、刀剣は俺のものだ、イブリース」


「イ……インチキきょうそおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 狂ったように叫ぶイブリース。

 顔を歪ませ、怒りと屈辱に満ちたその表情――

 そうだよ。それだよ。俺は余裕がなくなったあんたのその顔が見たかったんだ。


「天鼓雷音」


 残り少ない魔力で雷電系の上級魔術をイブリースにぶつける。


「ぐわあああああああああああ!!」


 その咆哮と共に、イブリースの身体は焼け焦げ、ついに――地に伏す。


「ハァ……ハァ……苦戦したが――」


 俺は刀剣を手に、勝者の構えで言い放つ。


「この戦い……俺の勝ちだ、イブリース」


 焦げた氷の地に倒れたまま、イブリースは動かない。

 静寂の中、勝利の余韻だけがそこで響いていた。



 インチキ教祖勝利


 第三章も残り五話となります!

 是非この物語最後をあなたの目で見届けて欲しいです!!!


 補足)最強の刀剣【ルカ・イフルズ】

 断獄ハッドと唱えて斬れば、斬れぬものはないとされる。

 断獄ハッドの発動には、一、莫大な魔力の消費 二、神への揺るぎない信仰(宗派が異なっても唯一神を信じていれば、条件クリア)の二点が必要とされる。

 理論上は、膨大な魔力を持つインチキ教祖が使えれば、鬼に金棒なのですが、彼は神を信じていないので、その真価を発揮することはないでしょう……

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