34.「〝信仰告白〟のイブリース」
インチキ教祖VSイブリース
「ちえ。不意打ちで放ったのに……これを防ぐのかよ」
ヴェダの魔術も使えるようになった俺は、蘇生魔術【泣きの一回】を発動し、死の淵から蘇った。
そして、俺が死んだと油断している隙を突いて、不意打ちで倒す――それが理想だったが、イブリースはその攻撃をあっさりと防ぎやがった。
「な、なぜ……あなたが生きているの!?」
イブリースはやはり、俺が生きていることに、動揺を隠せないようだった。
あの反射神経といい、雷をも捌く高速の剣技といい……奴のスキルタイプはおそらく――
「ありえない……蘇生魔術はヒーラーの中でも才ある者が、長い努力の末にようやく修得するもののはず……それなのに、今の雷電系の威力とコントロール、あれはオールラウンドクラスだった……あなた、一体何者なの……?」
困惑するイブリース。その隙に、俺も次の一手を考えないと。
正面から攻めても、防がれるのがオチだ。どうすれば奴を倒せる……?
いや、それよりも気になるのは、奴から最初に受けた一太刀。
たしか魔術名は、「ハッド」と唱えていたか? あの魔術は、斬撃を飛ばすとかそんな簡単な術とは違う気がする……もっと、恐ろしい術の一端を垣間見る、そんな気をさせるほどの次元が違うような魔術だった……
「……はっ、待てよ」
イブリースは目を細め、何かに気づいたように呟く。
「一つだけ、あったわ。ヒーラーとオールラウンド両方の力を持つことができるスキルタイプ……そう。【コネクト】ならそれが可能ね」
イブリースは、俺のスキルタイプを言い当てた。まさか、コネクトのことを知っているとは。
「話には聞いたことがあったわ、この世界に来る前の〝白き世界〟――そこで、コネクトについても耳にしたの。白き世界の何者か曰く、『コネクトは、魔力譲渡をすればすべてのスキルタイプを兼ね備えることができる』――と」
白き世界だと? この世界に来る前……なるほど、そういうことか。
「そうか。お前も、この世界に転生してきたタイプの人間か。お前が巨人族にバズーカ、機関銃、狙撃銃の作り方を教えやがったというところか?」
「お前もということは、あなたもそうなのね?」
奇しくも、俺とイブリース。互いに前の世界からこの新しき世界に転生した人間であることがわかった。
「人生、思わぬ発見というものはあるものね。この世界に来てから、もう二十年以上が経つけれど……コネクトに出会ったのは、あなたが初めてよ」
「だが、たとえ、最強のスキルタイプが相手だろうとこの剣の前では、無力! 断――」
「――させるか、神速飛行」
「!!」
俺は直感を信じて、イブリースとの距離を一気に詰めた。
刀剣を持つ相手に接近するなんて、本来は、愚策だろう。
だが、離れれば離れるほど危険な予感がしたんだ。
あの魔術を、もう一度使わせるわけにはいかない。その一心で。
――ガキン!
そして、その直感が的中したのか、魔術名を唱えてから、斬ろうとした動作を中断させ、刀剣の刃と俺の膨大な魔力でコーティングした片腕が激突し、ガキキキと激しい音を立てながら、鍔迫り合いのように押し合う形になった。
「あらぁ、あえて、近づくことを選ぶとは、とっさの判断にしては悪くないわ。余程ワタクシの断獄が怖かったと見える」
イブリースは余裕そうにニヤリとしながら、鍔迫り合いに応じる。
「だが、接近戦なら、ワタクシの土俵よ――嵐風装束」
イブリースは風のトーブを着用し、錆びているように全体的に赤みを帯びた刀剣にまで、嵐風系を纏う。
「ゴーレム族の腕貫」
俺はゴーレム族の魔術を発動する。
魔術名【ゴーレム族の腕貫】。この魔術は、人の両腕を土砂と岩石で構成された両腕へと変化させ、その上さらに魔力を纏うことで、オリハルコンすら凌駕する強度を実現させることが可能。
タチタチタチタチタチタチタチタチ――チィィィン!!
そこからは、圧倒的な剣技と岩腕のラッシュの応酬だった。
だが、一つ一つの応酬では、イブリースがやや勝り、確実に俺にダメージを与えてくる。
ヴェダの魔術により、斬られた瞬間に自動で回復しているので、実質ノーダメージで応戦している。
だが……一方で、イブリースはというと、余裕すら感じさせる態度で、俺の攻撃を巧みに往なしては、斬撃を返してくる。
――くそ、回復しているとはいえ、こっちばかりが一方的に押されているのは気分が悪い。
ああ、早く――
イブリースの顔面、ぶん殴りてぇ……!!
「フフ、流石コネクト。熟練のヒーラークラスの回復スピードも再現できるのね。腕や首を斬っても、即座に回復するから、断ち切れない。こんな敵、ハジメテよ♡」
イブリースは接近戦の攻防の中、戦いを楽しんでいるのか、不気味な笑みを見せる。
「でも――肝心の魔力、いつまで持つかしら?」
あの言い方。やはり気づいているのか――蘇生魔術の代償を。
「知らないと思ったかしら? 蘇生魔術。発動すれば、代償に、術者の総魔力の九割が消し飛ぶ。コネクトといえど、魔力が無限にあるわけじゃない。いきなり九割も削られれば……さすがにキツイでしょう?」
そう。イブリースの言う通り、蘇生魔術を使ったため、俺の総魔力は一割程度しか残っていない。
オマケに、この応酬からも魔力をガンガンと減らされている状況。
さらに最悪なのは、戦況が長引けば、信者たちも力尽き、それに拍車をかけるということだ……
つまり俺がピンチというのは、確かだが、イブリースばっかりドヤ顔されるのは、気に食わねえな。
「自分だけわかった気になるなよ。俺だってお前のスキルタイプはわかっているぞ」
その言葉に、イブリースの表情がピクリと反応し、わずかに険しさが滲む。
「お前、インファイターだろ?」
「俺の雷に対応したあの反射神経といい、高速の剣技――そして、接近戦を得意とするスタイルからもバレバレだぜ」
フン。どうだ。俺だってお前のことは見抜いている。そう返したが、当のイブリースはあきれたような態度を見せる。
「……そんなこと。聞かれていたら初めから答えていたわ」
「なんだと!?」
「この〝信仰告白〟のイブリースも含めた、委ねる者のトップファイブの実力者――五行緑月。その全員がインファイターよ」
「そもそも委ねる者の大半がインファイターだし」
イブリースは、まるで大したことではないと言わんばかりの態度で、己のスキルタイプのみならず、委ねる者たちのスキルタイプまで、さらりと明かす。
「なぜ、隠さない?」
「別に隠してもあなたのように、見破るでしょうし、バレても問題ない。ワタクシたち委ねる者は対策を取ってきた相手にも何度も勝ってきた……スキルタイプがバレたくらいで、負けるような者など、とっくに去っているわ」
なるほど。あれが、武闘派教団のトップに立つ者の余裕という奴なのか――なら、今回はその余裕が命取りになることを教えてやるぜ。
俺はイブリースとの会話を切り上げ、接近戦に集中した。
だが、やはり、接近戦はイブリースに分がある。
俺の攻撃は一つも当たらず、奴の攻撃だけが一方的に食らい続ける。でも、だからといって、距離を取る選択をしたら、あの「ハッド」が発動する。あの魔術は、なぜか、自動回復でも間に合わず、即死になった。あれだけは食らってはいけない魔術だ。
だが、戦況は虚しく、傷を負っては即座に回復の繰り返し。そして、その度に、その度に、魔力はどんどん枯渇していく……。
「あらぁ。このままだと、あなたはジリ貧で負けるのね……最強のスキルタイプ、コネクトってその程度なの?」
「それともあなた自身がその程度の男かしら? インチキ教祖」
挑発なのか、本当に飽きたのか。露骨に冷めた表情で、俺を切り刻み続けるイブリース。
くそぉ。イブリースばっかり、マウント取るのは、許せん! あのムカつく冷めた表情を恐怖で凍りついた表情へと変化させてやるぜ!!
「舐めるなよ! イブリース!! 魔力が足りなくなったら、増やせばいい!!!」
俺はこの状況を打破するため、いよいよ、あの魔術を使う――
「出ろ! 吸血鬼族の手口」
裏話)蘇生魔術について。
初出は、第2章ザスジータウン編、29.「漢方薬」からですが、ザスジーが使った蘇生魔術は、ヴェダが覚えている蘇生魔術ではなく、十一使徒のヨハネアが覚えている蘇生魔術を使い復活しました。
つまり、ザスジーがいた頃は、蘇生魔術が使えるヒーラーが二人もいたということですね。




