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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第3章月の星団編

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33.「あなたの父の名は」

 アミーラ視点です

「母さん……母さんんんんんんんん」


 とうとう、この日が来てしまった。

 ボクの母さんが――この世を旅立つ日が。

 母さんは生まれつき不治の病にかかっていて、身体がとても弱かった。

 数々のヒーラーに診てもらっても、誰もが決まって匙を投げた。それでも、母さんは思った以上に長く生きてくれたのだという。

 それでも――それでも、ボクにとっては、早すぎる。せめて、ボクがオトナになるまで、生きていてほしかった。


「ア、アミーラ……耳元で大声出さないで……母さん、まだ生きているわ……」


「母さん!?」


 もう話せないと思ったのに、母さんは生きていた。生きていてくれたんだ。


「ごめんなさい……あなたがオトナになるまで、生きていたかったけど……母さんは、ここまでみたい……」


「で、でもかえって良かったかもしれない……私がいなくなれば……あなたがこの集落にいる理由はなくなる。あなたには、あなたの人生を歩んでほしいの」


「母さん? 何を言っているのさ!」


 自分がいなくなったほうがいいなんて――母さんの口から、そんな言葉が出るなんて……冗談でも、聞きたくなかった。

 母さんは、震える手を伸ばし、ボクの手にそっと重ねてきた。


「あなたの祖母も祖父も……従兄弟も亡くなった。そして私も亡くなる……それでも、あなたはヒトリじゃない。あなたには、父親がいるから」


「ち、父だって!?」


 こんな時に()()()()()()()()()()()()を母さんから聞いた。


「父なんて、どうでもいいよ! だって母さんがこんな状況なのに、一度も会いに来ないし、ボクは父の顔も知らない! ボクらを見捨てた父なんて家族なんかじゃないよ!!」


「アミーラ! 何度も言わせないの!! あの人は、あなたが生まれたことを知らないのよ! それに別れたことは、お互いに望んだことなの!!!」


 いつもこうだ。母さんは父のことをちょっとでも悪く言うと、烈火のごとく怒る。それ以外は滅多に怒ることがない母さんが。


「あなたが生まれたことをあの人に教えなかったのは、母さんの判断なのよ。あの人の生きる道の邪魔をしたくなかったから……だからあの人を恨まないで。恨むなら母さんを」


 母さんの気持ちがわからない。なんで、未だに父を思っているのか。

 父との出会いなんて、ほんの数日かそこいらだろうに。

 でも……父がいるなら知りたい。会ってみたいと、思わなかったと言えば嘘になる。


「母さん……父の名は? 父は今どこにいるの?」


 母さんは苦しいはずなのに、フッと笑う。そして、顔を近づけ、耳元でそっと囁いた。


「あなたの父の名は              よ」


 初めて聞いた。ボクの父の名を。

 それは、この砂漠地方で生きる者なら、誰もが一度は耳にしたことのある名だった。


「あなたが、私と違って元気で丈夫な子で、本当によかった……」


「うん。ボクは、このオーク族で最強だからね。長老たちは認めようとしないけど、母さんという優れたインファイターの才能を受け継いだから、ボクは強いんだ」


「ううん。それは父の力よ。あの人の強さが、あなたにも受け継がれて守っているのよ」


「最後にアミーラ、これだけは伝えたい。私に縛られず、あなたにはあなたの人生を歩んで欲しい……た、ただそれだけが母さんの願いよ」


「ありがとう、アミーラ。あなたの母になれて……あなたが、生まれてきて……よかっ……た……」


 それが、母さんの最後の言葉だった。そして、母さんの手が、ボクの手からするりとベッドの上に落ちていった。


「母さん……待ってよ。まだまだ話足りないのに……母さん……母さん……」


 この日、母さんは亡くなった。ボクが、15歳になったばかりの出来事だった。


 ◇


「……うん?」


「あっ、目が覚めたみたいッス」


 どこかで聞いたことのあるような声が、ぼんやりと耳に届いた。

 さっきまで、ボクの目には、光が存在しない暗闇の世界だったのに、今、閉じたまぶたの裏に、まぶしい外の光が射し込んできた。ボクはゆっくりと、まぶたを開ける。


「……ここは?」


 目に映ったのは、信じがたい光景だった。

 折ったはずの刀剣が直って、鞘を納めるかのように、武器転送魔術で、刀剣をしまうジュダス。

 ボクのそばでは、ハサンの報告にあった、オールラウンドの力を持ったヒーラーのエルフが看病していた。確か、名前は……ヴェダ、だったけ?


 そして、ヴェダと同じ装束を身にまとったダークエルフが六人。

 先ほどの戦闘にいたメンバーがボクの目の前にいる。

 どういう状況なのかボクは未だに分かっていない。ボクは死力魔術を使って確実に死んだはずなのに――


「あれ? ボク死んでいない? なんで生きているの?」


「いや、死んだは死んだッスよ。えっと、アミーラさんでしたっけ? あなたはアタシの蘇生魔術で生き返ったッス」


「そ、蘇生魔術って……」


 蘇生魔術で生き返ったなら、この状況は理解できる。

 が、問題は、敵がボクを生き返らせた理由だ。


「な、なんでボクに蘇生魔術を使ったの……人質に使うため?」


「人質ってどうしてそんな考えになるッスか?」


「だって、それ以外じゃ理解できないだろう!? ボクはキミたちを殺そうとした。それなのに、なんでボクを生き返らせたのさ?」


「それは……姐さんが、あなたの顔を見て、すごく複雑そうな表情をしていたからッス……そして、蘇生魔術を使ったのはアタシの独断ッス、当然、みんなからツッコまれましたが」


 淡々と説明するヴェダ。その内容に余計にボクは驚いた。


「ば、馬鹿なのか!? 蘇生魔術は一生に一度しか使えない魔術だろう? 自分の命だったり、大切な者へと使うなら理解できる。でも、な、なんで、敵であるボクに使った?」


「それはそうッスね」


「本当にわかっているのか!? キミはもう蘇生魔術を使うことはできなくなったんだぞ! 自分にも他者にも」


「アミーラ、命を救ってくれた相手に、その言い方はあんまりですな」


 土の中から、モグラのようにイブンが顔を出して、そう言った。

 ボクは、イブンの匂いに気づいていたし、エルフたちも聴覚でイブンが近づいているのは、気づいていたみたいだ。


「凄いッスね。ルーベンスの兄貴に燃やされていたはずなのに、あの時、逃げる体力があったなんて……」


 イブンが身体を地中から地面へと出ていくと、ファラビ、ビールニ、ラーズィ、ジャヒズの仲間たちも一緒に地中から地面へと出ていく。

 だが、不思議と、イブン含めて皆の戦意は喪失しているような雰囲気だった。


「アミーラに代わって礼を言います。ありがとうございます。アミーラをお救い頂き」


「礼には及ばないッスよ。あくまでアタシの独断ッスから」


「救ってもらっておいてなんだけど、ボクが生き返ったということは……もう一度死力魔術を使うことができる。そしたら、どうするの?」


「アミーラ! あなたまだ『無理よ、そんなこと』」


 イブンが叱りつけるように言いかけたその瞬間、ジュダスが静かに割って入った。


「死力魔術を使うにしても、かなりの魔力を消費する。たとえ、魔力節制タナッフス・呼吸法アミークを用いたとしても……実際にあなたの魔力はかなり少ない。今の状態では、もう一度発動するのは不可能よ」


 ジュダスは解説する。なんだ……ちゃんと見抜かれていたのか。


「冗談だよ。ボクだって、わきまえているつもりさ。敗北したことに」


「アミーラ、あなた教団に母と父がいるの?」


「な、なんで急に!?」


 ジュダスからの思いもよらぬ問いに、思わず声を上げてしまう。


「……いえ、なんとなくよ」


 ジュダスは複雑な表情を浮かべながらそう返してきた。


「母は教団にはいないよ。ボクが15の時にとっくに亡くなっていた」


「そう……」


「でも、父は――」


「イブン、アタシたちは……月の星団との戦いは望んでないッス。この戦い、なんとか止められないッスか?」


 ボクが父のことを言いかけた瞬間、ヴェダがイブンに向かって声を上げた。


「そうですね……正直、この戦争は間違っていると思っています。タウンの信者が委ねる者を殺した事件が発端とされていますが、それは真っ赤な嘘だったのです」


「嘘……嘘とはどういうことだ?」


 ダークエルフの中でも、リーダー格らしき者が聞き返した。


「イブン、インチキタウン側に真実を言うんだね?」


「ええ。ですが、その前に戦争を止めるために動かないと」


 イブンの表情には、揺るぎない決意が宿っていた。


「我々の指導者、イブリースを説得してみます。今すぐ、この戦いから手を引くようにと。これ以上、お互いにムダな犠牲を出すべきではありません」


「分かったッス。今、教祖がイブリースと戦っているはずッス」


「待った……もしかしたら、もうキミたちの教祖はイブリースに倒されている頃かもしれない」


 ジュダスたちにとっては耳を塞ぎたくなるような内容かもしれない。だけど、最悪の可能性は伝えておかなくてはならない。


「イブリースは最強だ。巨人族を腕力で屈服させた伝説がある。その身体能力に加えて、最強の武器も手にしているんだ。贔屓目かもしれないが、彼に勝てる者がこの世にいるとは……」


 ボクの言葉に、イブンをはじめ、ヴェダや他のダークエルフたちも表情を曇らせた。


 だが――


 ジュダスだけは違った。


「そう。あなたはイブリースを信じているのね……当然かもしれないけど」


「えっ? それはそうだけど……」


「でもね。あなた以上に私はインくんを信じている」


 その言葉に、思わずボクは言葉を失った。


「イブリースみたいに伝説があるわけじゃない。けど、それでも何とかしてくれる……そんな気をさせてくれる人なの」


 ジュダスは何の迷いもない、ニコッリとした表情で確かにそう言い切った。









 第三章もクライマックス! 


 次回インチキ教祖VSイブリース


 一体第三章はいつ終わるのやら……

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