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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第3章月の星団編

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31.「限界突破」

 ジュダスVSアミーラ

嵐風装束ハブーブ


 アミーラは、風のトーブを纏った。そして、三節混を高速で振り回す。ただそれだけ。

 それだけで、私の身長よりやや大きい斬撃をポンポンと飛ばしまくる。

 私は時計回りに回避しながら動き、その斬撃を躱す。だが避けきれないと判断したときは、刀剣に千風を纏わせ、嵐の斬撃で相殺する。


「こんな簡単な攻撃では、倒せないよね? よし次の段階に行こう! ジュダス着いてきてよ~~」


 アミーラは風のトーブの力で空へと舞い上がる。そして空中で静止したまま、片手を鷲掴みのように構え――


炎火装束ジャハンナム


 アミーラは、風のトーブを纏ったまま、さらに火のトーブを重ね着した。


 ババババババババババババババババババババババババババッ――!


 嵐と炎が融合した斬撃が、周囲一帯に降り注ぐ。

 先ほどの攻撃が私をピンポイントで狙っていたのに対し、今度は違う。焼き尽くす、破壊する、数で押し潰す。そんな意図を感じる、広範囲殲滅の一手。


「(使うなら今、この場面ッ!)」


「サン・サーラ!! からの八寒冷山」


 魔術名【サン・サーラ】。これは、肉体強化系魔術。別名インファイター魔術、あるいはドーピング魔術とも呼ばれている。この魔術は、寿命を削ることを代償に魔力を大幅に増やす魔術だ。

 本来は、インファイターこそが最も扱える魔術だったが、インくんの魔力譲渡によって、インファイターの魔力も手にした今、私でもその性能を遺憾なく発揮することができる!

 私はサン・サーラを使い己の魔力総量を大幅に増やしながら、両手で氷水系の上位魔術を放つ。

 それは、アミーラが繰り出す炎と嵐の斬撃をも勝り、アミーラは凍てつかせようと迫る。


「くっ……――うおおおおおおおおおっ!!」


 アミーラも己が出す魔力を大幅に消費し、より高速により熱く、三節混を振り回す。

 そして、得意の腕力で、私の攻撃をなんとか防いだ。


「ハァ……ハァ。さ、流石に今の攻撃を防ぐには、かなり魔力を使ったかな……」


「トーブを纏った魔術、それに三節混の腕前……本当に厄介ね」


(あの腕力といい……接近戦をメインに戦うやり方といい……インファイターであることは確か……でも、だからこそ、解せない点がある)


 ここまで戦ってきて、アミーラの戦い方にどうしても違和感を覚える。

 雷、風、火のトーブを纏って戦う魔術。あれは、おそらく、雷電系、嵐風系、炎火系にプラスして、肉体強化系魔術を合わせたものだろう。


 インファイターが炎火系を使うことは珍しくはない。

 といっても、オールラウンドのように火球を飛ばすといった、遠距離攻撃は難しいが、武器に炎を纏って接近戦で戦うやり方は、よく見られる。

 だから、あのトーブを纏って戦うやり方はそれの応用だから、できてもおかしくはない。

 問題は、魔力の消費量。

 肉体強化系はインファイターだから魔力をコスパよく使えても、炎火系の魔力の消費量は、甚大じゃないはず。

 私のように剣に纏ってそれを維持だけでもかなりの魔力を消費するのに、アミーラは、あまつさえそれを身体全体に纏って戦うのだ。本来ならとっくに魔力が枯渇してもおかしくないのに……


「気になる? ボクが未だに魔力が枯渇しない理由?」


 アミーラは、まるで私の胸中を見透かしたかのようにニヤニヤと笑いかけてくる。


「知りたいなら~~教えてあげてもいいんだけどなぁ~~?」


 露骨な誘い。

 明らかに、寧ろ聞いてほしいといった様子で、こちらの反応を楽しんでいる。

 とはいえ、知りたいことは事実だから、ここはノッテやろうじゃない。


「知りたいわ。あれだけ魔力を食う魔術。それを連発しても枯渇しない理由を」


「仕方ないぁ~~特別に教えてやるか!」


 アミーラは、やれやれとした態度を見せる……そんな態度はいいから、教えるならさっさと教えてよ。


「知っているかい? 普段ボクたちが魔術を使うとき、必要な魔力量より多めに、魔力を〝浪費〟しているんだ。つまり、魔術を使うたびにムダが発生しているってこと。これはどのスキルタイプでも同じ」


 アミーラは、ウンチクを語るように説明をする。

 だが、知らなかった……魔力の消費にムダがあるなんて。十の魔力量を消費すれば、十の威力の魔術を発動しているつもりだった。だが、実際は、十五の魔力を消費して十を発動しているということなの?


「魔力のムダがなく、魔術を使えるなら、これほど効率なことはないだろう? そして、ボクら月の星団は、魔術によってそれを可能にした! その名は、【魔力節制タナッフス・呼吸法アミーク】。呼吸法を強化して、()()()()魔力のムダをなくしているんだ」


「さ、最低でも!?」


「そう。この魔術の真髄は、鍛えれば鍛えるほど、消費する魔力をコストカットできることだ。つまり、本来は十の魔力を消費しないと発動出来なかった魔術が、鍛えたレベルによっては、五や六の魔力で、発動できるようになる」


「それだけじゃない……イブリースはこの魔術を活かすために、炎火系、嵐風系、雷電系、氷水系、土砂系と肉体強化系を混ぜた魔術を開発したんだ! キミも見ているトーブを纏う魔術。あれがそうだよ」


 信じられない話だ……魔力のムダを無くすだけではなく、さらに、魔力の消費を少なくする魔術がこの世にあったなんて……だが、そうと考えれば、アミーラがあれほど魔力を消費しても平気そうなのが納得できる。


「なるほど……確かに凄いわ。その魔力節制タナッフス・呼吸法アミーク。その魔術もイブリースが開発したのかしら?」


 私の問いに、アミーラの表情がピタリと止まる。


「いや……イブリースじゃない」


 一拍置いて、アミーラは静かに語る。


「この魔術を開発したのは……ボクの母さんだよ。イブリースも母さんから学び、それを委ねる者たちにも教えた。それだけだよ」


 母さん。

 その言葉を聞いて、一瞬私の心にズキンと痛みが来た。


「……そう。何やら訳ありのようだけど、そろそろ勝負に戻りましょう」


 私は話を打ち切って、刀剣を構える。

 アミーラにその気はないだろうが、家族の話はあまり聞きたくなかった。トラウマを思い出すのと、敵であるアミーラに同情の念を禁じるわけにはいかないから。


「……そうだね。少し話しすぎたよ。勝負に戻ろう」


 アミーラも三節混を構えた。

 ここから先は、強力な魔術を発動し合う戦いとなるだろう。

 サン・サーラで魔力を増やして戦う私と魔力節制タナッフス・呼吸法アミークで、魔力を節約しながら戦うアミーラ。

 どちらが先に尽きるか――


雷電装束アースィファ


「千風」


 アミーラは身体全体に雷のトーブを纏う。私は刀剣に嵐を纏う。


「最後にこれだけは言っておこう。キミの剣技は今まで見てきた敵も仲間も含めてピカイチだよ」


 アミーラはフッと消える。

 そして、音を超える速さで私の周りを高速移動する。


「(スピードでかく乱か! だが、私の耳があれば)」


 目では追えない速さは、私の聴覚で補う。

 そして――

 わたしの背後にアミーラが迫る。

 アミーラは右腕から、三節混を全力で振ろうとする。だが、これは対応できる。

 私は振り向き、真向まっこう斬りで、アミーラに斬りかかる。


(大丈夫! サン・サーラで増やした魔力からの嵐の斬撃、これで三節混諸共、アミーラを斬る!!)


 私は勝ちを確信した。

 たとえ、ここからどんな魔術を使って、威力を高めようとしても、切れ味を増した嵐の斬撃は、斧を削り取り、そのままアミーラを切り裂けるだろう。それはインファイターの鎧のような肉体でも致命傷となるダメージだ。

 そして、私の刃とアミーラの両刃斧が激突しようと――

 その寸前になって――


「ただし、〝イブリース〟を除いてね」


 アミーラは確かにそう呟いた。

 そして、左から迫っていたはずの斧が急に引いた。

 私の一太刀が空振りする。

 アミーラは、引っ張ったように、軽くジャンプしながら時計回りに身体ごと動かす。

 斧が今度は、右から迫ってくる――


(しまった! 今の攻撃はフェイント!! 回転斬りこそがアミーラの本当の攻撃)


「涅槃寂静」


「無駄だ!」


 ズバンッ!


「ぐっうううぅ」


 アミーラの攻撃で私の身体は吹っ飛んでいた。

 とっさの行動が功を奏した。涅槃寂静でアミーラの動きを封じるまではいかなくても、減速には成功した。そして、狙って来る首元を大量の魔力で纏っていたので、それが防御となり、文字通り、首の皮が一枚繋がっている状態だ。

 減速と防御どちらかが欠けていたら、私の首はアミーラの足元にあったはずだ。


 だが、アミーラは諦めず、吹っ飛ばした私を雷速で、追いかけて、トドメを刺そうと迫る。


「地空界」


 私は握っている刀剣から地面へと刺し、大地を操作する。

 そして、襲い掛かろうとするアミーラの足止めをする。


(僅かでも、いい……時間さえ稼げれば)


 地面は盛り上がり、アミーラの身体全体を覆う。

 だが――


「オラオラオラァ!!!」


 アミーラは三節混の振り回しで、その大量の土を薙ぎ払う。


「これでお終いだぁああ」


 吹っ飛び続けている私に追いつき、そして、雷が落ちる勢いで、思いっ切り振る。


 ピシャァアアンッ!!!


「終わった……やった。ボクの勝ち……だ?」


 アミーラは確かに攻撃を当てた。その顔面は、衝撃でボロボロに崩れていた……

 だが――

 それは、土砂系魔術で作った私の土人形だった。

 私は、アミーラの足元から現れる。


「なっ!?」


「涅槃寂静」


 反撃しようと振り向いた、アミーラの動きを封じる。

 相手が凄腕のインファイターだとしても、サン・サーラを使った涅槃寂静なら少しは動きを止められる。


「千風」


 急いで、私は、左手で刀剣に嵐を纏う。

 そして――


 ズバ!


 ()()姿()の私はしゃがんだ状態からアミーラを左逆袈裟斬りで斬った。

 アミーラの三節混と一緒に斬ったことで、三節混は二つに分かれ、アミーラはその場で倒れる。


「がっ……は……い、いつの間に、ダミーを用意したの?」


「地空界で、あなたの身体を覆ったときよ。あれはあなたの動きを封じるためじゃない。あなたの視界を一時でも封じるためよ」


「オーク族は、嗅覚に優れた種族。リチャード並みの嗅覚を持つとしたら、それは視界よりも嗅覚の方が頼りになるはず……だから、土砂系魔術で作った人形に私の服を着せれば、あなたが本物と一瞬、誤認したとしてもおかしくない。加えて、私はあなたの足元の近くにいたから、居場所を悟られないようにもした」


「これが、あなたが馬鹿にした理論型の戦いよ。種族の特技を逆手に取った戦法、勝利したと油断した隙を狙う。知識と知恵を使った作戦で決めた」


「だ、だけど……キミは、ボクの攻撃を首に受けてまともに動けなかったはず……あんな短時間で……はっ!」


 アミーラは自分で喋っているうちに、自分で気づいた。

 そう。今の私は、ヒーラーの魔力も持っているので、回復速度はヒーラー並みとなる。

 視界を封じた隙に回復など造作もない。ただのオールラウンドの頃だったら、こうはいかなかった。アミーラは本当に強い。私がただのオールラウンドだった頃に全力で戦ったとして、勝てていただろうか……それくらい強かった。


「か、勝つためなら、な、なんでもする……ボクに欠けているマインドだ」


「私の勝ちね……最期に言い残すことがあるなら、聞いてから、トドメを刺してあげるわ。と、その前に――」


「涅槃寂静」


「ぐっ?」


 私は倒れているアミーラに術をかける。


「ごめんなさいね。一応無駄なあがきをしないように、安全策を取らせてもらうわ。喋りにくいけどこの状態で我慢してね」


 アミーラの傷口はひどく、今もドクドクと血が大量に流れている。そして、回復系魔術や他の魔術を使わせないように拘束する。もし、何らかの魔術発動しようとしたら、即座にトドメを刺す。これで安全のはず。


「へへ。これで最期か……なら仕方ない。ど、どうせ死ぬならやるだけやってから……死のう」


「ごめん。母さん。イブリース。みんな。ボクここまでみたい」


 アミーラは、小さく笑う。サン・サーラを使っていない涅槃寂静でも十分抑えられるほど、力がないはず。だが、不思議とアミーラは高温になったのか、身体から煙が溢れてくる。そして、陽炎という現象が発生しているのか、アミーラの周りの空間がゆがむような……

 まずい気がする――こいつをこのままトドメを刺さないと――


「ボクだって負けられないんだ――限界突破バルザフ



 アミーラの身に何が!?

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