29.「数の暴力」
ヴェダVSイブン!!!
「マミー、スザンナ頼んだッス」
アタシはイブンから目を逸らさずに、イブンの後方にいる、マミーとスザンナへ小声で指示を送る。
「雷音」
「涅槃寂静」
マミーとスザンナが、背後からイブンに攻撃を仕掛ける。
(よし! 下手にアイコンタクトで指示を出すと、イブンにバレるかもしれないッス! なら、アイコンタクトなしで、エルフ族の聴覚を活かしたチームプレーをすれば、イブンを翻弄できるかもッス!!)
「着眼点は悪くない」
しかし、イブンは背後からの攻撃を容易く躱し、一瞬でマミーとスザンナの後方へと回り込んだ。
「種族の特技を活かして、戦うやり方は。ですが、覚えておくといい。ゴブリン族も、エルフ族ほどではないにせよ、聴覚は優れているのですよ」
イブンは耳に指を向けながら、どこか得意げに解説する。
エルフ族のような長い耳は飾りじゃないってことか。
「付け加えるなら、このイブンのスキルタイプはインファイター。肉体強化系魔術で聴覚を強化すれば、エルフ族にも負けない聴覚を持つことができる。つまり、聴覚のアドバンテージはないと思った方がいい」
「丁寧にスキルタイプまで教えてくれるとは、舐められた者ねぇ。でも、こっちは何も教えるつもりないから」
「どうぞご自由に」
マミーの強気な一言にも、イブンは余裕の笑みを崩さない。
「とはいえ、五対一は厳しい。このイブン、単純な身体能力では五行緑月の中で最弱。数の暴力に押される可能性もある……ですので」
イブンは笛を吹こうとする。
「させるかッス! 天鼓雷音」
「♪♪ くっ!?」
アタシの攻撃は躱されたが、それでも吹鳴を中断させることには成功した。
「あれを吹かせてはだめ!! 当たらなくても吹くのを妨害し続けるのよ!!」
アンナの呼びかけに応じて、全員でイブンに遠距離攻撃を仕掛ける。
イブンが本当にインファイターなら、傀儡系魔術は苦手なはず。できても杜撰な命令くらいしか出来ないだろう。だが、ルーベンスの兄貴を操った技術はまるで、オールラウンド級だった。
教祖のように魔力譲渡による例外を除けば、おそらく、あの笛そのものが、傀儡系魔術の効果を持つ武器なのだろう。
ゆえに、あの笛の吹鳴を許せば、アタシたちはイブンに操られる。だから、絶対に吹かせてはならない。
それに傀儡系魔術は、その術の便利さを代償に、操れるようになるまでの難易度が高い。
もし、聞かせることが条件だとしたら、それなりに長い演奏が必要なはずだ。だから、たとえ躱されても妨害のために攻撃し続けるのだ。
「フン! あなたたちが妨害しようとするのは、わかっていた。だから、こちらも手を打たせてもらった!」
「来なさい!! ファラビ、ビールニ、ラーズィ、ジャヒズ」
イブンが四つの名前を叫ぶと、やがて、地面の下から重々しい物音が響いてくる。
そして――
ズボ! ズボ! ズボ! ズボ!
地中から、四体のゴブリン族が現れた。
「ぞ、増援ッスか?」
「仲間に頼るのは、あなたたちだけではない。こちらにも、頼れる仲間がいるのですな」
イブンは、どこまでも得意げな笑みを浮かべていた。
「そんな、いつ仲間を呼んで……はっ! まさか、さっきの吹鳴は?」
「そうだ。先ほどお前らが妨害しようとした吹鳴、あれは、傀儡系魔術を発動しようとしたのではない。仲間を呼ぶ合図だったのだ」
そうか。ゴブリン族だって聴覚は優れている。だから戦闘の最中でも、こちらに駆け付けることができたのか。
アタシはようやく、イブンの狙いを理解した。
「これで五対五ですな」
イブンたちと、アタシたち元ダークカイトが互いに睨み合う。
「喜捨♪♪♪♪♪♪」
イブンが魔術名を唱えたかと思うと、瞬時に吹鳴を発した。
すると――
「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「グオオオオッ!」
「はぁああああああっ!」
「いつもサンキュー!! イブン!」
ファラビ、ビールニ、ラーズィ、ジャヒズが、身体中が充血するかのように、緑から赤い身体へと変化した。そして、変化したのはそれだけではなかった。なんと、魔力、筋力が共に大幅にパワーアップしていたのだ。
この現象は――
「肉体強化系魔術ッスか?」
「そうだ。肉体強化系と傀儡系の複合魔術。自分自身は強化できないが、仲間を強化することができる」
「暗示をかけることで仲間を強化する……つまり、あなたはバフ要因でもあるわけですね」
スザンナが解説する。イブンの言う通り、仲間は目に見えて強化されたのに対し、イブン自身は、まるで変化がなかった。
「皆! あれで行きますぞ! 氷水装束」
イブンは、氷水系魔術の水を使う構えとして、手を縦向きの指鉄砲の形にする。
そのまま、魔術名を唱えると、全身、水のトーブを着用した。
「「「「氷水装束」」」」
仲間たちも同じ魔術を唱えて、水のトーブを着用した。
「来るわ! みんな、構えて!!」
マミーの掛け声でアタシたちは神経を研ぎ澄ませる。
イブンは何やら大きく息を吸った。奇妙なのが、全身がほぼ、水のトーブで包まれているのに、イブンの口元とその笛は水に包まれていなかったのだ。
「吹こうたって、妨害するだけよ。くらえ、天鼓~~」
キィィィィィィィィィィィィィイン――――ッ!!!
「し、し、しまった――ッス!!」
突如、耳をふさぎたくなるような爆音が笛から放たれた。
その強烈な高周波によって、アタシたちはその場で動きを封じられる。聴覚が他の種族より優れているからこそ、こういった攻撃には弱い。だが、それはゴブリン族だって同じはず。
しかし、予想に反して、ファラビ、ビールニ、ラーズィ、ジャヒズの四体は、この爆音をもろともせず、こちらに向かって来る。
(そ、そうかッス! 奴らは、水のトーブに包まれることによって、この爆音に耐えることが出来るのかッス!)
そういえば、本で読んだことがある。
空気中の音は、空気を振動させてアタシたちの耳に届く。
しかし、その音のエネルギーが水に入る場合、空気と水の密度の差によって、ほとんどの音が水面で反射されるという。
確か、水面で約99.9%の音が反射されて、水中に届くのはごくわずからしい。
つまり、水のトーブは、「空気中の音」を遮断するバリアとなり、この爆音の中でもへっちゃらということ。
たとえるなら、アタシたちが大音響のライブ会場で苦しまされているのに対して、イブンたちはプールの中に潜って防音してるようなもん……!
(しまったッス!? なんとか、反撃をしないとこのままじゃ)
だが、アタシ含めて、元ダークカイトは音に怯み、思うように動けない。
そして、アタシ目の前で、アンナ、エルザ、スザンナ、マミーの四人が無惨にも殺された。
「そ、そんな……」
イブンはアタシ一人になると、吹鳴を止める。
「お待ちなさい。そこのエルフ族はこのイブンが仕留めましょう!」
イブンは仲間がアタシに向かおうとするのを制止させる。そして、一瞬でアタシの懐へと迫る。
「フン!」
ゴスッ!
「がっは……!?」
みぞおちに鋭い一撃。アタシは血を吐きながら、前方へと倒れ込んだ。
「あなたですよね? オールラウンドの力を持ったヒーラー……見た目も、ハサンの話通りですな」
(ハサン!?)
知っている名前が聞こえた。以前アンナ隊と共に戦った際に、アタシの力をハサンたちに見せていた。やはり、情報は共有されていたか。
「このイブンは!」
バキッ!
「ヒーラーが嫌いだ!!」
ガスッ!!
「その上、オールラウンドの力まで持つなど」
ゴスッ!
「どんだけ欲張りですか!! こんのォォォ」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン
何度も何度も、足で踏まれる。回復系魔術ですばやく回復しているが、それでも攻撃をくらい続け、身動きが取れない状態だ。
「この回復の速さ……やはりヒーラー……グぬぬ。憎たらしい」
「イブン! 殺すなら二度殺さないといけない。どいうわけか、タウンの信者共は、蘇生魔術を使えることがわかった。ここで殺したエルフ族たちもそこのエルフ族も例外ではないだろう」
「蘇生魔術を!? あれは回復系魔術の極み、それこそヒーラーでないとたどり着けないはず!! 一体どうなっているのですか!?」
「どういうわけかはこっちが知りたい。だが、蘇生魔術を使えるなら二度殺すか、俺たちのように、心臓に刺したまま、生き返れないようにすることだ」
イブンと仲間たちが会話している。
やはり蘇生魔術のことはバレている頃か。そして、元ダークカイトは、蘇生魔術を使えるはずなのに、いまだに使っていないところを見ると、生き返りたくても生き返れない状態にされているということだ。
「どいつもこいつも希少なヒーラーの力を持ちやがって……ヒーラーになれるならこのイブンだってなりたかったわ! だが……いい。この場であなたを殺しましょう。二度も。個人的な恨みはここまでにして、この戦いに勝つことを優先せねば」
イブンは、アタシを痛めつけるのを止め、トドメを刺そうとする。今の状態では、反撃ができない。魔術を発動しようとしてもその前に殺される。
――……わかったわ。でもヴェダ無理はしないでね。あなたが死んだら一気にタウンの死亡率は高くなるから
――わかったわ……イブンはお願いする……でもヴェダ、何度も言うけど、無理はしないでね
今になって、姐さんの言葉がふと頭をよぎる。
姐さんはまさに、この状況を恐れていたのだ。もしアタシが死ねば、もう誰も蘇生魔術を使えなくなってしまう。だからこそ、姐さんはアタシが死なないように、戦うのを止めようと必死だったのに……。
だけど、アタシはその言葉を振り切り、戦えると慢心してしまった。その結果が、このザマだ。すべてはアタシの責任だ。
(すみませんッス姐さん。何度も止めて貰ったのに……教祖……元ダークカイトのみんな……タウンのみんな……すみませんッス……アタシはここまで~~)
「聖風霊」
突如、イブンの前に風を纏った矢が飛んできた。イブンはその矢を躱し、後方へと跳躍した。そのおかげで、結果的にアタシは助かった。
この魔術と今の声は――
「遅くなってすまない。ヴェダ、私が来たぞ」
「プーラン!!」
元ダークカイトのリーダーであり、現在はタウンの門番を務めるプーラン・デック。今でもアタシたち元ダークカイトにとって頼れる姉貴分だ。
「アンナ……エルザ……スザンナ……マミー……」
プーランは、無残な姿となったかつての仲間たちを見つめる。
そして、拳を握りしめた。血がにじむほどに。
「ゆ、許さん……許さんぞぉ……テメェらぁああ!!」
「フン。許さないならどうするんだ?」
一体のゴブリン族がこちらに飛びかかる。
だが、プーランはあっさりとカウンターでパンチしてぶっ飛ばす。
「この強さ……もしや……あなたたち、一旦は、このイブンに任せなさい。ナーイ」
イブンは武器を壊されないためか、魔法陣で笛を仕舞う。そして、少しずつ、プーランの元へと歩む。
プーランもナイフを取り出してイブンへと歩む。
そして、両者間合いへと入る。
互いに間合いに入り、にらみ合う。
そして――
プーランから仕掛けた。
だが、イブンはいとも簡単にナイフを持つ手を叩いて落とし、プーランのみぞおちに鋭い一撃を与える。
その衝撃で、ズザザザザと地面を削りながらプーランは後退させられた。
しかし、プーランは痛みを顔に出さずに、その一撃を耐えていた。
「これは珍しい……もしやと思ったが、エルフ族のインファイターに会えるとは。エルフ族はたいてい、オールラウンドかヒーラーが多いのだが」
「種族で判断してはいけませんって習わなかったのかおっさん」
プーランは徒手空拳でイブンに挑む。
格闘が繰り広げられるが、どうしてもプーランが押され、イブンは攻撃を一つもくらっていなかった。
「フフ。これはいけない、早いところ片付けてタウンの中に入りたいのだが……インファイターの血が騒ぎ、力比べをしたくなってしまう……だが、これでわかりましたでしょう? 格闘技術ならイブンが上だ」
プーランは「ぺッ」と唾を地面へと吐き捨てた。
「ほざけ、老コブリンのへなちょこ打撃なんぞ、効くわけがないだろう?」
プーランは身体に力を入れる。そして――
「ハァアア、サン・サーラ!」
姐さんの肉体強化系魔術でプーランは、魔力を大幅に増やす!
「なんだ!? その魔術? 魔力が増え――」
イブンが驚いた隙に、プーランは膨大に増やした魔力を活かして、一瞬でイブンの間合いへと入る。そしてその顔面にバキッ! と強烈なパンチをくらわせる。
「ぐは!?」
「オラオラ! どうした! 格闘技術なら、自分が上じゃないのか!?」
プーランは猛スピードでラッシュを仕掛け、イブンは防戦一方となる。
「お、お前らぁ! 何をぼさっと見ている! さっさと全員でコイツをリンチせんか!!」
「ヴェダ! 今のうちに皆を頼む!!」
イブンは、自分が不利になった途端に、仲間たちに指示をする。一方プーランもアタシに指示をする。
そうだ。プーランがイブンを抑えている間に、アタシはアタシでできることをしなければ。
アタシは、両手を刀印の形にする。そして――
「千風」
両手から巨大な竜巻を放つ。
その圧倒的な風圧で、仲間のゴブリン族の足止めをし、元ダークカイトを空中へと飛ばす。
この魔術は風の斬撃のように相手にダメージも与えられるが、今回はダメージではなく、ゴブリン族の足止めと、マミーたちに突き刺さっている武器を抜くために使った。
「「「「ヴェダ! ありがとう!!!!」」」」
突き刺さった武器が抜けた後、空中で、元ダークカイトは蘇生魔術で復活した。
「「「「な、なにぃ!?」」」」
仲間のゴブリン族たちは、蘇生魔術で復活した元ダークカイトに驚く。
「ゴブリン族なんて、全身コブまみれにしてやる!」
ラッシュでイブンをボコボコにしたプーランは、最後に思い切り右ストレートでぶっ飛ばす。
仲間のゴブリン族は、ぶっ飛ばされたイブンを受け止める。
「ハァ……ハァ。やりますねぇ……インファイターとして、格闘で負けるのは身体以上にプライドに傷がつきますが……こうなったら、もうなりふり構わない。絶対にお前らを倒してやる」
プーランからあれだけ殴られても、イブンはまだ戦えそうな雰囲気だった。
「大した言い草だが、形勢は六対五……こちらが有利だぞ?」
プーランが勝利宣言をするかのように、得意げにイブンたちへ告げる。
「フン! 舐めるなよ。数で劣るならこれで増やすまでよ! ナーイ」
イブンは再び笛を取り出した。
「土の命。プーラン、皆、この耳栓をして! これに大量の魔力で、コーティングすれば、先ほどの音響攻撃も、傀儡系魔術の音も防げるはず!!」
アンナは土から作った耳栓を急いで回す。試しに耳栓を耳に入れ、大幅な魔力を纏ってみると、完全に無音になった。
なるほど……確かに、これならイブンの音攻撃を防げそうだ。しかし、これは諸刃の剣。エルフ族の特技である聴覚を封じることで、互いに言葉による連携も取れなくなるのだ。
イブンはニヤリと笑みを浮かべ、その場を離れた。
向かった先は、姐さんによって氷漬けにされたルーベンスの兄貴のもとだった。
そして、炎火系魔術でルーベンスの兄貴の氷を解かそうと試みる。
「し、しまったッス! ルーベンスの兄貴をまた操ろうとしているッス!!」
「ええい! 仕方ない、一斉攻撃よ! 仮にルーベンスが巻き込まれて死んだとしても、蘇生魔術で生き返れる」
エルザの呼びかけで、アタシたちは、ルーベンスが巻き込まれる覚悟で、遠距離攻撃を仕掛ける。
だが、他のゴブリン族は肉壁となってでもイブンを守ろうと必死だ。
(このままだと、また、ルーベンスの兄貴が奴らに操られるッス……ならば、一か八かこの手に賭けるッス)
元ダークカイトは遠距離攻撃中。ゴブリン族はそれを防ぐのに精一杯。イブンはルーベンスの兄貴の方向を見ている。その隙に、アタシは、クルパスに魔力を込める。そして、ルーベンスの兄貴から少し離れたところに放り投げた。
そうこうしているうちに――
「ご主人様」
氷漬けから解放された、ルーベンスの兄貴が起き上がった。
「ハーハッハッハ! どうですか? このドラゴン族は、またイブンの物になったぞ! これで六対六だなぁああああ」
イブンは興奮しながら、得意げな表情で宣言した。
「そんな、ルーベンスの兄貴……」
アタシは絶望した表情を見せる。
「ルーベンス。今度こそ役に立ってもらうぞ! この後、タウンに突入し、お前の力で次々と仲間を仕留めて貰うからな!」
「まずは手始めに奴らを消し炭にしろぉおおお!!」
なりふり構わなくなった、イブンは、ルーベンスに命令する。
「ハイ。コォ・キュ・ウ――火竜の」
ルーベンスの兄貴は口の中で炎を溜める。
「息吹」
そして、アタシにウィンクを送った直後、その足元――つまりイブンたちに向かって炎を吐き出した。
「「「「「ぎゃぁあああああ」」」」」
「な、なぜ! 我らに攻撃を!?」
「ヒーラーのことを憎んでいる癖に、大事なところを見落としていたッスね……たとえ仲間が傀儡系魔術にかかっても、回復系魔術の中には解除できるものがあるッス」
勝利を確信したアタシは、耳栓を外し、イブンたちに向けて勝因を解説する。
「魔術名は、いつものあなたに。この魔術を使わせてもらったッス」
魔術名【いつものあなたに】。回復系魔術の一種。
傀儡系魔術のように対象の脳に干渉し魔術を発動するタイプにはこの魔術で救える。この魔術は、イブンの喜捨のように自分にはかけられず、他者にかけるためのもの。つまり、自身が傀儡系魔術にかかった場合は、自身で救うことができない。
「だ、だが、い、いつそんな魔術を使ったのだ!? お前が回復系魔術を使った気配は――」
「どさくさに紛れて、回復杖を投げた時ッスよ。回復杖のクルパスは、回復系魔術の射程を増やし、魔術の構えを省略できるっス。傀儡系魔力が発動しても、その時、ルーベンスの兄貴はとっくに回復していたッス!!」
「ヴェダがここにいてくれてよかったな……他の誰かなら、ルーベンスを止められなかったかもしれない」
プーランが励ますように言ってくれた。
「プーラン……」
その言葉で、アタシは胸のつかえがスっと取れた気がした。
「くそぉ……これだからヒーラーは嫌いだぁあああああ」
イブンは断末魔のように叫んだ。アタシ冥途の土産として、次の言葉を送ろう。
「残念ながら、六対六ではなく、七対五だったッスよ。数の暴力でこっちが勝ちッス」
実を言うと、イブンがヒーラーを嫌う理由について書く予定でしたが、長くなってしまうので泣く泣く割愛となります……機会があれば、どこかで説明したいです




