9.「火天(かてん)」
ナレーザの森の奥部に進むインチキ教祖とジュダス。歩きながら二人の会話が続く。
「俺のスキルタイプ? コネクトだよ」
「コネクト!? 嘘……コネクトなんてこのナレーザや魔術訓練校に行ったときでも見たことないわ。本当に実在しているんだ……」
「あっやっぱり珍しいだ。このスキルタイプって。ちなみにジュダスさんのスキルタイプは?」
「私のスキルタイプは、オールラウンド。特徴は、一言で言えば万能。生活に役立つ魔術や戦闘に使える魔術など色々な魔術を行使できるタイプよ」
スキルタイプ・オールラウンド。
コネクトが自力で魔術を発動できないのに対しこちらは多種多様な魔術を自力で発動できるのが強み。
この世界で魔術師と呼ばれる者は大体がオールラウンドに該当し、歴史に名を残した勇者もこれに該当したとか。
「要はバランスがいいタイプってことだろ。色々な魔術が使えるのは羨ましいが、短所も長所も秀でてなさそうで、実は一番微妙なスキルタイプっぽい気がするな」
「そうやってオールラウンドは、器用貧乏だと揶揄する声もあるけど、私はそうは思わないわ。得意な魔術、例えば、反撃型魔術や罪と罰式魔術が得意なら、その方面を特化すれば他のオールラウンドと差別化できるし、反対にオールラウンドらしく様々な魔術が使えるからこそ、出来るだけ色々な魔術に精通する道もある。やはり選択肢が多くあることに越したことはないわ」
ジュダスは誇らしげにオールラウンドの利点を流暢に喋る。
「なるほどなぁ。結構奥深いんだな……オールラウンドでも。でっ肝心のジュダスさんはどんな魔術が使えるの? ジュダスさんはどのくらい凄いんです?」
「フフ。これは自慢になりますが、私の魔術の才能はこのナレーザで断トツだとみんなから言われていますよ。何せあの術を修得できたのは、私だけですし」
「あの術? なんです。それ?」
思わせぶりなジュダスの発言に食いつくインチキ教祖。
「あっ、いや別に他人のあなたにそこまで教えなくてもいいかな……あなたが真実教に入るのならば、教えることを考えてもいいけど――」
片目を閉じながら、勿体振るように話すのを止めるジュダス。その態度に少し納得いかない態度を見せるインチキ教祖。
「つまり、ナレーザで私より強いエルフはいないということですよ。一年間、魔術訓練校で魔術を体系的に学んだこともあり、さらにその腕は磨かれていますよ」
「へえ、凄いんだな。ジュダスさんは~。まあ、周りのエルフがしょぼくてジュダスさんもちょっとマシなだけでたいしたことない可能性もあるけど」
ジュダスの凄さを認めようとしないインチキ教祖。
「むっ。なんですって! そういうあなただって、教祖だというくせにこの世界のことなにも知らないじゃない!いうほどたいしたことなさそうね! ウンコウ様なら知らないことなんてないのに」
喧嘩を売ってくるようなインチキ教祖の言葉に買うジュダス。
「俺はそのあれだよ! 全知全能なタイプじゃなくて、神インシュレイティド・チャリティ様の預言者や代弁者みたいなタイプなの! 神様から教えられてねえんだから知らなくても当然だろ!」
とって付けたような設定で反論するインチキ教祖。
「だいだい、そのウンコウとか言う奴も、怪しい奴だな。知らないことはないとか言うけど、知ったかぶりしてるだけかもしれないだろ? 最もらしいことを言うけど誰にでも当てはまるような言い方だったり、後は信者が秘密にしていることを教祖が見抜いて教祖スゲーみたいなやり方もあるけど、それは別の信者からの告げ口を聞いていましたっていうパターンもあるしな。例えば、ジュダスの秘密をウンコウが言い当てるけど、それはジュダスの両親がウンコウに教えていただけとかね」
インチキ教祖の反論に思うところがあるのか、黙るジュダス。
「後は魔術が使える世界ならそうだな……相手の心が読める魔術を使っているとかもあるかもな。多分そういう魔術もあるだろ?」
「……疑うだけなら誰でもできます……家で話した通り、私が口で反論するよりウンコウ様の説法を聞いて見てもらってからあなたの判断に任せましょう」
インチキ教祖と議論を打ち切るようにジュダスは歩みを早める。
二人が歩いていくと洞窟が見えてきた。
「この洞窟を通り抜けると、いよいよ真実教の道場となります。週に一度の説法は、在家教徒の私でも教徒でもないあなたでも参加できるイベントなのですよ」
「いよいよかぁ。しかし、結構暗い洞窟だな。転んだりしないか心配なんだが」
「そうですねぇ……そうだ! インチキさん。せっかくだから、魔術というものを実際に見せましょう!」
するとジュダスは左手を前に出し手のひらを上に向ける。アイアンクローのような掴む形にする。
「火天」
と唱えたと同時に掌サイズの火がボォと現れた。
「うおお。火が出たぞ!」
実際に魔術を見たインチキ教祖は驚いた。その目はワクワクが止まらない子供のような目で火を見つめる。
「この火の魔術で松明代わりにして先に進みましょう。それとインチキさん。ここは迷いやすいので、はぐれないように私の手を取ってください。さあ」
インチキ教祖に右手を差し伸べるジュダス。インチキ教祖は照れながらもジュダスの手を掴むことにした。
「一応聞くけどさ。火を出し続けている間、その手熱くないの?」
ジュダスの左手がやけどしないか心配するインチキ教祖。
「大丈夫です。あらかじめ、魔力で手をコーティングした上で炎火系魔術を発動していますから。未熟者なら火加減加間違えてやけどすることはざらにありますが」
インチキ教祖はなにか考え込む素振りをしたあと、ジュダスにある提案をした。
「……ジュダスさん。お願いがあるんだけどいいかな?」
10話は11/7に投稿します。
10話はntr描写あるため、苦手な方は注意。
追記
ウンコウの説法会は週に一度開催される設定ですが、本文だと月に一度と記載誤りがありました。
そのため以下の文に修正しています。
「この洞窟を通り抜けると、いよいよ真実教の道場となります。月に一度の説法は、在家教徒の私でも教徒でもないあなたでも参加できるイベントなのですよ。」
から
「この洞窟を通り抜けると、いよいよ真実教の道場となります。週に一度の説法は、在家教徒の私でも教徒でもないあなたでも参加できるイベントなのですよ。」に修正。