プロローグ:「俺のことは、インチキ教祖と呼んでくれ」
はじめまして。朝月夜ではなく、朝月夜と申します。
初連載となります。色々と未熟だと思いますが、私なりにベストを尽くしますので、温かい目で見ていただければ幸いです。
「……はぁ……出家かぁ」
深いため息をつく私の名は、ジュダス・トルカ。
種族はエルフ、性別は女性、信仰している宗教は、「真実教」ということにされている。
魔術訓練校で訓練を修了し、数日前に故郷ナレーザに帰郷したばかりだ。
種族ごとの争いが絶えず、欲しいものは力で得ようとする、弱肉強食と呼べるこのご時世。
明日の命も保証できない、不安定な時代の中で、故郷ナレーザでは、家族や仲間との絆を大切にする価値観を持つエルフ族が暮らし、皆それぞれ支え合って生きている。
自然も豊かで辺りは、森に囲まれていることと、ナレーザ特有の魔術結界のおかげで、ナレーザ外で住んでいるものから見つかりにくい。おかげで、集落を荒らしてくる盗賊のような外敵は滅多に現れない。
地元民として贔屓目もあると思うが、ナレーザは、住むならいい集落だと思う。ある一点を除けば。
そう、最近、私はとある悩みを抱えている。
「パパもママも出家したせいで、家では私一人で寂しく暮らしているし、パパもママも最近おかしいわ。真実教にお金や魔力をお布施だからと極端にあげようとするし、事あるごとに私に出家をおすすめするし、なにより……パパとママのあの顔。なんか生気が無く不気味な目つき」
「私が知っている優しいパパとママとは思えない……心なしか、前よりもすごく痩せてきている。あの瘦せ方は健康的な瘦せ方とは思えないわ」
以前まで家族三人で暮らしていたはずの家で、私は独り言をつぶやく。
たまに家に顔を見せたと思えば、「パパとママは幸せだ、ジュダスも是非出家しなさい」と満面の笑みで出家を勧めてくる。
だが、その笑顔は自然な感情で作られた笑顔ではなく、どこか無理して作っているような笑顔だった。
まるで誰かに笑いなさいと、刃を喉元に突き付けた状態で脅されて作ったような笑顔を感じた。
私はその笑顔に得体の知れない恐怖と怪しさを感じているが、両親を思うとはっきりと断れず、出家を保留している状態だ。
だが、中々出家を選ばない私に対して、両親は、苛立つようになってきた。
出家するのは教徒の自由意志のはずだが……最近真実教の教えに疑問を感じる日々だ。
「ごめんくださーい。誰かいますでしょうか?」
一人で思い悩んでいたら、だれかが戸を叩いて声を掛けてきたようだ。
知らない者の声であるが、居留守をする理由も特にないため、返事をすることにした。
「は~い。今でますからしばしお待ちを~」
と返事して玄関を開けてみると、見慣れない服を着た(人間年齢に換算すると)20、30代くらいだろうか、黒髪の人間の男性が立っていた。
種族人間は、真実教の教祖を除いてここナレーザに住んでいないはずなので、真実教の教祖が来て以来の外部の者ということになる。
「何か用でしょうか?」
とりあえず私は人間の男性に尋ねた。
「突然すみません。信じてもらえないかもしれませんが、気が付いたらここに迷い込みまして……ここがどこかわからず、色々聞いてもよろしいでしょうか?」
男性は話しながらも、恥ずかしがってか、私と中々目を合わせようせず、目をきょろきょろ動かしていた。
得体の知れない人物であるが、このまま立たせたままお話させるのは悪い気がして、次の提案をした。
「事情はよくわかりませんが、詳しい話は中で聞きましょうか? よろしければお入りください」
「ええっ!? いきなり入ってもいいのですか?」
見ず知らずの人、しかも男性をいきなり家に招き入れるのは、私でもどうかと思う。私の態度に逆に男性の方が少し警戒をしているような気がした。
「あなたが、困っているならば……私の立場としても放っておくわけにはいけませんからね……もちろん無理に入れとは言いませんが」
男性はその場で少し考え込む素振りをしたあと、中に入ることを了承した。
「わかりました……お言葉に甘えて、邪魔しましょう」
私が急に家に招き入れた理由は三つある。
一つ目の理由。
〝困っている者は助けよ〟それは真実教の教えでもあり、在家教徒の私の立場として実践すべき行いだからだ。最近の真実教に疑問を感じているとはいえ、この教えは私も大事だと考えている。
二つ目の理由。
仮に、この男が、盗賊や殺人鬼だろうと、襲われたら返り討ちにできる自信があるからだ。
私の魔術・剣術の才能はこのナレーザで自他ともに一番だと認められている。
この男性がもし私より強い場合はこの驕りは命取りになるだろう。
だが、強者なら魔力を抑えていても、立ち振る舞いや魔力の流れから只者ではない雰囲気を感じることが多々ある。しかし、この男からそういった強者の雰囲気は感じないのだ。もちろんそれでも警戒はしつつも一旦は様子見しようと考えた。
失礼だが、この男性。気弱そうであまり強そうに見えないこともある。
三つ目の理由。
この得体の知れない男性の話を聞いてみたい気分だった。
見慣れない服を着ているからか? 種族が人間だからか? この男性の目的は何だろう?
自分でも理由は分かっていないが、不思議と話くらい聞いてもいいかもという気分であった。
私は、男性をテーブルに座らせ、お茶を出し、お話を続けることにした。
「まずは、自己紹介からですね。私はジュダス・トルカ。見ての通り、種族はエルフです」
「……インシュレイティド……私の名はインシュレイティド・チャリティだ。種族は人間です。よろしくお願いします」
「インシュレイティドさんね。こちらこそよろしくお願いします」
「さて、さっそく私の疑問を聞きたいけどいいかしら? 先ほど、気が付いたらここに迷い込んだと言いましたね? そもそもどうやってここに来たのでしょうか?」
「ここナレーザという地は森の深部にあることを加え、外敵から見つからないように、結界術を張っているのです。結界の外からは、大きな崖に見えるように細工しているため、外部の者が迷い込むのはあまり考えづらいのですが……」
インシュレイティドさんは相変わらず、中々目を合わせず、話を続ける。
「……うーむ。どこから話せばいいか分かりませんが、私のことを一から話しましょう」
「これから話すことは、あなたには信じがたいかもしれません。ですが、全て真実であり、どうか真剣に聞いてください」
「まず私はこの世界の住人ではありません。私はある使命を持って、異世界からこの世界に来ました。私が目を覚めたときにすでにここナレーザ? という場所にいたのです」
異世界? ある使命?
こんな突拍子もない話、初耳であったなら、到底信じられないと思っただろう。だが、この話、今から約一年半前、同じようなことを真実教の教祖も話していた。「異世界から真実教を広めるためにこの世界に転生してきた」と。
「あのう……つかぬことをお聞きしますが、ジュダスさん。あなたは今悩んでいることがありますよね?」
さっきまでなぜかあまり目を合わせようとせずに話していたのに、今度は決意じみた顔つきで急に私の目をまっすぐ見つめ直してきた。
「悩みですか?」
思ってもみないことを問われ、私は聞き返す。
インシュレイティドさんは、真剣な顔で話し続けた。
「あなたを一目見てわかりました。表情に分かりやすく表れているというわけではないのですが、私だからこそわかるのです」
「どういうことですか?」
私だからわかる? この男性はなに言っているのだろう? 疑問に感じていると……
「これは失礼。私いや俺の正体をまだあなたに説明していませんでしたね……」
インシュレイティドさんは、急に口調変え、続け様にこう述べた。
「俺はインシュレイティド・チャリティ教の教祖。インシュレイティド・チャリティだ。つまり、宗教の教祖をやっている」
「俺のことは、インチキ教祖と呼んでくれ」
2025年4月27日追記)
読みやすくするために、改稿しました。一部文章表現を変えていますが、話の内容そのものは変わっていません。