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第九話 中学校時代 その三

 

 雪菜の周りには多くの人間が集まった。

 それだけ雪菜には魅力があるということだ。


 似た者同士が集まるとはよく言われることで、つまり雪菜に似て才能に溢れた──しかもそういう奴らに限って人間性もいいってんだから非難しようがない──『似た者同士』が集まるってわけだ。


 俺なんかよりもずっと優秀で、人間性もよくて、欠点なんて何もない奴らに囲まれていたほうが幸せなはずだ。


 俺が本当に雪菜のことを思うならさっさと離れるべきだったのかもしれない。


 だけど。

 それでも、だ。


 雪菜と一緒にいたいと望んだ。

『なぜか』なんて考えるまでもなく当たり前のように。


 もしかしたら雪菜なら平凡なままの俺でもそばに置いてくれるかもしれないが、そんなおこぼれの哀れみで一緒にいたって雪菜の足を引っ張り続けて情けなくて死にたくなる。


 だったらせめて一緒にいても誰も文句をつけられないくらいの男になれ。俺なんかが雪菜のそばにいていいのかと、そんな風に悩まずに済むように。


 だからこの頃から俺はらしくもなく勉強とかスポーツとかに打ち込むようになった。まあすぐに自己流の付け焼き刃じゃ雪菜のような真の天才には手も足も出ないと悟ったんだが。


『雪菜。勉強教えてくれないか?』


『……へ?』


『やっぱりできる奴に頼るのが……何だよ、その間抜けヅラは?』


『いやだって、大和が勉強をって、テスト勉強すらろくにしない勉強嫌いがどうしたの!?』


『うるせえな。学生の本分として勉学に勤しむのがそんなに悪いか?』


『悪くはないけど、本当いきなりどうしたの? 何かあった?』


『別に何でもねえよ。あれだ、将来のことを考えてってヤツだ。成績が良くて損することはないからな!』


『……、そっか』


『ちなみに、雪菜はどこの高校に行くとかそういうのもう決めているのか?』


 将来の夢とかさっぱりな俺にとって絶対にこの高校に行きたいってのはない。


 自分の能力に見合っている県内の高校。

 それくらいの漠然とした進路希望しかないが、今の俺の能力に見合ったところに天才である雪菜が行くわけもない。


 そうだ。

 一緒にいたいといくら望んでいても能力に差があれば簡単に離れ離れになる。


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 そんなの許せるわけがねえ。

 だからこそ、雪菜の足を引っ張ることなく一緒にいるためには雪菜につり合う男にならないといけねえんだ。


『高校……。まだ中二だし、具体的にどこって決めてはないかな。いけるところにいこうってくらいで』


『…………、』


『ああでも、先生からは剣城繚乱高校にだって合格できるとか何とか言われたような……?』


 それは県内でも抜きん出たトップ、まさしく俺みたいな凡人はハナから目指そうと候補にすら入らない高校だった。


『そっか』


 そんな怪物高校に合格できると言われても、まあそんなものかと軽く扱えるくらい、雪菜のポテンシャルは高いってわけだ。


『まあ私的には大和が行く高校ならどこにだってついていくんだけどねっ。どこに行くんじゃなくて、誰と過ごすかが大事だし』


『……、ふざけるなよ』


『大和?』


 進路とかそういうのを真面目に考えていないだけなのか、どこに進学してもその才能さえあればなんでもできると楽観視しているのか、そこまで難しく考えていないだけなのかは知らない。


 だけど、この時、雪菜は明確に可能性を狭めようとした。本来なら手が届くもんを捨ててでも、俺みたいな凡人に歩幅を合わせようとしたんだ。


 少し前までは周囲が敵だらけだったせいで『味方』が欲しかったのもあったかもしれない。


 この時にはもう大勢が雪菜の味方をしてくれていたとしても、過去の仕打ちから完全に信じるには時間がかかるのも無理はない。


 だから、俺という安牌を確保しようとした。

 もしもそうなら、こんなにも腹立たしいことはない。


 雪菜にじゃねえ。

『味方』だと、俺のことをそう思ってくれている雪菜に歩幅を合わせてもらわないと隣に立つこともできねえ俺自身のボンクラ具合にだ!!


『剣城繚乱高校? 上等だ! 県内トップだろうが何だろうが受かってやるよ!! あんまり俺を舐めるんじゃねえぞ、雪菜あ!!』


『ええっ!? いや、あの、本気?』


『俺はいつだって本気だ!!』


『そ、そうなんだ』


『つーかあの五人組にとやかく言われたからってすぐ校舎裏に飛んでいってわんわん泣きべそかいていた奴に手が届く程度の高校だろ!? 俺なら余裕だっての!!』


『ぶっふふ!? なっななっ、過去のアレソレを持ち出すのは卑怯じゃない!? そもそも泣きべそかいたりしてないけどねっ!!』


『いや、盛大に顔面ぐちゃぐちゃにして泣きじゃくっていたって』


『そこまでひどくはなかったもん!!!! ……そのう、さっきは勢いで否定しちゃったけど、まあ、ちょこっとは泣いていたこともあったかもだけど』


 ムキになって照れくさそうに叫ぶ雪菜。


 どんなことがあっても笑顔で動じない、明るく元気なみんなのアイドル。そんないつのまにかでっち上げていた仮面の下、昔っからの雪菜らしさが垣間見えた瞬間だった。


『まあそんなのはどうでもいいんだが』


『ぜんっぜん良くないんだけど!? 大和のほうから持ち出しておいて雑に投げ捨てるのやめてよねっ』


『とにかく剣城繚乱高校くらい余裕で合格してやる!! わかったな!?』


『……、うん。大和は凄いんだってことくらい、私は知っている。普段ならともかく、そんなにマジになっているなら楽勝だよね』


『まあ自己流じゃ手応え皆無だったから雪菜に頼る気満々なんだがな! さっきも言ったが勉強教えてくれ本当マジでお願いします何でもするからお助けください雪菜様あ!!』


『あれえ!? この流れでへりくだってお願いしてくるの!?』


『だって勉強とかマジ無理だし。せめて最短最速最高に効率のいい方法を選びたいし!! だったら常にテストで百点以外とったことがないお前から盗めるもん盗むのが一番手っ取り早いし!! そのためなら俺はいくらでも媚びへつらうぞコラァッ!!』


『勢いだけはいいけど、内容はちょっと情けないよう!!』


『それで、お返事はいかがですかあ!?』


『別に勉強くらい教えるよっ』


『ありがとうございます!!』


『めっちゃ頭下げるじゃん、いいってそんなことしなくても!』


『このご恩は一生忘れません雪菜様あ!!』


『実はそのぺこぺこムーブちょっと面白がっているよね!?』


 こうして雪菜に勉強を手伝ってもらうことになったんだが、ここからが大変だったんだよな。


 偏差値を十とか二十とか上げるってレベルだったし。


 ……本当、よく受かったってもんだ。

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