第八話 中学校時代 その二
『雪菜ちゃんはー?』
『『『可愛いよおーっ!!』』』
気がつけばどんちゃん騒ぎが基本だった。
中学二年。もうここまできたら雪菜の素養は完全に開花していた。
誰もが可愛いと評価する美少女。
昔はあれだけ雪菜に嫌がらせをしていた五人組のグループさえも周囲の熱狂に押し潰されて何もできずに隅に追いやられていたくらいだ。
容姿端麗、文武両道、天才と呼ぶに相応しい多彩な才能を持つ美少女に成長した雪菜はまさしく学校のアイドルだった。
望めば何だって手に入る。
これまで不当な評価を受けていたからそばには俺しかいなかっただけで、この頃にはもう大勢の人間が雪菜の味方だったんだ。
住む世界が違う。
そのことをまざまざと見せつけられた。
このままでいいのか。
このまま『幼馴染み』としてそばにいていいのか。
望もうが望むまいが変化はやってくる。
さて、俺はどんな選択をしたんだったか。
ーーー☆ーーー
『──そろそろ雪菜と俺とじゃつり合いが取れなくなったなって柄にもなくセンチメンタルなんだよな』
『頭をかち割られて入院中というのによくもまあそんなことで悩めるですね』
『まさしく頭の痛い問題だからな。こんな怪我よりもよっぽど強烈だ』
見舞いに来てくれたクラス委員長──桜島繭香に軽いジョークを放ってみたが、呆れたように首を横に振られてしまった。
中学二年のある日。
入院中だったからこそ、これからのことを考える時間ができていた。
自分らしく生きると決めたばかりだからまだ舌ピアスとかそこまではっちゃけてはいない、つまり見た目『だけ』ならまだまだ真面目な委員長スタイルな繭香とも本当色々あったが、まあそれはそれとして。
『もう俺がいなくても雪菜は……』
初めて会ったあの日からずっと雪菜のことばかり考えている。それくらい夢中になってしまうほどの魅力が雪菜にはあるんだ。
この頃から世間の認識がようやく雪菜の素養と合致した。俺なんかがいなくても雪菜は大勢に愛されて幸せに生きていけるだろう。
『はぁ。何を言い出すかと思えば、です』
本当に呆れたように、だ。
真面目な委員長、には不釣り合いで、だけどそれでいいと吹っ切れた繭香は吐き捨てるようにこう言ったんだ。
『「一度しかない人生だぞ。お前が幸せになるために使いやがれ」……そう言ったのは大和クンですよ?』
そういえば繭香とのアレソレの中でそんなことも言ったような。
『それは、そうだが……俺みたいな凡人が足を引っ張って雪菜の人生を台無しにしたら絶対に後悔する。そんなことになったらどっちも幸せになんかなれるかよ』
『だから月宮雪菜につり合うような人間だけが月宮雪菜のそばにいるべきです?』
『…………、』
『このまま住む世界が違うと月宮雪菜を切り捨ててくれたほうがわたし的には好都合ですが、ああもうっ。こんなシケた顔した大和クンとか見てられないですよっ!!』
『繭香?』
『そもそも自己評価低すぎるのがこうして今も生きているわたしからしたら腹立たしいことこの上ないですが、まあ大和クンの自己評価に合わせてやるとしてもですよ』
繭香はぐいっと鼻と鼻とが触れ合うほどに顔を近づけて、
『つり合いだなんだそんなのが問題だってんなら月宮雪菜につり合ういい男になればいいだけでしょーが!!』
『な、にを、言って……。俺みたいな凡人があの雪菜とつり合う男になれるわけ──』
『このわたしの人生を救ってくれた男が何だってです!? あんまりふざけているとぶち殺すですよ!?』
『ちょっ、まっ、胸ぐら掴んで揺らすのやめっ』
『大和クンはどうしたいです? つり合いだ住む世界が違うだそんな小さな話は抜きにして、心の底では何を望んでいるです!? どうすれば大和クンは幸せになれるですかあッッッ!?』
そんなの決まっていた。
悩む理由がなかった。
『雪菜と、一緒にいたい……』
『だったら頑張るですよ!! 勉強もスポーツも何だって死ぬ気で頑張ればあの月宮雪菜にだって勝てるです!! 大和クンなら絶対にできるですよ!!』
ああ、だけど。
『なぜか』なんて考えもしていなかった。
それは俺にとって悩むまでもない当たり前だったから。
それでも、今はこうして過去を振り返ることで『なぜか』を説明できるようにならないといけねえんだ。