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第六話 小学校時代 その三

 

『かめやまくん。わたし、ほんとうにかわいいん、だよ、ね?』


『ああ、かわいいよ』


『……っ。だっ、だったら、だよ?』


 いくらか経って、三年生の後半の頃。

 小学生の子供の成長は男より女が早いからか、未来に高校中を可愛いで魅了する美少女に成長する面影が出始めていた雪菜はたどたどしくもこう提案したんだ。


『わたしが、もっとかわいくなれば……あの人たちが文句もつけられないくらいかわいくなれば、これ以上気持ち悪いとか嫌がらせできない、かも?』


『それは』


『いや、ごめんっ、じょうだんだよっ。わたしが、そんな、あはは、何言っているんだか』


『おいおい、天才かっ!!』


『え、えっ!?』


 ──今にして思えば嫌がらせなんかやっている奴らがそんな理由で矛先を納めるわけがないと、ああいう連中は他人を攻撃できるなら後付けで理由をでっち上げているだけだと、吐いている言葉に理屈とか因果とかそんなもんはなくて単なるストレス発散でしかないんだと、それくらいわかりそうなものだったんだが、この頃の俺は本気で感心していたんだ。


 まあ、雪菜が何やら前向きなことを言ったから全力で背中を押して自信をつけて欲しかったってのもあったけど。


『ようし、お前のかわいさで世界中の人間をメロメロにしてあのクソッタレどもを見返してやろうぜ!!』


『なんだかいきなり話が大きくなってない!?』


 結果として小学生のガキにできることなんてたかが知れているというか、最後には俺と雪菜とが貯めていたお年玉を持ち合って(俺のお年玉を使うのは遠慮していたが、そこは俺がもっと可愛い雪菜が見たいとかゴリ押ししてから)、当時にしては大人びたワンピースを買った気がする。


(ちょっと背伸びしすぎてサイズが合わずにぶかぶかだった)白を基調としたあのワンピース姿の雪菜は本当に可愛かったが、流石に服装だけで評価が一変することはなかった。嫌がらせグループが多少動揺はしていたにしても。


 だから嫌がらせグループに反撃できたのは、俺がどうこうした結果なんかじゃなかった。


 雪菜の素養が開花したからこそ、全ては一変したんだ。



 ーーー☆ーーー



 結局のところ月宮雪菜は恵まれていた。

 銀髪に赤目。そいつは異物として嫌悪するよりも、羨望の眼差しを集めるほどに魅力的だったんだ。


 素養はあった。

 まだ開花していなかっただけで。


 五年生。

 俺と雪菜は同じクラスになった。

 まあ女五人組の嫌がらせグループも一緒だったってのはツイてなかったが、俺も同じクラスならできることも増える。


 それに、何より、この頃から明確な変化があったんだ。



 小学生ぐらいだと男よりも女のほうが成長が早い。

 だからこの頃には羨望を集めてしまうくらいの可愛らしさが開花しつつあったんだ。




 銀髪に赤目。

 昔は異物として嫌悪されてきたそれらも、この頃の雪菜にとっては強烈な武器に変わっていた。


 他の人とは明確に違う。

 ()()()()()、雪菜はあの場の誰よりも輝いていた。


『結構前に言ったと思うが』


 ゆっくりと、だけど確かに雪菜を見る周りの目は変わってきていた。男なんて揃いも揃ってこれまでのが嘘のように白を基調としたワンピース姿の雪菜を目で追っかけていたからな。


『みんなと違うからこそ、お前はとびっきりかわいい。だからこれは当然の結果だ』


 今まで散々嫌がらせしてきた奴らや、何もしてなくても黙って見ていた奴らが手のひらを返したように雪菜に夢中になったって複雑な気持ちではあったと思う。


 だけど、だ。

『全体』の空気が変われば、あの五人組だってこれまでのように周囲を巻き込んで嫌がらせはできない。


 すでにこの時には雪菜を異物扱いして嫌悪するのは流行遅れになっていたんだから。


 リーダー格の女はカースト上位ではあったが、だからこそ流行遅れの嫌がらせに固執していては『全体』から取り残され、その地位が揺らぐ可能性もある。


 性格は悪いが、場の空気を読む力は人一倍だからこそカースト上位として君臨していたリーダー格の女は歯噛みしながらも目立った嫌がらせはしにくくなったようだ。


 しっかし、これまで散々()()()()()からと嫌がらせしてきた五人組が揃いも揃って女としての魅力で雪菜に惨敗したせいで引き下がらざるを得ないだなんて何とも皮肉なもんだ。



 ーーー☆ーーー



『私、かわいい?』


『ああ。今日も最高にかわいい』


『そっか、うん、うんうんっ。その言葉、ようやく受け止めることができそう』


 そう言って。

 中学の制服を纏った雪菜は勢いよくこう続けたんだ。


『今までありがとうっ。これからもよろしくね、大和っ!!』


『おう。……ん? 今、俺の名前、呼んだか?』


『わっ悪い!?』


『いや、悪いことはないが』


『だったらいいよね、ねっ!?』


『まあ、いいけど』


『やったっ。そ、それじゃあ、大和も私を名前で呼ぶべき、うん、そうするべきだよっ!!』


『わ、わかったって。じゃあ、雪菜』


『……っ!! ふ、ふぁ、はい、ゆきな、です』


『お、おう?』


 そして、中学校への進学。

 二つの小学校が合流しての新天地で大きな変化があったんだ。

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