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第五話 小学校時代 その二

 

 まあ、そんな決意をしたところですぐにどうにかできるもんでもなかったけど。


 すぐに変わったのは一つだけ。

 クラスが違うとか関係なく、授業以外の時間には常に雪菜のそばにいるようにしたんだ。


 ()()()()()()()()()()()からどうした。くだらない言い訳だ。そんなのは雪菜があの五人組グループに嫌がらせを受けているのを見過ごす理由になんかならない。


 いつだってそばにいれば、守ることはできる。

 もちろんそんな目立つことをすれば俺も嫌がらせの標的にされる可能性が出てくるが、そういうのは承知の上だった。というか実際に五人組のリーダー格の女は他クラスにも顔が広かったから俺も色々と嫌がらせをされるようになった。


 それでも、だ。

 俺は戦うと誓った。

 雪菜を助けるためならいくら傷ついたって構わない。


 そう思えたからこそあれだけの啖呵を切ったんだ。

 今更引き下がれるわけがなかった。


 ……女の五人組は男のグループも巻き込んでいるから、俺に対しては結構直接的な暴力も混ざってきていたが、ちょっと擦り傷ができるとかそんなもんだから別に大したことはなかった。これが雪菜にだったらまた違ったが、幸運なことに雪菜が怪我するようなことはなかったし。


『かめやまくん。やっぱり、もう──』


『これはおれのわがままだって言ったはずだ』


 とはいえ、そばで俺が同級生の男たちに絡まれて怪我させられる一部始終を見ていた雪菜としては気が気じゃなかったんだと思う。心配そうに絆創膏が貼られた膝を撫でながらまた一人になろうとしていたから。


 もちろんそんなもんを受け入れるつもりはなかったが。


『なんで……? どうして、ここまでしてくれるの?』


 この頃の雪菜は今と違って弱々しさを感じさせた。それでも自分のほうが辛いはずなのに俺のことを心配できる強さがあった。


『前言わなかったっけ? お前にわらってほしいんだ。そのためならこれくらいへっちゃらだ』


『ほんとうに、それだけ、で?』


『ああ。だってさ』


 多分、今にして振り返ってみると、この後の言葉は慰めとかそんなんじゃなくて、百パーセント感じたままを口にしていたんだと思う。


『お前がわらったら、すっげえかわいいと思うからさ』


『……っっっ!?』


『それを見るためならいくらでもがんばれ……ん? どうかしたか?』


『まっ、だめ、今へんなかおしているから見ないで!』


『お、おう……?』


 なぜかあの時の雪菜は後ろに飛び退いて両手で顔を隠していたが、あれか、流石にくさいセリフ過ぎて失笑がこぼれたのを隠していたとか?


 うぐう! だよな、こうして振り返ってみるとめちゃくちゃキザッたらしいもんなあ!!



 ーーー☆ーーー



『ね、ねえ、かめやまくん。わたしのどこがかわいいの? かみ、も、目、も……こんなにへんなのに。わたしも、くろがよかった』


『そうか? おれはお前のかみも目も好きなんだけどな』


『そっそんなの、うそだよっ』


『うそじゃない。いつもかわいいって言っているだろうが!』


『そんな、だって、みんなとちがう』


『だからいいんじゃねえか! いいか、同じじゃ一番にはなれない。みんなとちがうからこそ、お前はとびっきりかわいいんだよ!!』


『ほん、とう? うそじゃない?』


『おれはお前にうそはつかない。絶対にだ!!』


 ……絶賛くだらない嘘ついたせいで雪菜とギスギスしている俺には突き刺さる過去の一幕だった。


 もう少し早く思い出していればあそこまで馬鹿なことは口走らなかったかもしれねえってのに。


 過去の自分のほうがよっぽど人間できている気がするぞ、ちくしょう。



 ーーー☆ーーー



 一時期雪菜のことをバイキンだなんだ、そんな幼稚な嫌がらせが流行っていた。


 雪菜に触れたらばっちいから他の奴に触って移してやるとか何とか、ありきたりで胸糞悪い嫌がらせがだ。


 特に異物である銀の髪に触れただなんだが多かったか。


『気にするな』


『う、うん』


 いつもの校舎裏で俺はそう言ったが、やられた本人はわかっていても気にしてしまうもんだ。


 だから俺は雪菜の頭を撫でた。

 銀の髪。異物の象徴に触れて。


『何がばっちいだ。こんなにキラキラしているのにさ』


『ぅ、あ……』


『お前はかわいい。絶対にきたなくなんてないんだ』


『う、うん……。ありがと』


 それからしばらくは無言で頭を差し出してきていた気がする。まあ頭を撫でるくらいで気が楽になるならと撫でまくっていたが。


 昔の俺は色々と気にしなさすぎる。

 今だったらこんなの絶対に無理だぞ。

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