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第四話 小学校時代 その一

 

 幼い子供ってのは自分たちとは違う奴を異物だと嫌悪することもある。


 銀髪に赤目。

 それこそこんなのはわかりやすい異物だ。


 今でこそ雪の妖精のようだとか言われている雪菜だが、小学校低学年の頃は大半の連中からは羨望ではなく嫌悪されていた。


 当時の俺は嫌悪はしてなかったと断言できる。

 だけど、それこそ今のファンクラブ連中のように羨望とか盲信とかそんな強烈な感情までは抱いていなかったと思う。


 少なくとも気持ち悪いとは絶対に思ってなかった。

 かわいいと言っていたのは本音ではあった。


 だけど当時の俺にしてみれば慰めもいくらか混ざっていたと思う。


 そんな悲しそうに泣いてほしくない。

 目の前の女の子に心の底から笑ってほしい。


 そのためにかわいいという言葉を使っていたんだ。



 ーーー☆ーーー



『ゆきなはかわいいんだ!』


『そ、そんなことないもん』


『そんなことある!!』


『う、うぅっ。そんなことないのにぃ』


 小学校低学年の頃は毎日のようにそんなことを言い合っていた気がする。


 校舎裏。

 昼休みになったら嫌がらせしてくる連中から隠れるようにうずくまっている雪菜のところに駆け寄って、俺は何度だって熱弁したんだ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『その後』を考えれば、この頃はまだ覚悟が決まりきってなかっただけだ。


『おれの言うこと、しんじられないのか!?』


『そうじゃないけど……でも、やっぱりわたしは……』


 この頃の雪菜が自分に自信がもてなかったのは可愛いと言っていたのが俺一人だったのもあるかもだが、一番はあいつらの存在だっただろう。


 雪菜に嫌がらせをしていた女五人組のグループ。

 たまに男たちが乗っかっていたが、大半はあの五人組が雪菜に嫌がらせをしていた。


 その中でもリーダー格の女は事あるごとに雪菜に気持ち悪いだの化け物だの暴言を浴びせて、クラスの中で雪菜に嫌がらせをするのは当然だという空気を作り出していた。


 だから、毎日のように俺が可愛いと言ったって毎日のように何倍もの暴言を浴びせられれば自己肯定感なんて上がるわけがない。


 あいつらは時には雪菜を突き飛ばしたり、酷い時には雪菜の上履きを切り刻んでゴミ捨て場に捨てていた時だってあった。


 ……教師の目がある時は多少取り繕っていたが、全てを隠せていたとも思えない。それでも教師さえも見捨てていたからこそ、あの時の雪菜には俺しかいなかったんだ。


『……もういいよ』


 なのに。

 それなのに。


 ズタボロに切り裂かれてゴミの中に捨てられていた上履きを拾って、膝をついて、そして雪菜はこう言ったんだ。


『わたしは、いいから。わたしなんかといっしょにいたら、かめやまくんもひどいことされちゃう。だから……あしたからは、わたしにちかづかないで』


 まだ大和じゃなくて、苗字の亀山で俺のことを呼んでいた雪菜のその言葉は明確な拒絶だった。


 自分のほうがずっと辛い思いをしているのに、俺に被害が及ぶのを阻止するためにたった一人の味方さえも捨てることができる(助けることができる)のが雪菜という女だった。


 だけど。

 だけど、だ!!


『ふざけるなよ……』


『かめ、やま……くん?』


『おい、くそ、だれがそんなことをたのんだ? お前ひとりをみすてておれだけがのうのうとしていろって!? これから先もずっとずっとお前があいつらにきずつけられるのをだまって見ていろって!? ふざけんじゃねえぞ!!』


 雪菜の選択は間違いなく優しさからくるもので。

 だけどあの時の俺はそんなものは決して望んでなかったんだ。


『おれはお前にわらってほしいんだ。そのためならいくらだってきずついていい! だからさっきみたいなくだらないことは言うな!!』


『なんで、そんな』


『おれのわがままだ』


 膝をついて、目線を合わせて、そして雪菜の両肩に手を置いて、あの時の俺はこう言ったんだ。


『いいか、お前がいやだって言ってもそんなのしらない。ぜったいに、何があっても! お前を一人になんかしないからな!!』


『……、ばか』


 この時からだ。

 俺は雪菜のために戦うと誓ったんだ。

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