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第二話 喧嘩

 

 やってしまった。

 かんっぜんにやらかしてしまった!!


「うぐおおおおっ!! 何やってんだ俺はあ!!」


 雪菜が帰ってから、俺は思わずベッドに突っ伏して悶えていた。


 恋愛感情かどうかとかはひとまず置いておいて、普通にあんな可愛くなったら意識するのは当然だ。


 例えば親戚とか叔母とか幼馴染みとか近しい関係性の女性が天下無敵の国民的アイドルサマだったら? いくら近しい関係性とはいってもそんなのが近くにきたらドキドキするに決まっている!!


 それと一緒だ。

 月宮雪菜。我が幼馴染みはたった数ヶ月で高校の一クラスどころか他クラスや他学年の生徒さえも魅了して何ならファンクラブとか作りあげている疑惑すらある可愛いモンスターなんだ。おい何だよファンクラブって。まんまアイドルじゃねえか!


 だから、ちくしょう。

 幼馴染みだろうが何だろうが異性として意識してしまうくらい雪菜は可愛い。それはもう仕方がないのかもしれないが、実際どうなんだ? どこまでバレた?


 もしも異性として(恋愛とかその辺の分類は置いておくとして)少なからず意識しているとバレてしまっていたら?



 気持ち悪いと思われている、かも?


 これまで幼馴染みだと思っていた男が、そう、幼馴染みだからこそ気安く接してきたというのに実は異性として意識してやがったってなったらもうそれは完全にアウトじゃねえのか?



 こちとらこの気持ちがloveなのかかlikeなのかわかってすらいない。テレビの向こうのトップアイドルに対して可愛いと思うように、幼馴染みという前提さえもぶっ飛ぶくらい雪菜が可愛くて意識してしまうってだけなんだが、どちらにしても純粋に幼馴染みとして仲良くしていた昔とは変わってしまったのは事実だ。


「どうにかしねえと」


 だけど、どうする?

 自分の本音すらわかってない以上、本当のことを言って云々はできない。というかもうちょっと時間が欲しい! こちとら気持ちの整理が全然ついてないんだからさあ!!


「こんなところで雪菜との関係が途切れてしまうとか笑えねえぞ!!」



 ーーー☆ーーー



「あ、おっはよー大和」


「お、おう」


 翌日。

 小学校から今日まで、いつのまにか登校時に雪菜が家の前で待っているのが当たり前になっていた。


 つまり朝っぱらから逃げられないってわけだ。


「ふっふふうー」


「何だよ、そのニヤけ面は?」


「えー別にそんなにやけてなんかないけどー? にやにや」


「わざとらしく口でにやにやとか言っておいてニヤけ面してねえってのは無理がねえか!?」


 ……少なくとも気持ち悪いとか、これからの関係をちょっと考え直そうとか、マイナスの方面に振り切れてはいない、よな?


 俺を傷つけないために演技しているとかは、まあ、それはないか。雪菜は多方面に才能はあってもそこまで器用じゃねえし。


 とりあえず嫌われてはいなさそうで安心。


「くっぷっぷ。いやあ、しかし、昨日の大和は本当最高だったよねえ。あんなに顔を真っ赤にして私に向けて『この世の誰よりも可愛い。初めて可愛いって言ったあの時からずっとそう思っている』とか言っちゃってさあ!! あれだけ意地になって可愛いって言ってくれなかったくせに心の中じゃそう思っていたんだねえ!! もう、もうもうっ、それならそうともっと早くに言ってくれればよかったのにっ」


 嫌われてはいない。

 それは確かにそうだが、これ、かんっぜんに面白がってやがるな!?


 いやまあ大事に至らなかったのは良かったが……これはこれでなんかムカつくな。


「うん、今なら言える。私は大和のこと──」


「あんなの嘘だし」


「……、は?」


「ああそうだ、雪菜がきゃんきゃんうるせえから仕方なく喜びそうなことを並べただけだし! 適当な出まかせ並べただけだってのに何を勘違いしているんだって感じだしい!!」


「はぁああああ!? なにそれそんなのアリ!?」


「アリも何もこれが真実だからな!! この世の誰よりも可愛いだあ? 流石に誇張表現だって気づけよ、ばーか!!」


「雪菜ちゃんはこの世の誰よりも可愛いんだから!!」


「ハッ! おいおい鏡見たことあるのか!?」


「毎日身体の隅々までチェックしていますう!!」


「ならその目は節穴ってわけだな!」


「ぐぬぬうっっっ!!!!」


 ──後になって振り返ってみると、なんでこうも意地になってしまったのかと思わなくもないが、少なくともこの時の俺はムキになって勢いに任せて心にもないことを吐き捨ててしまったんだ。


「雪菜よりも可愛い奴なんかそこらじゅうにいるんだよ!!」


「……ッッッ!?」


 直後、ズッバァン!! とそれは見事な蹴りが俺の脛を打ち抜いた。


 あまりの痛さに声も出せずにしゃがみ込んだ俺に散々ばかだのクソボケだの吐き捨ててから、雪菜はそのまま走り去っていった。


 見た目に反して運動神経抜群な雪菜の蹴りは骨が折れたんじゃねえかと錯覚するくらいで、すぐに追いかけることもできなかったんだ。

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