第十七話 中学校時代 その十一
中二の体育祭の中でもラストの全学年男女混合リレーにおいて選べて当然という立ち位置に雪菜と黒川は君臨していた。
それが気に入らなくて黒川と代表の座をかけて勝負したが、結果は完敗。去年は生まれながらに恵まれているスポーツ万能のイケメンに手も足も出なかったんだ。
中三の体育祭、その出場種目を決める前。
一年越しのリベンジ。
雪菜や繭香と同じく同じクラスになった黒川に勝つ。そのために二年のうちから俺は密かに特訓を重ねていた(最悪黒川とクラスが違っても決着だけならつけられるからな)。
……今時はネットを漁れば勉強に役立つ動画なんて大量にあるから耳で勉強しながら走りまくるという一石二鳥というかそれくらいやらないと剣城繚乱高校に落ちて本末転倒待ったなしだったからな。
まあ、こんなのは自己満足。
リレーとか何とかそんなの関係なく、少しでも天才というヤツに追いつくことで雪菜の足を引っ張りたくねえって個人的なわがままでしかなかった。
『リレーの参加資格を賭けてどっちが足が速いか勝負しよう、かあ。懐かしいな。前にもこんなことあったっけか』
『あの時の俺じゃねえぞ』
『知っているさ。お前は気づいているか知らないけど、見るからに身体つき変わっているぜ。ま、だからって負けるつもりはないけどなっ!』
『上等だ。今後こそお前に勝ってやる!!』
その勝負は俺と黒川、二人きりで行われた。
『ぜえ、はあっ。勝った、ぞ。俺の勝ちだ、くそったれ!!』
『ふう。……いやあ、まさか亀山が勝つまで何十回もやるとはなあ』
『勝ちは、はあっ、勝ちだ! ごほがはっ』
『はっはっ。違いない』
『……まあ、こんなザマじゃあ、リレーの参加資格はお前に譲るしかねえがな』
『べっつに去年にここまでやれたならリレーを任せても良かったくらいだぜ。だけど、ほら、俺って体育祭実行委員会やっててな。そのおかげでもう知っているというか』
『?』
『今年、全学年男女混合リレーなくなって、男女別になっちゃってな。ぶっちゃけ男子リレーの枠は二つだから今の亀山なら俺と一緒に選ばれると思うんだよな』
『……マジ?』
『マジマジ。先に言っておいてもよかったんだろうが、知らないほうが亀山の気合い入ると思ってな。やっぱりどうせ勝負するならとびっきり全力を出せる環境じゃないとな!!』
『……はぁ。黒川らしいな、おい』
あ、そうそう、と。
なぜか黒川はニヤニヤと笑みを浮かべて、
『俺さ、一ヶ月くらい前から静音と付き合っているんだぜ』
『静音って、図書委員さんか?』
『おうよ。まあ、お前と一緒で変なところを気にしているから付き合っているのは内緒にしているんだがな。というわけで亀山も内緒で頼むな』
『それはいいが、俺と一緒で変なところを気にしているって何のことだ?』
『おっと、やばい口が滑った。その辺のアレソレは俺がどうこう言うものでもないから置いておくとして、だ。なんか俺と月宮さんがお似合いだとか付き合っているんじゃないかだとかしょーもねー噂が流れているが、そんなの俺は知ったこっちゃない。俺も、絶対に月宮さんも、そんな関係にはなるつもりはない。それだけはわかってくれよな』
『お、おう?』
『男なら格好つけたいって気持ちはわからんでもないがな! またひりつく勝負やろうぜ!!』
そんなこんなで黒川は笑いながら去っていった。
なんていうか、黒川がモテる理由がよくわかった。
ーーー☆ーーー
その後もぶっちゃけ疲労でしばらく動けなかった。
黒川に一度勝つためだけに色々と出し尽くしたせいでな。
『大和クン』
そこで繭香はそう声をかけてきたんだ。
『見てたのか?』
『いいえ。それは無粋だと思ったですから。さっき黒川陽炎が帰っているのを見たのでもう終わったかと』
『そっか』
『勝ったです?』
『何十回もやって一度だけな』
『勝ちは勝ちですよ。過程はどうあれ、大和クンは全国区で活躍しているあの黒川陽炎に勝ったです。もっと嬉しそうにしたらどうです?』
『泥試合に持ち込んで無理矢理一勝をもぎ取っただけだぞ。こんなの本番一度きりが当たり前な勝負の世界じゃ勝ちになんかなるかよ』
『何を言うかと思えば、です。一度だろうとも天才に泥をつけた。去年だったら絶対にできなかった偉業に手が届いたというのが唯一絶対の事実です。大和クンは天才たちともやり合えるくらい自己を高めたということですよ』
『そこまでご大層なもんでもないが、うん、ありがとうな、繭香』
『いいえ。……あの、大和クン』
『ん? なんだ?』
その時。
繭香は何か言おうと口を開いて、だけどそのまま口を閉じた。
代わりに俺の後ろに回って、バンっと背中を叩いたんだ。
『うおっ。繭──』
『ほらっ、早く行くですよ!! 黒川陽炎と決着をつけられたなら、何の憂いもなくやるべきことやれるはずです!!』
『何を──』
『いいから!!』
『お、おう……?』
後日。
いつも通りしていたらなぜか唖然とした繭香に焼き尽くされるんじゃないかってくらい睨まれたんだよな。




