第十三話 中学校時代 その七
『夏休みっ! さあ、遊ぶわよ!! まずは海にいこうそうしよう!!』
『あー……悪い、無理だ』
『はぁっ!? 何で!?』
中学二年の夏休みの初日。
当たり前のように俺ん家に乗り込んできた雪菜は白のワンピース(小学生の時に二人で買ったのをわざわざこの頃の雪菜に合うよう調整したヤツ)、麦わら帽子、脇には浮き輪を挟んでともうかんっぜんに遊ぶ満々だった。
俺にはそんな余裕はなかったが。
『今のうちから勉強しておかないと受験に間に合わねえんだ』
『まだ中二なのに? 受験勉強とか早くない???』
『そりゃ雪菜のような天才様ならどうとでもなるだろうが、俺みたいな凡人が雪菜と同じ高校にいくには人一倍努力しないとなんだよ。剣城繚乱高校? 今のところまったくもって受かる気がしないんだ。だったら手が届くようになるまで頑張らないといけねえだろ!!』
『むう。そんなこと言われたら勉強なんてやめて遊ぼうとか言えないじゃん』
『心配するな。前に勉強を教えてくれとは頼んだが、お前の夏休みを潰すつもりはない。俺は放っておいていいから、雪菜は他の奴とでも遊びに──』
『ばーか』
ぼすん、と俺の隣に座る雪菜。
浮き輪を座布団がわりに尻に敷いて、麦わら帽子をそこらに投げ捨てて、そしてこう言ったんだ。
『大和がいない夏休みを送るくらいなら、二人で勉強漬けの夏休みのほうがよっぽどマシよ。大和がそこまでやる気なら力を貸してあげたいしね』
『いや、だけど、せっかくの夏休みなんだぞ? いいのか?』
『私が決めたんだから、大和にとやかく言われる筋合いはないよーだっ』
『雪菜がそれでいいなら、俺としてはありがたいが……本当にいいのか?』
『くどいっ。大和のようなおばかさんは最高にかわいくて超絶に頭がいい雪菜ちゃんがいないとダメダメなんだからっ。素直に私の施しが受けられる幸運を噛み締めることね、ふっはっはっ!!』
『……ハッ。そうやって上から目線で余裕ぶっていられるのも今のうちだ。すぐに追い抜いてやるからな、天才様』
『うん、楽しみにしているよっ』
ーーー☆ーーー
『うう』
『どうかしたか?』
『別に何でもないけど? そういえば部屋に二人きりじゃんとか前にそういうことかもって期待しちゃったせいで意識しちゃうのが止まらないとかぶっちゃけ私と一緒にいるためにここまでしてくれるってこれで私のこと好きじゃなかったらこいつこの野郎どうなっているのよとか考えてないけど!?』
『早口すぎて聞き取れねえ。とにかく手伝ってくれるならちゃんと教えてくれ』
『乙女心がわかんない大馬鹿野郎めえーっ!!』
『ぶっばふっ!? 浮き輪だっておもいっきり殴りつけたらそれなりに痛えんだぞ!?』
そんなこんなで中二の夏休みはもっぱら家にこもって勉強ばっかだった。雪菜もよく付き合ってくれたってもんだ。お人よしにもほどがある。まあこんな感じにたまに顔を真っ赤にして謎の暴走をしていたが。
ーーー☆ーーー
そういえば。
中二の夏休みは勉強だけじゃなくて、気分転換にと祭りにいったっけか。
『じゃじゃーんっ☆ 浴衣モードの雪菜ちゃんはかわいいよねえー?』
『世界一かわいい』
『ふっふうーんっ。まあ当然かなっ』
中二の夏祭り。
そういえばこの夏祭りが終わってからだった気がする。
それまで幼馴染みとして気兼ねなく察してきた雪菜が異性なんだって意識し始めたのは。




