第十二話 中学校時代 その六
そして体育祭当日。
最終種目である全学年男女混合リレーは大盛況で幕を閉じた。
黒川から雪菜へ。
スポーツ万能のイケメンから学校のアイドルへとバトンが繋がれて、青組をぶち抜いて一位になった瞬間なんて特に歓声が凄かったんだ。
『……、くそ』
俺はあそこには立てない。
雪菜なら引っ張り上げてくれるかもしれないが、お情けでそばに置いてもらうような扱いはまっぴらだ。
俺は特別な存在じゃない。
それでも、ハリボテでも何でもいいからそれっぽい金看板をでっちあげて特別な奴らに喰らいついてみせる。
こんな想いをもう二度としないために。
絶対に。
『大和クン。そんなに握りしめていたら爪で傷つけちゃうです』
そこで、どこからかやってきた黒髪メガネのクラス委員長──繭香はそっと俺の右の拳を両手で包み込んだ。
『そんなにリレーに出たかったです?』
『…………、』
『ああいうのは一部の恵まれた人たちの居場所です。わたしたちのような凡人には不釣り合いですよ。憧れて手を伸ばしても無理がたたって苦しむだけです』
色々あって真面目な『だけ』ではなくなって、舌ピアスとか普通にやっちゃっている繭香はそう言ってくれた。
この頃にはもう色々と素直に自分らしく生きるようになったので真面目な『だけ』ではなくなったが、性根が優しいんだろうな。
詳しいことはわからなくても俺が身の丈に合わないことを目指そうとしているとわかったからこそ、夢見て潰れる前にと止めようとしているんだ。
『確かに俺がやろうとしていることは無茶で無謀で叶えられる可能性なんて限りなく低いんだろうな。凡人は天才には勝てない。そんなの当たり前のことだ』
『それではっ』
『だけど、悪いな。俺が望むもんはあそこにしかないんだ。無茶でも無謀でも叶えられる可能性がゼロじゃないなら諦められない。そんな簡単に捨てられるようならとっくに捨てているからな』
『ッ……。やっぱりそういうことですか』
ぎゅっと。
俺の拳を両手で包んで、そして繭香はこう続けたんだ。
『可能性がゼロじゃないなら諦められない、ですか。その気持ち、わたしもよくわかるですよ』
ーーー☆ーーー
この頃からだったか。
学校のアイドルである月宮雪菜とスポーツ万能なイケメンである黒川陽炎がお似合いだ何だって話が流れ出したのは。
似た者同士は惹かれ合う。
特別な存在同士がくっつくのは自然な流れだ。
これが俺とはまったく関係ねえ男女の話であれば俺もそういうものだよなと軽く流していたかもな。
『はぁ』
だけど。
だけど、だ。
『何でこうも気に食わねえんだか』
外野が勝手にとやかく言っているのが不愉快だった。
だって、まだ、雪菜自身は黒川のことを好きとか付き合いたいとかそんなことは一言も言ってないんだから。
それなのにお似合いとかそんな理由で当人たちを放って勝手に盛り上がっているのが気に食わなかった。
この苛立ちはそういう類のものだ。
そうに決まっている。




