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壱の魔術  作者: 川犬
第3章
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7月7日 曇り後――、-6

 それから、俺はレイドに意思疎通テレパシーでシンがディルバに殺されたことを伝えることにした。


 レイドの顔を浮かべながら、ポケットの中に入っている俺の魔石に意識を向ける。


(レイド、聞こえるか?)


『聞こえるよ。何かあったの?』


 しばらくすると、という表現を使うまでもなく、レイドの声が俺の頭に響き渡ってきた。


 少し安心したぜ。何せ、レイドまでディルバにやられていたら、俺は――、俺とマイとコノハは何もできずに、ディルバと対面することになるのだからな。それだけは、少しでも危険を回避できるように避けなければいかん。


 俺は、意識をさらに集中させるために目を閉じた。


(シンが殺されていた。あー、シンってのは、俺の友人で今日学校を休んだやつなのだが、まあそいつが殺されていた。おそらく、ディルバに)


『……やっぱりもうすでに動きだしていたんだね。でも、シンっていう人は、異世界から来た人?』


(それは……それはないと思う)


 シンが魔術師だなんて考えにくい。


『そっか……。分かった。とりあえず、今は待機してて。まだ7月7日になるまで時間があるから、きっと直接ハジメ君を攻撃しないはずだよ』


(そうか)


『うん。……それじゃあ僕は、今から準備をするかな。ハジメ君達は、12時になる前に学校のグラウンドに移動して。僕もそこに行くから、そこで、待ち合わせよう』


(ああ、よろしく頼むぞ)


 そこで、意思疎通テレパシーを切り、俺とレイドの会話が途絶えた。


 俺はゆっくりと目を開け、マイとコノハを見て、肩の力を抜いた。


「……っふう。レイドがこれから俺たちは学校へ移動しろとのことだ。そこで、待ち合わせるらしい」


 俺は背伸びをして、立ち上がろうとしたが、マイが手でそれを制した。


「ちょっと待って。なんで学校なの?」


「学校のほうが戦いやすいからじゃないのか? というよりも、7月7日になった瞬間に、俺たちが家にいて、そこで、ディルバが俺たちの家に攻撃を仕掛けてくるとなると、俺たちはかなり不利な立場になる。何しろここは狭いし、周辺に被害が生じるしな」


「そういえば、確かにそうね。……それじゃあ、今すぐにでも学校に行くわよ!」


「ああ」「そうですね」


 マイは立ち上がり、俺とコノハも立ち上がった。


 だがそんなところで、シンは生き返ったりしない。確かにシンは、いつもニヤケ顔で俺たちといるし、それにあいつは俺とは違って、女子にモテモテだから、一緒にいるのは若干嫌だった。それでも、友人ということには変わりない。だから、俺はディルバを許さない。


 今はマイとコノハのおかげで冷静でいられるが、いざディルバと対面したら、俺は自分を自分で押さえられなくなるのかもしれない。それだけは避けなければな。



@@@@@change



「お呼びか? コロイ」


 オルタースにある城の中の一室。


 我は、すべての神判隊を統括している長に呼ばれ、今到着したところだ。


「ルフィーナッ! 来たか!! 待っていたぞ!」


「ああ。それで、用件はなんだ」


「用件! なんだっけ!」


 我は、外へ向かってすたすたと歩み出した。


 まさか、我達の統括長がこんなにもバカだったとは……。


「ちょっと待て! 思い出した! 思い出したぞ!」


 それでも我は歩みを止めない。


 コロイは我の腕をつかんだ。


「国からの命令だ! ハジメを消せ! ただし、お前ひとりでだ!」


「…………」


 我は立ち止った。


 コロイの声も真剣そのものというわけではなかったが、これが冗談ではないということは理解した。


 我は、一瞬声を発せられなかった。


 なぜ、ハジメを消さなければいけないのか? なんとなくわかっている。なんとなくわかっているが、それでもコロイに理由を聞かなければいけない。そうでないと、このまま動けなくなってしまいそうだ。


 我は、なるべく平常を装って、


「理由を教えてもらおう」


 国からの命令だと言われればそれまでだ。


 だが、コロイはそんなことは言わなかった。息を殺して、


「……『ゼロ』が、明日動き出すようだ! それで、このままだと現段階のハジメでは、力を十分に発揮できず、『ゼロ』に無理やり連れて行かれ、『洗脳』の魔術を使われてしまう! そうなると、最終的に我々の脅威となる! 我々としても無魔術師であるハジメをこのまま殺すのは、もったいないと考えているが、我々の脅威となるよりはマシだ! だから、頼んだぞ! ルフィーナよ!!」


 鳥肌が立った。背筋に冷たい何かが当たっているような気がする。


 我は、小さな声で分かったと呟き、そのまま部屋を出た。


 部屋を出たすぐ近くにいた兵士が、我に気づき、敬礼を示すポーズをしている。我は軽く礼をして、御苦労と短く言った後、その場を後にした。


 前からこうなることは、わかっていたのだ。いつか必ず『ゼロ』がハジメに攻撃を仕掛け、我が動くことになるということが。


 ――ハジメを消せ! ハジメを消せ! ハジメを消せ!!


 何度も我の頭の中で、その文章が蘇り、リピートする。分かっている。それが、『ゼロ』を排除するのに一番の近道なのだ。


 ……本当にそれでいいのか。昔の我なら、即答で、ハジメを消すに一票を入れるはずだ。だが、今の我は……。


 手が痛んだ。自然と手を強く握ってしまっているようだ。


 それから、ひとつ大きく呼吸をして、我は目に光を宿した。


「まだ、あきらめない」


 手から力を抜いた。



@@@@@change



 周囲は見渡す限り暗闇。すっかり夜になっており、風の音ぐらいしか聞こえてこない。


「もうすぐだな」


 今はまだ日をまたいでないので行動するつもりはない。だが、日をまたいだら、行動を開始する。

 どんな行動かって? そりゃきまってるじゃねえか。ハジメを、暗殺、する。


 俺は金さえもらえりゃ、誰だって殺す。今まで人殺しを失敗したことはない。


「……クク」


 自然と笑みがこぼれてきていた。


 人を殺した瞬間のあの快感を味わいたい。早く。早く。早く。


 顔に風がそよそよと当たる。


 その風は、やさしすぎて、俺は嫌いだった。



@@@@@change



 僕は、ついさっき、ハジメと意思疎通テレパシーでした会話の内容を思い出していた。


 シンという人が殺害された。ディルバに。


 だけれど、シンという人が殺害されるということに僕は疑問を感じていた。


 確かディルバは、殺せと命令された人物だけしか狙わないはず。それなのに、シン――つまり、この世界のそれもただの一般人を殺した。……やっぱりおかしい。本当にシンという人は、この世界の住人なのかな。もしかしたら……あり得る。


 僕は、ハジメの家へと歩みを早める。


 シンという人が、この世界の住人ではなく、僕がいる世界の住人だとしたら、ディルバのターゲットの範囲内に入る。というよりも、それくらいしかディルバのターゲットの範囲内に入る可能性がない。それしかありえないんだ。


 僕は、首につり下がっている魔石に指を触れてみた。


 ……ディルバに勝つためには、僕がいなければいけない。そうじゃなきゃ、勝算なんてほぼ皆無も同然だ。


 魔石に触れている指の力をぐっと強めた。



@@@@@change



 そうして、時間は刻々と過ぎてゆく。

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