7月7日 曇り後――、-2
ギャグ回・・・なはず
とまあそんなわけで翌日の7月6日。ちなみに月曜日。
俺とマイとコノハは、普通に登校して普通に学校の中に入ることに成功した。というのは、シンだとか他のみんなが俺たちが仲良しグループだとかそんな感じに考え出しているようで、それで、陰で「実はあの人たちは、家で(ピーッ)してるらしいよ!」だとか「この前、あの人のマンションを通りかかったら、(ピーッ)声聞こえてきたしまじ」だとか「(ピーッ)(ピーッ)(ピーッ)」だとかそう言わなくなった。まあ、シンが珍しくいなかったが、これでめでたしめでたしだな。
と思ったが、そうも簡単にめでたしめでたしハッピーエンドになるわけがなかった。
俺たちが教室に入ると……、西車が仁王立ちで俺たちのことを待っていました。
「師匠にしてくださ――、」
「却下だ」
「お、お、おまいってやつは! 人がせっかく敬語を使ってまで、師匠にしてほしいと言っているのに、何なんだその態度は!!」
「教室では静かに」
「十分静かだろー!!ったく、マイとコノハを手に入れて、まだ足りないのかぁ!!」
俺の後ろで、マイとコノハが赤くなりだした。
…………。おまえら……。常に爆音を発してる西車は、どこもかしこも静かになってないし、マイとコノハは、なぜ赤くなってるのかがわからん。
西車を黙らせないといけないな……。
「あ、そうだ、ポテトはどうした」
こいつがいなきゃ、静かになるはずもなかったな。俺がバカだったよ。
「ポテトは、今日は休みだぁ!!」
俺は耳をふさぎながら、
「風邪か?」
「そうだ!!」
はいビンゴ。くそう。どうすればいいんだ。このままだと、近くの住宅地から苦情の電話殺到だぞ。それでは、教師に迷惑がかかる。
俺の後ろにいるマイとコノハは相変わらず黙っている。こいつら、本当に西車が苦手なんだな。一言もしゃべらん。俺も西車が苦手だ。さっさと話をきって、自分の席に戻るとするか。
「西車、とりあえず、どいてくれ。席に座りたい」
「いやだ! 俺は、おまいの弟子になるまでここを動かんぞぉー!! 今日こそ、観念しろぉーー!!!!」
っく。どうすればいいんだ。本当にこいつ面倒くさいな。
俺は、廊下側を指差す。
「あ、あっちに美女が……」
「うそつけえええええ!!」
引っかかると思ってたのだが。どうやら、嘘だと見抜かれたらしい。どうしてだ……。
俺とたぶんマイとコノハが本当の本当の本当に困ってるところで、椅子の引きずる音が聞こえ、その直後に、
「おいてめえら、少しは静かにしろ! 朝自習の時間だぞ。わかってんのか!」
勇者もとい我クラスの委員長が怒声をまきちらした。
委員長は、ギラリと眼鏡を光らせて、西車に歩み寄る。
「てめえは、俺のクラスじゃないだろ! さっさと自分のクラスに戻りやがれ!!」
西車と委員長が対立すると、身長差がありすぎて、なんだか悲しいことになっている。まあ、気が付いていないふりだけでもしておくとするか。
「なら、おまいの身長をよこせー!!」
西車は、実は身長差がありすぎることをかなり気にしてるようだった。委員長に見下されてるような感じになってるから、仕方がない。だが、その発言は少しおかしいぞ。どうやって、身長を分け与えるなどということができるんだ? できないだろう。あ、いや、魔術ならできなくはないかもしれないな。
「いいから出ていったほうがいいぞ、西車。死ぬぞ」
俺は、この委員長の恐ろしさを知っている。この委員長様は、本気で噴火するとマジで斧を振り回しかねない。おお、こわい。
西車はしぶしぶと俺の忠告にしたがってくれた。
くるりと、半転して、廊下へ出ていこうとする。だが、あと一歩のところで、振り返り、俺のほうを向いてくる。
「いいか! 次こそ、おまいの弟子になるからなぁぁぁぁ!!」
俺は口笛を吹きながら無視した。
西車は、しぶしぶとそのまま帰って行った。
やっと、帰ったな……。はあ。疲れる。非常に疲れる。
「マイ、コノハ。席に着くとするか」
「あ、うん」
「はいです……」
後ろにいるマイとコノハも、大きなため息を吐いて、席に移動した。そうとう、西車がいやなんだな。まあ仕方がないことなんだが。
俺は、委員長様にお礼を言ってから、ささっとマイの席の前、コノハの席の左に位置する俺の席に移動し、着席した。
俺の前には、いつもいるニヤケ顔のシンがいなかったので、少々違和感があったがまあいいだろう。
明日は、七夕か……。なんだか面倒なことになりそうだ。特にマイが、暴れだしそうな気がしてな。コノハは、まさか暴れるようなことはないだろうが、マイなら、西車並に暴れるかもしれない。それは、困る。ものすごく困る。この俺の物語が実は小説でしたよってぐらい困る。
俺はとりあえず、1時限目の教科の教科書ノートを机の上に出し、大きなあくびをしてから、マイのほうへ向いた。
「な、なによ」
マイは、俺の予想通りの反応をした。
俺は、マイの机の上を見て、
「教科書が届いてきたんだな」
「へ? あ、うん、まだ来てないのもあるけど……」
「もう俺の教科書をコピーしてくる必要はないな」
「そ、そうね……」
? なんだその反応は。なんだそのなごり惜しそうな目は。もしかするともしかするのか?
そこで俺は、
「ん? やっぱりコピーしてきたやつじゃないとだめなのか」
「ッ!? な、な、ななななない言ってんのよ! そんなわけ……その、な、ないわよ……」
マイは、後半の声のトーンがかなり下がっていた。
本当に何なのだろうか。まあおそらく、最後まで、セリフを言い終える前に、体の中の空気を使い切ってしまったんだな。ということにしておくか。
「だな」
すると俺の隣のコノハがこちらをちらりと見て、
「ハジメ君、さいてーです」
ぐさり。俺の心臓が貫かれた。隣で座っているコノハが、無表情でそう答えてきて、俺は大ダメージをう……け……た……ぞ…………。これはもう心臓発作で、死んでもおかしくないな。ははは。ははははははは。
……………………。
俺は、がっくしとマイの机に頭をつけて、うなだれた。
あわあわと声が聞こえてくる。
「ち、ちょっと、ハジメ! ど、どうしたのよ! 真黒いオーラに身が包まれてるわよ!」
何だか緊張してるような声だな。ほんの少しだけ、どきりとしたぞ。「どきり!」と声に出さないが。
ガラララ……。
ちょうどそこへ、我クラスの教師、通称オタ教師が入ってきたところで、会話は終わった。
「みみみみみみなさん。しししし静かにしてください」
がやがや……、がやがや……。
相変わらず、クラスのみんなはうるさかった。5分の1西車状態だ。
「おおおおお願いしますす。ききききき今日、てて転校生がきききます」
その言葉を聞いたとたん、みんなのセミの合唱のような会話が一時停止し、かなり静かになった。2デシベルくらいだな。久しぶりに、委員長様のお力なしで、静かになることができたな。
それにしても……。またかよっ! また転校生か! これで3度目じゃねーか! どんだけ、この学校転校生が多いんだよ! この前ルフィーナが来て、すぐに、いなくなってしまったばかりなのに、また転校生が来るとは、何事だ。……すまない。熱くなってしまった。
「ははははは入ってきなさい」
教室の中に入ってきたのは、……どこかで見たことがある青年だった。金と銀が混合したような髪に、首にぶら下げている魔石に……。ぎりぎり高校生とは、言いづらい容姿に……。
「僕は、レイド。レイド・ドラエバ。よろしくお願いします」
「ははははい。それでででは、今日はととととりあえず、そそそそこの席に座りなさささい」
オタ教師がレイドに座るように言った席は、なんと俺の前の席、つまり、シンの席だった。まあ、まだレイドの机もイスも準備してないし、今日幸いにも(?)シンが休んでいたので、ここに座れということなのだろう。
と、俺の脳裏に何かの記憶が過った。
確か、レイドは……、俺たちを……、俺とコノハを……、ナイフで殺そうとした……?
すぐさまコノハを確認する。俺の予想通り、コノハは凍りついているような表情のままだった。マイは、後ろだから、どんな表情をしているか分からないが、おそらく同じだろう。
俺は、すぐさま警戒の眼差しをレイドに向ける。レイドはそんな俺の視線に気が付き、苦笑しながら、手紙のような紙切れを俺の机に、オタ教師にばれないように置き、前の席に座った。
この手紙には何が書かれているのだろうか。あの時の謝罪? それとも、脅迫状か? ……わからん。とりあえず、今見てみるとするか。オタ教師にはどうせばれないだろうしな。
その手紙にはこんなことが書かれていた。
『あの時は、本当にごめんなさい。僕は、上のやつに命令されて、仕方がなくナイフで君たちを暗殺するしかなかったんだ。命令に逆らうと、殺されるから。
でももう、そんなことはしないから。
それと、今ハジメ君に危険が迫っているかもしれない。僕は、あの時のことの謝罪も兼ねて、力になりたい。いいかな』
……罠だったりしないか? いや、その可能性のほうが高いだろう。
俺は、一瞬迷った。が、一言だけ下につけ足して、レイドに返した。
『よろしく頼む』
レイドは、一応そこまで悪い奴じゃなさそうだしな。まあ、少しは警戒しておくが。
後半、微シリアスでしたねw
まあ、次回予告! 次は、シン視点ですw