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壱の魔術  作者: 川犬
第2章
30/38

無魔術師-13

もんのすごく遅れました。とりあえず、すみません。

遅れた理由は、模試、定期試験、陸上記録会、その他etcがあったからです。そして、今週は英検……!

まあこんなただの死にかけですが、これからもよろしく!

「はぁはぁはぁ……」


 ループしている通路を俺たちは、ただひたすらに走り続けていた。30分も走りっぱなしだったので、俺はまだ何とかいけるのだが、コノハとマイの体力のげんか――、

「ハジメ、疲れた?」


「大丈夫ですか、ハジメ君」


 ぴんぴんしていた。


 よく考えてみよう。女性と男性とでは、明らかに女性のほうが体力が少ない。それなのに、こいつら俺よりさわやかに走っているというのはどういうことなんだ。まあ、今の状況でこんなことを考えているのもあれなんだがな。


「なあ、お前たちってそんなに体力あったのか?」


 俺より前方に移動しているマイが突然立ち止り、いっしょに俺とコノハも移動を停止する。それでマイは、肩をぷるぷると震わせて、腹を手で抱えていやがる。声だけは、出していないようだが、なんだかむかっときた。


「ハジメ、あんた記憶力ないわね」


「ん? ……前に『私は体力は多いからねっ』だとか言ってたか?」


 全く覚えがない。俺は、認知症なのだろうか。


 コノハを見ると、コノハは苦笑している。苦々しく苦々しく。


「っぷ…………、まあいいわ。もう一度教えてあげるけれど、もう忘れないでよね! 魔術よ。基本魔術の中の基本な魔術。できるだけ、体力の代わりに魔力を使って、移動したりするやつ。……どう? 思い出した?」


 最初、笑われたのはスルーしておこう。


「……、確かにそんなことを言ってたような気がするな、うん。だが、どうやって使うんだ」


「それは、時間がないので私が後で教えます。今は急ぎましょう、ハジメ君、マイさん」


 最前線にいるコノハが手招きをして、俺たちを急かしてきたところで、この会話は終わった。


 ……くそう。せっかく少しは楽に走ることができると思ったのにな。


 実は、俺は今かなり疲労していた。ん? さっき疲れていないと言ってたって? なんのことだ?



@@@@@



 あれから、10分。


 俺は、瀕死状態だった。それでも走り続けていたため、足の感覚がなくなり、足が勝手に動いているような不思議な感覚にとらわれていた。


 最後尾にいるので、俺が死にかけていることに誰一人として気づいてくれていない。いや、きづいているのか? わざとか? ……それはないよな。


「はぁはぁ……マイ! コノハァ! 少し休憩しよ……うか……はぁはぁ」


 マイとコノハは、ほぼ同時に歩みを止めた。


「そうね。ハジメはつらいものね。いいわ、休憩にしましょう」


「わかりました」


 俺は、二人のやさしい心遣いに感謝しつつ、壁に手をついて顔を下に背けた。しかし、

 ゴゴゴォォ……。


 壁が何かの隠しスイッチを押した時のように一部がへこみ、俺の手が前へ前へと吸い込まれるように移動していった。


 コノハがその様子を見て、顔を真っ青にした。


 いやな予感がする。いや、予感ではない。いやな事が起こる前兆だ。


「ハハハハハハジメ君! 今押したのって……、あああ!!! 罠です! マイさん、ハジメ君走りましょう! 休憩なしです!!」


 そういいながら、コノハは自分が一番先に逃げていった。


「ちょちょちょちょっと! 何やってんのよハジメ!! このバカーーーーーッ!」


 そうして、マイが走り出して、

「ナンナンダヨォォォォオーーーーーーッ!!」


 俺は、いまだに疲労回復していない体を無理やり動かして、走り出した。


 数秒後。


 丸い。大きな。ゴツゴツした。立派な。岩が。転がってきた。


 俺は走りながら空気を限界まで吸って、

「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 もうすでに、体力は限界なはずだ。


 だが、超高速で俺は走り続けていた。


「ハジメッ! どうにかしなさい!」


「できるかッ! あんなものどうしろって言うんだ!!」


「いいから、どうにかしなさいよッッ!!」


「無理だああああああああああッッッ!!」


 俺たちは、絶体絶命だった。


 おい。誰のせいだ。……俺のせいだ。


 相変わらず、最前線にいるコノハが、少しだけ顔をこちらに傾けながら、

「ハジメ君ッ! どうにかしてください!!」


 お前までもかッ!


 ……こうなってしまったら、もう一か八かでやるしかない。俺は男だ。やるしかない!!やるしかないじゃないか!!!


「ングッ」


 俺は無理やり体を半回転させて、ごろごろ転がってくる巨大な岩に向かって手をかざして、

水よ盾とウォーターなり俺たちを守れシールド!!」


 なにもない空中に、突如水が発生し、シールドを形成する。


 これで、なんとか……ッ!


 ……無念。神は俺を見放した。


「なッ!?」


 殺人岩は、そんな俺の魔術によって形成されたシールドをダメだしするように、あっさりと破壊してしまった。水が周囲に飛び散り、俺とマイとコノハが、水浸しになりながら。


 俺は、口をあんぐりとあけたまま、再び走り出した。


 俺としたことが! なんてこった! ……よくよく考えてみたら、当たり前なことだ。あんな薄っぺらい水のシールドで、どうやって殺人岩を止めることができるんだ……。ああ、もう俺たちはあの岩の下敷きになってしまうのか。そんなのは、誰がどう考えてもいいわけがない。……いやまてよ。ドMならあり得る。もしくは、自殺願望者くらいだな。まあ、俺は、そんな類の人間じゃないから、もちろんそんな願望など1ミクロンもない。


 ――そんなことよりも。


「こんな絶体絶命な場面なのに、俺は何のんきに、今の状況について考察してるんだああああああッッ!」


「は? なにいってるの? そんなことよりも、どうにかしなさいよ!」


 くそ。どうすればいいんだ!? なにもいい策が思い浮かばない……。


 そうこう俺が少しの間黙り込んで、走り続けていると、コノハの目のなんというか光の色が変わった。

「こっちです!」


 その光の色は――、

「こっちから、風が吹いてきます!」

 救済の可能性のある色だった。


 俺も、疲れ切った体を集中させて、全身で風を感じる。


「本当だ! よし、急ぐぞ!」


 なんという急展開なのだろう。だが、助かるというのなら許す。


「ハジメ! あんたが、最前線行くんじゃないわよ! 普通は、女性優先でしょ!?」


 マイよ……。それは男女差別だ。まあ、それでも、俺は仕方がなく走る速度をわずかに緩めた。数秒もしないうちに、マイとコノハに抜かされ、岩の転がる音が近づいてきた。


 風が強くなる。どうやら、終着地点は近いようだ。


 俺たち3人は、チーターも驚きの速さで走り続けていた。もちろん、ダチョウも驚きである。そんなことはどうでもいいが。



@@@@@



 俺の体力がそろそろ尽きるという頃、ようやくそれが見えた。


 誰かが意図的に、破壊したようにしか見えないぽっかりと壁にあいた大きな穴が。


「コノハ、マイ! いそげぇえーーッ!」


 俺と殺人岩の間隔は、僅か1メートルほどしかない。殺人岩は、平面状なのになぜだか、加速してきているので、だんだんと俺との距離を縮めていっているのだ。……いやまてよ。俺が疲れて速度を落としているだけなのか?


「わかってるわよ!」


 マイはそう叫びながら一番に脱出した。そして、次にコノハ。最後に俺が脱出。


 殺人岩は、丁度いい具合に、穴にすっぽりとはまり、停止した。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 その場に、雨が降ってきた。そして、俺の荒い息遣いだけがただただ響き渡るのであった……。



「おーーーい、お前たち、無事だったかー?」


 俺の荒い息遣いだけが、しばらくの間続くのかと思われたが、どうやら、違ったようだ。


 コノハが小さな悲鳴を上げて、固まった。この声。……ルフィーナの声。


「我は、こっちだー!」


 だが、その声からは、あの時――俺と戦ったとき――とは、明らかに違っていた。あの時は、僅かに殺意のこもった表情、声で俺たちと対話していたが、今は、やわらかい表情で、安心した声で、俺たちを呼んでいる。まるで、別人のようだった。


 俺とマイとコノハが、その場で固まって空を見上げていると、バッサバッサと翼を忙しく動かす音とともに、青い龍に乗ったルフィーナが姿を現した。ややゆっくりと、地面に着地し、俺たちを見てくる。

 俺はすぐさま、敵意を示す。


「お前……!!」


 だが、ルフィーナは俺に手をかざした。


「安心しろ。もう我にそのような気はない。上から、コノハはもういいと言われたのでな」


「ふざけるな! お前は……! てめえは、上から命令が下れば、何でもするようなやつだったとは、知らなかったぜ……!!」


「だから、安心しろ。もうそのようなことをするような気はない」


「信じられるか!」


 そして、俺がルフィーナに手をかざして魔術を唱えようとした瞬間、

「もういいんです。ハジメ君、もういいんです! ルフィーナさんは、もう私たちに危害を加えるようなことはしません。私には・・・わかります。……私には・・・わかりますから」


 そうコノハが震えながらもこちらを見ながら叫んだ。ルフィーナは僅かに顔を歪めたが、すぐにいつもの男らしい表情に戻り、

「だそうだ。さ、戻ろう」


 俺は、手をかざすのをやめて、仕方がなく、本当に仕方がなく青い龍、レイドのキュイの背中に乗った。


 続いてコノハが乗り、

「ちょっと待ちなさい。いったい何があったの?」

 マイが、唯一一人だけ何があったか理解していないような顔で、突っ立っていた。


 あ、そうか。マイは、確か途中参戦だったから、知らないのも当然か。さっきの会話は、マイにとっては意味不明だったろう。まあ、龍に乗りながら、ゆっくりじっくり教えることにしよう。


「いいから、乗れ」


「い―――」


「龍に乗りながらでも、今回の件についてゆっくりと語ってやるよ」


 マイは、むっすりとしながらも、「わかったわよ」とぐちぐち言いながら、龍の背中に乗っかった。

「さあ、帰るぞお前たち」


 もう短時間でいろいろありすぎて、疲れた。さっさと、戻ろう。

 ……明らかに人工的にぽっかりと壁にあいた穴。ルフィーナが、マイと一緒にあわられたことなどなど、いろいろな謎を残して。

次回、無魔術師の最終話です。

タイトルの意味だとか、ほかにもいろいろと小さな疑問が明かされます。

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