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壱の魔術  作者: 川犬
第2章
25/38

無魔術師-8

春休みキタ――――!

@@@@@change



『お姉ちゃんっ』


 我には弟がいる。いつもいつも、我を慕ってきてそれでいて、尊敬してくれる甘えん坊な世話焼きな弟がいる。そんなかわいい弟は、何かがあるとすぐ泣きだすしと、とても困ったやつだ。だが、そこが可愛いものだ。



@@@@@



 その時、我は14歳だった。弟は11歳で、まだまだ子供だ。まあその時は我も子供であったが、弟の方が永遠に我よりも子供だ。これは変えることのできない。


 それでも、すっかり、小さい頃の弟とはずいぶんと成長していて、我のことを『姉さん』と呼ぶように変化していた。


 10歳の時から、弟が魔術の訓練を始めた。もうすでに1年が経過しているが、弟は周りの人間たちよりもへたくそだった。初級魔術ですら、上手に使いこなせない大バカ者であった。


 ある日、…財産をすべて失った。盗まれたのだ。それで、神判隊ジャッジメントポリスに調査をお願いしたのだが、断られた。


 ちょうど、戦争をしていて、我たちよりもその戦争を優先したのだ。


 我は、覚悟を決めた。神判隊ジャッジメントポリスを変えよう、と。そのためには、かわいい弟をどこかへ預けなければならない。


 近くの成金に、弟を預けた。弟はその時泣いていた。我はその泣き顔と泣き声を聞きたくなかったので、逃げるように走り去った。なぜなら、我までもが、泣いてしまいそうだったから。つらかった。しかし、神判隊ジャッジメントポリスを変えなければいけないと、決意したので、それを曲げるわけにはいかない。


 我は、神判隊ジャッジメントポリスを変えたら、弟と一緒に幸せにいつまでも暮らすと誓った。


 その願いは――――



@@@@@change



 俺は顔をゆがませた。


 目の前の、扉でふさがるように立っているのは、あの隊長男。俺の隣にはわずかに震えているコノハ。……。もう少しで楽してコノハを助けられたのだがな。さて、どうすればいいんだろうか。


 隊長男が、息を切らしながら笑う。


「もう貴様は逃げることはできない」


 そうはいっているが、息を切らしている姿をみると、簡単に逃げれてしまいそうだぞ?いいのか逃げて。


 コノハが、俺の背後に素早く移動する。おびえているようだ。


 そんなコノハのためにも、俺は隊長男に問う。


「どうして、こんな事をするんだよ」


 隊長男は、皮肉めいた笑顔で答える。


「オルタースの国宝を盗んだのだ。これくらい当然だろう。それとも貴様は、これが間違っているというのか」


「…間違ってはいない。だが、ルール違反だ」


「なんだと?」


 俺は若干退歩した。


「確か、コノハの罪は、俺の世界ヤングワールドで俺とマイが監視していれば、処罰はないと言っていたはずだが、違うか?」


「…貴様。まさか、ハジメというものだな?」


「ああそうだ」


「…そうか、貴様がハジメであったか!なら、そんなことを説明する必要などない」


 俺だと説明しないのか…。俺がハジメだということを知らしてしまって、失敗したな。


「…説明することすらできないのなら、」


 俺は反転する。後ろにいたコノハは、びくっと肩を震わせた。そのコノハの肩を片腕で抱きながら、

水よ集結アクアし弾丸になれショット


 高級な壁に向かって、初級魔術であるアクアショットを唱えた。


 今は、魔石を持っていない。だが、唱えた。


 不思議と俺は、魔術が使えるような気がして、それで使った。俺の目はその時、青かった。


 バッゴォォォォッンッッ!!


 大きな爆音とともに、壁にぽっかりと大きな穴が開いた。穴の向こうは、この建物の外だった。


 同時に、隊長男の口も大きく開いている。動揺しているとみているように分かる。そして、俺も動揺していた。だが、今は俺が魔石を持たずに魔術を使用できたことなんて、気にする暇はない。ああ俺はこんなだったんだなで、無理やり思考を中断させる。


 俺は、コノハを抱えながら、全力で走った。コノハは、もう何が何だかわからないような表情をしている。


「ま、待――――――」


 ずっと後ろから、叫び声が聞こえたが俺は無視しながら、走った。この国、オルタースの外へ。



@@@@@change



 私は、ハジメの部屋の中で、腕を組みながらハジメとコノハが帰ってくるのを待っていた。


 時刻はもうすでに、8時過ぎで、少し遅れて帰るという言葉はあまりにも不釣り合いすぎている。


 どういうことなのよ…。どうして帰ってこないの…。さっきから、いくら意思疎通テレパシーをしても、つながらないし。異世界アナザーワールドにいった可能性はあるけれども…、私無しでいっても、迷子になっちゃうだけだからそれはないわね。


 私は、ごろんとベッドに横たわって、魔石を握りしめた。


 一回、異世界アナザーワールドに行ってみたほうがいいわ。


異次元の世界アナザーワールドよ扉を開け私を連れてトラヴェリングいきなさい」


 小言でそう呟いて、私はこの世界から消えた。



@@@@@change



「マテェーーッ!!」


 後ろから、兵士たちが蟻のようにうじゃうじゃと群れをなしながら、俺たちを追いかけてくる。だが、決して追いついては来ない。追いつけないのだろう。この世界と俺の世界の人間ではどうやら、体力というものが違うのだからな。


 この世界の人間たちは、基本魔術に頼って、闘ったり、雑業をしたりしている。それと比べて、俺の世界には、魔石というものがないので、その分自らの体を動かさなければならない。ただそれだけで、体力に差が生じた。ある意味ラッキーかもな、俺は。


 俺は、コノハを抱えながら走り続けていると、大きな潜り門が見えてきた。あそこを飛び出したら、この国の外だ。この国の外は確か、砂漠地帯なはずだ。


 俺は、ちらっと後ろを向いた。


 相変わらず兵士たちが俺を追いかけていたが、遅い。蟻のように、小さく見える。俺の視力がよくなければ見えないぐらいに遠く離れてしまっている。


「ふう……。もう大丈夫だ」


 走る速度を下げた。もう、追いつかれることもないだろう。これでこの国から脱出して…ん?この国から脱出するのはいいが、どこへ行けばいいんだ?


 ………。


 後のことを考えていなかった。やヴぁいぞ、どうするんだ…!このまま捕まるわけにもいかない。かといって行く宛てもない。俺はなんという大変な過ちをしてしまったんだ…。


 さっきから無言だったコノハが、口を開いた。


「あの…、おろしてもらって良いですか…」


「ん?あ、ああすまない!!」


 俺は、コノハからありえない速度で離れた。…俺の目の前には、頬を紅色に染めているコノハが立っていた。どうやら、またまた小さなミスをしてしまっていたようだ。なにしろ、思いっきりきつく抱きながら、走っていたからな。コノハが、暑苦しくて頬を紅色に染めないわけがない。


「い、いえ…。別にかまいませんけど…。そ、それよりこの後どうしますか…?」


 ここで、なにも考えていなかったと答えるのは…アウトだろう。何かないか。何かないか。何かないか…。読者さん教えてくれ、何かいい案はないか?


 だめだ…。返答なし。くそうどうすればいいんだ。


「とりあえず、この国から出よう」


 俺は、本当になにも思いつかなかったので、今するべきことを言った。これより先のことはその場任せだ!それがいい!一番いい!…よな?


 俺は、コノハを連れて潜り門を潜った。その先にあるものは、やはり砂漠だった。しかも、夜。というより、この世界には昼というものは存在しなかったっけな。


 後ろからの兵士たちの声がだんだん大きくなっている。つまり、俺たちの危険が迫ってきているわけだ。


 それで、コノハがこちらを見据えてきやがった。やめてくれ…その視線は今の俺にとってはものすごく痛い。


 困り果てた俺は、なんとなく夜空を見上げた。夜空には、でこぼこした青い星がたった一つ、浮かんでいるだけ……ではなく、青い何かが夜空からこちらに向かって滑空してきているところだった。


 その青い何かは、あっという間に俺達のところまで来て、急ブレーキをかけるように停止した。一応言っておくが、青い何かは、自動車ではないから安心しろ。


 青い何かは、神話か何かに出てきそうな龍だった。青いドラゴン。そして、そのドラゴンに誰かが乗っている。


「早く乗るんだ!」


 そいつは、男性で、青年と言えそうなぐらい若かった。その青年の容姿を見る限り、15歳ぐらいか?いや、それだと俺とそんな大差ないじゃないか。つまり、俺も幼いわけか…。まあいい。


「わかった!」


 後ろから兵士が追ってきている以上、事は急がなければならない。


 俺とコノハは、相手が誰であるかを確認せずに、そのドラゴンに飛び移った。



@@@@@change



「…遅かったか」


 我は、オルタースの外へ出た。周りは砂だらけで、光源が夜空に浮かんでいるでこぼこした星ひとつだけだ。


 まさか、ハジメのあの能力が半分ぐらい目覚めているとは思わなかった。これは私のミスだ。


 腕を組みながら思考した。


 いったい誰が連れ去ったのだろうか。我の予想だとおそらく最近結成された、コノハがそこに所属していた組織の連中ととっていいだろう。その組織には、まだ組織名はない。それぐらい、ごく最近に結成された裏組織なのだ。その組織は、すでにハジメの能力に気が付いているはずだ。だとしたら、…その力を悪用するつもりなのかもしれない。


 と、我が脳をフル回転させて考え込んでいると、

「ルフィーナ隊長!ハジメの仲間らしき人物を捕えました」


 我の下っ端が走りながら潜り門を潜ってやってきた。


「何?そいつに早く会わせろ」


「ハッ」


 そして、忙しそうにまた去って行った。


 ……。ハジメの仲間らしき人物か。我の中では、その人物はほぼあいつで確定だろう。いや、あいつしかいない。


「――によ!離しなさいよ!」


「だまれ、お前を連行する」


「私が何したっていうのよ!」


 どたばたと、騒がしい音が聞こえてきた。


 ……来たか。悪いが利用させてもらうぞ。



 マイよ。



 我の視線の前方7メートル先には、マイが兵士から無理やり逃げ出そうとしている姿がはっきりと、映されていた。


次回!

マイが――――

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