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壱の魔術  作者: 川犬
第2章
23/38

無魔術師-6

少しだけ、早めの更新です

「…ハジメか」


 ルフィーナは、感情のこもっていない目でこちらを見据えてくる。俺が来たことに全く驚いていない。予想内だったのだろうか。それだと、なんだか悲しい…。


 ルフィーナに対比して、コノハは驚愕しきっていた。目が潤っている。


「ど、うし、て…!どうして来たのですか!?私は、私は!!――」


 ビュゥゥゥゥゥゥ…。


 ドサッ。


 屋上にひと塊の風が通過した。その風が完全に通過し終えると同時に、コノハが動かなくなったロボットのように、だらりと手をぶら下げた。どうやらルフィーナが何かをして、気を失ったらしい。


 それはもう生きているのかも、今の俺には不明だ。だから、余計に不安になる。目さえ閉じてない状態で、動かなくなるんだからそりゃそうだ。


「コノハ!!」


「安心しろ。我の魔術で眠らせただけだ」


「ルフィーナてめぇ…!コノハの処罰は、確か俺とマイがこの世界ヤングワールドで監視すれば、無いと言っていたはずだ」


 ルフィーナは、目を細めてきた。


「ああ、そういえばそうだったな。だが、事情が変わったんだ。我の国…オルタースでちょっとした事件があってな。それに、コノハが関わっているかもしれないん――」


 俺は、最後まで言葉を言わせないようにわざと叫ぶ。


「だからって、そんなやり方でコノハから何もかもを奪う気のか!」


「当たり前だ。何せ、コノハは一応罪人だしな」


 手が痛んだ。だが、俺はそれが不思議だとは思わなかった。なぜなら、手が痛くなるほどに強く握っているのだから。


 ルフィーナが、そんな残酷な人だとは思わなかった。こんなやり方で、こんな残酷なやり方で、コノハをどうにかしようだなんて俺には考えられない。


 俺は少し俯きながら、無言で手をルフィーナに向けてかざした。


 ルフィーナは、さらに目を細め、

「ほう…。無謀にも我に戦いを挑んでくるとは。…いいだろう、受けて立とう」


水よ圧縮バブルし球体と化しコンプレスろ!!」


 俺の手に、どこからか水が集まりだし、それが球体になった。その球体は小さな地球を思わせるほど青かった。それほど圧縮しているという証拠だろう。


 この球体を普通の人間に、当たってしまえば、そいつはおそらく体に穴をあけることになる。それほどにまで危険なんだ、魔術ってのは。


 俺は、ルフィーナに向かって、その球体を思いっきり投げた。それを投げた瞬間、俺の表情は、苦痛に占領されていたのかもしれない。


 …また巻き込まれた。いや、今回は俺が自ら巻き込まれにいった。もう巻き込まれるのはごめんだと、思っていたのだが。なぜ、そんな事をしようと思ったかって?理由はいたってシンプルだ。コノハを助けるためだ。それ以外にも、……。


 1つだけ許せないことがある。ルフィーナは、転校初日だというのに、こんな大問題を起こしやがった。これで、屋上がぼろぼろになったら、俺とルフィーナのせいになるだろうが、それはまずバレない。それはどうでもいいのだ。ただ、あんなに学校生活を楽しそうにしてたコノハの心にひびを入れたということが許せない。あの笑顔を壊したことが。


「ふん。遅いな」


 ルフィーナの暇を持て余しているくらい余裕そうな声が聞こえてきた。


 その声が消えると同時に、ルフィーナは横へ高速移動する。あっさりと水の球体は、避けられ、遠く彼方へ飛んで行ってしまった。


 俺は、戦力の差を目の当たりにしながらもあきらめない。


「…ッ!なら!リヴァイアサン!」


 この上級魔術は、俺がコノハと戦ったときに使用した切り札とも言える魔術だ。それで、コノハは倒れなかったが、それは、コノハが雷属性の石を持っていて、相性が悪かったに過ぎない。ルフィーナは、風属性の…封風石ウィンドハリケーンだったはずだ。俺の記憶によれば、ルフィーナには風属性の石しか持っていないということが分かる。隠し持っている可能性はほぼ皆無と言って良いだろう。


 俺の周囲に再び水が集いだした。


「させるか!」


「―――ッッ!?」


 俺は、ドゴォッ!という音と共に吹っ飛んだ。一瞬何が起こったかまったくもって、理解できなかった。


 水が下のコンクリートに落ちる音が聞こえてきた。


「…しかたがない。ハジメも――」


 コツコツと、こちらへ向かってくる足跡が聞こえる。そして、やっと理解した。俺は、ルフィーナに目にも見えぬ速さで、蹴りを腹に入れてきたのだ。それで、それだけで、俺は吹っ飛んだ。まるで、魔術なんて使う必要なんてないと言っているようだ。


 痛みすら、忘れる速さで、確実に、俺は吹っ飛んだ。


 俺がこんなんじゃあ、コノハが連れ去られてしまう…!


 のそりと、今頃やってきた痛みに耐えながら、目を開け、顔だけ持ち上げる。


「――、おや?まだ気絶していなかったのか」


 気がつけば、俺は近くまで来たルフィーナの足を強く強くつかんでいた。

 ルフィーナの目が細くなった。その目には、一種の殺意のようなものが感じられた。だが、俺はそんなものには動じない。なぜならそれは―――、

 そこで、俺は意識をプツリと焼き切らされた。



@@@@@change



 いつまでも暗黒な空には、ドラゴンと青年が宙に浮かんでいた。


「動きは…そこまでないみたいだね」


 ドラゴンは、――キュイは、それにキュゥと一言で返事をした。少年の顔に悲しげな笑みが浮かぶ。


「仕方がない。キュイ、あの時と同じ方向へ攻撃をして」


 キュイは、今度は前回とは違って、青年が指さす前に風の塊を口から、前回とほぼ同様の場所に的確に当てる。やはり、空中にその風塊は衝突し、大きな爆音と共にその空間には町が一部だけあらわになった。だが、それもすぐに消える。


 青年はほころんだ。


「ありがとう、キュイ。僕の思っている通りの力加減で攻撃してくれて」


 結界壁ディフェンスウォールには、前回とは違い、傷一つ入ってなかった。それでいて、やけに地面が揺れた。青年は、空中に浮かんでいるので分からなかったが、確かに、地震のないこの世界で地面が揺れた。


 キュイは、実は手加減などしていなかった。むしろ、前回よりも幾分強力な攻撃をした。ただ、結界壁が強化された・・・・・だけの話だ。


 だからなのか、キュイは青年に何も答えずに、じっと攻撃を当てた場所を見つめていた。


「それじゃあもどろう」


 そのキュイの微々たる行動に、青年は気がつくこともなく、キュイに話しかけた。


 しばらく、動きを見せなかったキュイだったが、その場から、キュイと青年は消えた。



@@@@@change



 同時刻。


 ――ピチョンッ。


 水が一滴だけ落ちる音が聞こえてくる。それ以外は静寂だけがあるのみ。その静寂の中で、俺はうっすらと目を開けた。


 そこは、一人暮らしするには十分広く、かつ、材質は違うようだが家具がちゃんと揃っていた。家具の一つ一つ、俺から見れば、かなりユニークな家具にしか見えない代物だった。


 それで、水の落ちる音が聞こえてくるのは、どうやら別部屋のようだ。


 ここは…どこなんだ?俺は確か、コノハを助け出すために、ルフィーナに戦いを挑んで、それで、…負けた…のか?それなら、ここは…。


 牢屋かなんかなのか?…先頭に豪華版をつけたしておこう。豪華版牢屋。これでいいか。


 俺は、むっくりと背を起こし、体の調子を確かめた。


 おかしい。痛みが全くない。確か、俺は、ルフィーナに思いっきり腹を蹴られたはずだ。それなのに、痛みが全く感じられない。…どうなってんだよ。


 体の調子を確かめながら、所持品も確認した。いや、厳密にいえば、しようとして、途中でする必要がないと判断してやめた。なぜ、そうなったかというと、…俺の制服じゃなかったからだ。この世界の標準服なのかどうかは知らんが、上半身は黒いTシャツのようなものを一枚着ていて、下半身も黒いよくわからない装飾を一切施していない普通のズボンに取り換えられていた。


 まあそんなことはどうでもいい。


 俺はある行動に出た。


「おい!誰かいるか!」


 そのある行動とは、人がいるかどうかを確認することである。


 しばらく、俺が待機していると男性の声が聞こえてきて、扉(豪華)が開いて、誰かが入ってきた。


「bvihadsfa?jdhfjieoaw!」


 …?なんだ?何を言っているんだ、こいつは。


 俺は理解不能な言語を使って会話をしてくるその誰かを凝視しながら、考え込んだ。


 いや、考える必要もなかった。そうだ、制服を取られてしまったってことは、制服の内ポケットにある俺の魔石も無いってことか。これだと、魔力を使っての言語補正チート機能は使えない。


「chdsiah!!ryud!!!」


 さっきから、扉から入ってきた男性がうるさいので、俺はとりあえず殴っておいた。


「!!??」


 男は、俺が殴ったことに対して、呆気にとられているようであった。


 俺が、さらなる連撃を加えようかと思った矢先に、地面がぐらぐら揺れだした。


「うお!?」


 まるで地震のように。…なんだ。俺がこいつを殴ったせいか…?



@@@@@change



 同時刻。


「……はあ」


 私は、ひとりで帰り道を歩いていた。思わずため息が出てしまう。


 どうして、あの時、ひとりで帰るだなんていったのかしら。あんなこと言わずに、私も一緒に残って、それで、一緒に帰るって言っておけばよかった…。


 近くに蹴るにはちょうどよさそうな石があって、私は、それを思いっきり蹴った。


 やっぱり、ハジメがいけないんだわ。…そうよ!やっぱりハジメがいけないんだわっ!だって、あやしいじゃない!コノハと一緒に残るなんて!私だけ帰らせておいて!


 …はっ!?まさか、コノハといっしょに大人の階段を上ろうとしているの!?…ゆ、ゆ、ゆるせない…。許せないわ…。そんなことしちゃだめに決まってるじゃない!


 そうだ!確か、私とハジメは意思疎通テレパシーができるんだった。今すぐ…。


 私は、道路の端で止まり、目を閉じた。近くを自転車に乗って走っているへんなおっちゃんに変な目で見られたけれど、気にしない気にしない。それよりも、集中集中。


『ハジメ!…ハジメ!……あれ?ハジメ?』


 おかしい。つながらない…。


 私は、混乱した。


 後ろに誰かが隠れてついてきているとも知らずに。


次回予告!


次回!いろいろと物語は忙しく動きます

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