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壱の魔術  作者: 川犬
第2章
22/38

無魔術師-5

今回は割とシリアスですv

 三時限目の授業が、あっさりと終わり、休憩時間になった。


 俺は椅子に座ったまま、ぶはぁーっとたまった空気を吐き出した。


 意外と今回の古典が面倒くさかった。古典の何が面倒くさいのかというと、別に古典が面倒なわけではない。では何かというと、……俺のすぐ隣に、マイが密着してきていたからである。密着という言葉を使うと、いやらしく聞こえるが、古典の教科書を見せるためには、くっつかなければ見ることができなかったんだから仕方がない。


 だから、緊張のせいで疲れたのだ。今でもわずかにいつもより鼓動が速い。まったく、早くマイの教科書が届いてきてほしいものだ。じゃなきゃ、いつか俺が心臓発作を起こしかねない。


 マイは、授業が終わった瞬間に、俺にありがとうもいわずに、無言で、バッと教室の外へ飛び出してしまった。そんなにトイレ行きたかったのか。


 まあ今はそんなことより、

「コノハ、この手紙」


 俺は椅子を傾け、コノハのほうを向きながら、さっきルフィーナから預かっていたものをポケットから取り出してコノハに渡そうとする。


 いきなりのことで、コノハはこちらを見るや否や、「え?え?え?」と異常なくらいに混乱していたようだが、俺がルフィーナから渡しておけと言われたものだということを伝えると、なぜか落ち着いていた。


「わかりました。では今読んでみますね」


 それから、コノハは俺から手紙を受け取り、封筒のようなものから、手紙を取り出し、黙読しだす。

 20秒ぐらい時間が経過してすべて読み終えたのだろうか、コノハは手紙から目を離して俺を見てきた。その目は真剣だった。


 俺は、聞く。


「手紙の内容はなんだったんだ?」


「いえ、…ハジメくん、放課後にマイさんを先に帰らせておいてくれませんか」


「別にかまわんが、なんか理由があるのか」


 自分で言っておいてあれなんだが、あるにきまってるだろう。


「はい」


 コノハは、その2文字だけを発した。


 何か訳ありなコノハを俺は見て、わかったと言った。


 おそらくその手紙に書かれている内容のことで、だとは思うが。それにしても手紙の内容は一体何なのだろうか。かなり気になる。だが、なんだか聞いてはいけないような気がする。ただの勘だ。でもやはり、聞いてしまえば、また―――――


「いたぞ!!加納オオォォォ!!」


「!?!?な、なんだ!?」


 爆声が聞こえたと思って廊下側のほうをギュォォォォッッ!!と俺は振り向いて唖然とした。思考が強制的に中断させられる。


 コノハも廊下側を見ているが何があったかは理解できていないご様子。おそらく、女性には無縁のこっちの話だ。


 廊下から1年4組の教室の中へ、爆声の持ち主、西車率いる『ルフィーナ信者の集う会』のメンバー総員が押し寄せてきた。西車!?…そういえば、西車もあの時いたんだっけな。


 と、そこで俺の脳内センサーから危険信号が送り出されてくる。赤信号赤信号赤信号!!


 俺は、コノハに、


「ごめっ!じゃ」


「い、いえ。何が起こったかはよくわかりませんが頑張って」


 俺は、コノハに頑張るとだけ言って、即座に走る体制に入った。


 よーいドンッ!!


「あ、オイマテエェェェェ!!おまいはー!おまいってやつはぁーーーー!!!!マイとコノハだけでは物足りず、ついには今日転校してきたばかりのルフィたんにまで手を出す気かー!!」


「どこをどう考えたら、俺がルフィーナに手を出したって結論に至るんだよ!」


「手紙をもらってたのが何よりの証拠だァァァッ!!」


「あの手紙か!あれはだな!俺宛てじゃなくて、だな!!あの手紙は――」


 そこまで、俺が必死になって廊下を駆け回りながら、叫んでいると、

「「ウルセェェーー!ダマレェェーー!!」」


 中断させられました。どうやら、やつらは俺の話を聞かないつもりらしい。なんて理不尽な。


「お前ら誤解だああああああああああああ!!!」


 それから、しばらく俺は地獄を見ました。



@@@@@chage



 すべての授業が終わって、放課後になった。


 目の前には、少しだけ古びた扉があった。


 私は、目を閉じてひとつ大きな深呼吸をして、それから目を開けた。


 決心しました。もう、なにもこの学校に思い残すことなんてなにもないです。なにも…。


 私は目の前の扉を開けました。太陽の光が入ってきて、私は思わず目をつむった。そして、恐る恐る目を開けなおした。


「来たか」


 そこは屋上だった。なにもない一般的な屋上。ただ、そこに1人の女性がいた。太陽の逆光で顔はよく見えなかったが、声で私はだれなのかを判断した。


「もういいんだな?」


 その女性は、優しい口調で私にそう聞いてきた。


 私は、なにも言葉を発さずに、ただこくりとうなずきました。


 夕日が沈みかけている。その夕陽にちょうど重なるように、小さな雲が太陽光を遮った。とたんに、相手の女性の顔が見えた。髪の色は赤。それで、長髪。


「では、向こうの世界アナザーワールドにお前を連行する」


 これは仕方がないことだったんです。わかっていました。初めから、いつかはこうなるんだろうなってことぐらい。私はもう少しだけここにいたい。でも、もう時間はないみたいですね。残念です。


 私は、はっきりとした声で、答えた。


「はい」


 私に向かって、女性は歩み寄ってきた。赤髪が少しだけ左右に揺れている。


 女性はこちらを見て、

「行くぞ」


 何のためらいもなく、私はうなずいた。


 もうとっくに私の覚悟はできています。


「待てよ!」


 しかし、今の声を聞いて、心がかき乱されるような感覚を覚えました。



@@@@@change



 授業が終わって、放課後の事。


 俺は、何とか、毎休憩時間襲いかかってくる、『ルフィーナ信者の集う会』から奇跡的に逃げ切り、気が付いたらもうすでに、放課後になっていた。早い…。俺の休憩時間返せ。


 まあそんなことを、心の中で叫んでも、誰も聞いてくれやしないから、これ以上は叫ばない。


 今現在の俺の所在地は、1年4組の中で、それで、正面にはマイが、でん!と腕組をしながら立っていた。


「――だから、どうして、あんたは帰らないのよ!」


 マイは、マイ自身の机をバンッと叩きながら、こちらをにらむ。ヤバイ。なんて面倒なんだ。


「だから、さっきも言ったように、理由は言えないって、言ってるだろ」


「…ハッ!まさか、あんた!私がいないときに、コノハとあんなことやこんなことをしようとしてるんでしょ!!な、なんて、サイテーな男なの!?」


 俺は、マイの頭を軽く叩く。


「そんなわけないだろ。あ、お前もしかして、一人で返れないのか?」


「んなななな!!!そそそそそんなわけないわよ!!」


 よし、挑発に乗った。


 俺は、わざと疑問を抱えている表情になる。


「ほんとうか?」


「ほ、ほんとうよ!それぐらい簡単だわ!」


「じゃあ、一人で帰れるな?俺は、用事があるんだ」


「…わかったわよ。ふんっ!私だって一人で帰れるんだから、あんたと…その…い、一緒に帰んなくったって平気なんだから!!」


 なぜ俺と一緒に帰るというところで噛む。


「あーへいへい。それじゃあな」


「……じ、じゃあね」


 マイは、こちらを一瞬見つめてきて、それでくるりと反転して、早歩きでさささっと1年4組から出て行った。


「ふう…」


 やっと、帰ってくれた。これで、コノハの頼み事は無事完了したわけだ。さて、俺はこれからどうしたものか。俺も帰るか?…いや、それじゃあマイに殺される。瞬殺だ。それは嫌だ。じゃあ、どうしよう。あ、そうだ。どうせなら、コノハを待つか。


 俺は、なんとなく、コノハの机を見た。それから、だんだんと下へ視線をずらしていく。机の中には、整理されて教科書類が入っている。


「ん?」


 コノハの机の中に、1枚の紙切れがはみ出していた。たしか、コノハ宛てのルフィーナの手紙だ。

 とりあえず、俺はその紙切れをしまってあげようと思い、手に取った。紙切れには小さな文字で何かが書かれていた。そこで、動きがぴたりと止まる。


 読みたい。この紙切れに書かれていることを読みたい!


 周囲を見渡す。俺は、誰もいないことを確認してから、その紙切れに目を通した。


――放課後に屋上へ来い。お前にオルタースの国宝を盗んだ罰を与える。それから、もうこの世界には戻れないと思え。そんな覚悟ができていないのなら、来なくてもいい。ただし、その時は我が、お前を殺しに行くだろう。――


「……」


 俺は押し黙った。頭の中ではまだ何なのかはわかっていない。だが、体は勝手に動き出した。

 だれも止められない、異常な速度で。


 どこに向かっているかって?決まってるだろ、そんなもん。屋上だ。



@@@@@



 俺は屋上へとつづく古びた扉の前まで来ていた。全速力で階段を上ったせいか、息をかなり乱している。だがそんなものはどうでもいい。今、コノハにまた危険が迫ってるんだ。それと比べりゃあ、俺の肺なんてどうでもいい。


 目の前の古びた扉の先で女性の声が聞こえてきた。


「では、お前を向こうの世界アナザーワールドへ連行する」


 ルフィーナだった。それから、はっきりとした声で、

「はい」


 俺は、震えだした。こぶしを握る力が強まる。制服の内ポケットに入っている弱泡石プチバブルを意識した。


「行くぞ」


 そこで、俺は俺の限界値を超えた。勢いよく扉をあける。


「待てよ!」


 俺の視界には、驚愕したコノハと、無表情なルフィーナが映っていた。



次回!!コノハはどうなってしまうのか!?ルフィーナは!?ハジメは!?そして、1人で下校することになったマイは!?(笑

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