無魔術師-3
やば。めちゃくちゃ眠い…
@@@@@change
「まったくあのバカ…」
その一言を発した私は、淋しそうな表情をした。
自分でもわかっている。もう少し素直にならなくちゃってことが。じゃないと、これ以上は先に進めないってことが。
でも…、でもそれができない。
さっきだってそうだった。私がハジメの隣に移動さえすれば、ハジメの近くになれた。教科書を借りるよりもずっとそっちのほうがいい。ハジメの近くに……。
……何を考えてるのかしら、私。
私が小さな吐息を吐いていると、斜め前にいるコノハがこちらを向く。
「来たようですよ、マイさん」
私はビクッっと体を少しだけ震わせた。心臓の鼓動がわずかに早まる。ほんの少しだけ。
@@@@@change
教室にだらだらと帰ってきた俺は、マイの姿を確認した。わずかに頬を赤らめているその容姿は、小さかった!!…すまん。つい本音が出てきてしまった。これいったら絶対殺されるな、うん。
シンは、「それじゃ、私は席に戻ることにします。後は、頑張ってください」と言いながら、席に着いた。何をがんばるんだ。まさか、マイにプリントしてきた数枚の紙を渡すことがか?それぐらい、頑張んなくともできるぞ。それが出来ないんなら、そうとう知能低いんじゃないか?…ハッ!?なんとなく、世界中の数人敵にまわしたような気がした!?まあいいか。
俺は、俺の存在にとっくに気が付いているマイにコピー物を渡し、席に座った。
ありがとう、と聞こえたような気がしたが、マイがそんなことをいうかわいいやつなんかじゃないことを俺はとっくに知って――
「ちょっとハジメ!せっかく私がありがとうって言ってんのに無視ってなによ!」
……。すまん。俺の知らないマイの一面がすぐそこにあった。
俺は後ろを振り向いた。振り向いた瞬間、マイはなぜか俺から目をそらす。…嫌われたな。だが、気にすることでもない。そんなことは百も承知だからだ。
「ああ、すまなかったな」
マイは、目を俺から90度に位置する場所をじっと見つめながら、
「わ、分かればいいのよ」
「そうかい。…それにしてもお前はなぜ視線を合わせようとしない」
「……!!り、理由なんてないわ!」
俺は、疑問の眼差しをマイにびしびし向けた。理由がない?なんだか怪しいな…。
「本当か?ということは、…そうか、そこまで俺が嫌いなのか。すまなかったな。俺がプリントしてきて」
そこまで嫌われているとは知らなかった。
「なに暗くなってんのよ!ち、違うわよ!別に嫌いなんじゃないんだけれど」
ん?ということはやはり――
「好きでもない」
少しでも期待した俺バーカ。あ!いや、期待していない!そうだ、そう!期待なんて、元からしていないんだった!!
「あっそ。わかったよ」
俺は、くるりと反転し机の中から、教科書やらなんやらを出しておく。
出し終え、少し休もうと思ったが、キーンコーンカーンコーン…、とチャイムが鳴ってしまったので、悲しいことに教師がやってくる。
「はははははい。そそそれではこれからショートホホホホームルームをはは始めます。みみみみなしゃん、席にすすす座ってください…」
その教師がこのクラスの担任であること自体もう悲しい。
亀井が必死で、皆を席に座らせようと試みているが、皆にはそんな意志などほぼ皆無で、がやがやとしゃべっている。
俺は、とりあえずその教室を一周見渡す。
誰か、このクラスを静まり返すような寒ーーいネタを披露してはくれまいか。そうすりゃ、凍りつくぐらいに静まり返るだろうよ。…え?俺がやれって?馬鹿言うな。そんなことできるわけがないだろう!
「おい、みんな!静かにせんか!少しはそのうるさい口を閉めやがれ!!」
おお、いた。寒いネタではなかったが、確かにこの場は静まり返った。
俺は、その勇者は誰かと思い、その声がしたほうを向く。
その人は、男性で身長が異常なぐらい高かった。眼鏡をかけているそいつが、バンっと机を叩いて立ち上がったのだから、その身長の高さは一瞬で理解できる。まるでもやしだ。本人に言ったらバゴォォォオンッッ!と蹴り殺されそうだ。だから、たとえ読者さんが言っちゃえよーだとか言っても俺は決して言わない。
確か、あいつはこのクラスの委員長だったな。
このクラスの担任であるアニオタが、びくびくしているせいでなかなか進まなかった委員長決めやらなんやらを一挙げして、解決させた勇者だ。
その委員長のおかげで、このクラスは静かになった。
汗をだらだらと流していた亀井は、深呼吸を一度した。
委員長は、席に座りなおした。うわさだと、かなりお固い方らしい。
「そそそそれではこれかかから、ショートホームルームをはじめめめます。えー…」
それから、いろいろと聞かされた。
@@@@@
ショートホームルームが終わった。はっきりいって驚いた内容だった。その内容を一言でまとめると『隣クラスで明日また転校生が来る』だ。
またか。またか。またか。
この学校は、転校生がそこまで多い高校なのか?そんな高校だったのか?それに、転校生の名前を聞いて、何いいいいいいいいいいいいいいい!?!?!?と声に出してしまった。
その転校生の名前は、
『ルフィーナ・レイチェンベル』
外人らしいんですって。ガイジ…ン……。え。
そう、そいつは俺の予想通りならば、あの赤紙長髪の魔術師だ。なぜ、ルフィーナがここに転校してくるのか。なぜ、隣の1年3組に転校してくるのか。……。あの大人な容姿で高校1年生だというのは少し無理がおありで…。はあ…。まあいいか。
それに、この高校に仮転校してくるということは……また、異世界のことなのだろう。すると、また事件か何か起こったのか?それとも、何か盗まれたとか。
とっくにすべての授業が終了し、清掃も終了したうるさい教室の中で、俺は椅子に座りながら上を見上げ、だらんと手を下げて、少し長い溜息をついた。
考えても仕方がない。明日、ルフィーナが来たときに直接聞けばいいことだしな。
「すみませんが、少しいいでしょうか?」
その声に俺は反応して前方を見ると、シンがこちらを真剣な表情で見ていた。いや、真剣ってのは誤りだ。シンは、笑っていなかった、という表現のほうが正しい。
シンはほとんど常時笑っているので、笑っていないのを見ると、つい真剣な表情をしていると誤認してしまうことがある。今度から気をつけよう。
まあとりあえず、面倒くさそうに俺は答える。
「かまわんが、用件はなんだ」
「西車さんについてです」
「はあ?」
「ですから、西車さんについてです」
……。俺の嫌な単語が話題になろうとしている。
「西車がどうかしたのか?」
「どうもこうも、彼の大声をなんとかする方法はないのでしょうか」
俺は、口を緩ませた。
そして、
「ない」
こんなもの、即答だ。考えても無駄だからな。
シンは、困笑しながら、
「そうですか…。いや、彼の大声をなんとかしないと周りに迷惑でしてね」
「そりゃ残念だな。諦めろ。いいか?あいつのぶっとい声を鎮めようとしてもほぼ無理に等しい。…いや待てよ…。ひとつだけ静める方法があった」
「なんですか?」
「ポテトをうまく利用すればなんとかなるかもしれないな。あいつは、西車を唯一黙らせることができるツッコミ役だからな」
シンは、いつものニヤケ顔になっていた。うわ。
「では、その方法を試してみましょう」
「お前ひとりでな」
「え?どうしてですか」
「はあ?どうしてもこうしても、俺は面倒くさいからいやだ。一人でもできるだろ。それくらい」
俺が正論を吐くと、シンはニヤケ顔を強調するように、さらに笑って、
「わかりました。私の些細な悩みを聞いてくださってありがとうございます。それでは」
「ああ」
シンが立ち上がり、俺は帰りの支度を始めた。
こんなどうでもいいことで時間を食わされた。
何だ西車の大声がうるさいって。どうでもいいだろそんなこと!そんな日常茶飯事で慣れなくてはならないことを悩みなんかにしているシンは、おそらく西車にいつかつぶされるだろう。それもいいか。
まあ、とりあえず、亀井の帰りのショートホームルームも無事ではないが終了し、帰宅時間になった。
@@@@@
もう夕焼けが見える時間なのか、まだ昼という時間なのかわからない太陽の沈み具合をバックに、俺は藍色バッグを背負って、こつこつと歩いている。
「ねえ、ハジメ」
「なんだ?」
学校からマンションに向かっている中、コノハは何かを考えているようで無言だ。だが、マイは俺に話しかけてきた。
くりっとしたマイの目は、歩いている俺をとらえながら、
「ルフィーナってどうしてこの高校に来るか、わかる?」
「知るか」
「そう…」
マイは、黙り込んだ。黙り込まれても、俺は、ルフィーナが来る理由なんて知らないのだから答えることなんてできない。…なんだか、複雑な心情だ。
それから、誰も口を開くことなく、やっと沈みかけている夕陽を背景にしながら、俺とマイとコノハは、帰宅した。
よし、いつの間にかシリアス調になってしまったことを何から何までルフィーナのせいにしておこう!
修復完了
それと、来週はおそらく学年末テストの関係で更新できません