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壱の魔術  作者: 川犬
第2章
19/38

無魔術師-2

と、とりあえず、模試終了…。後は…漢検と学年末試験…。

 月曜日の朝。俺は4時間ほどしか睡眠をとらずに、どんよりしているが、今日は晴れるぜ!と自慢している空を見ながら、ボーっとしている頭をなんとか起こし、朝食を3人分作り、学校に持っていく弁当分もこれまた3人分作り、マイとコノハを叩き起す……じゃなくて、普通に起こし、食べ物を摂取し、早速学校に向かう道路を3人足を揃えて歩みだした。


 今日から長い休校が終了し、また学校が始まる。始まってしまう。


「はあ……」


 俺は、藍色バッグを背負いながらものすごく大きなため息をついた。そんな俺の疲れ切った様子を見て、首をかしげたものが二人。


「ハジメ、何ため息なんかついてんのよ」


「そうですよ。昨日なんかあったんですか」


 マイとコノハだ。二人は、俺の顔をのぞいて頭に疑問符を浮かべている。お前たち!原因はお前たちだからな!


「昨日、お前たちに買い物を無理やり長々と付き合わされたからだと思う」


 それのコノハは、申し訳なさそうに黙っていたが、マイは違っていた。


 マイは、背丈の低い体をうんと大きく見せるように、俺の前に立ちふさがりながら、

「そんなの関係ないわ!あれぐらいでへばってたんじゃあ、…ふ、まだまだね!」


 そんなマイの10メートル後ろのT字路には、人影が1つあった。


「はあ…」


「な、なに、ため息ついてんのよ」


「いや…」


 どうして、俺がため息をついたかというと…。


 俺は、前を指差した。


 そこには、驚愕しきった俺の親友がいた。その親友は驚愕しているにもかかわらず、笑っていた。やっぱ常に笑っているのか?


「おはようございます。どうしたんですか、朝垣さんと秋色さんとそんなに親密そうに登校できるような仲になって。休校中に何かあったのでしょうか」


 シンだった。にやけ顔がたまらなくうざったらしい。


「はあ…特に何もない」


 後ろで、マイとコノハはなぜか頬を赤らめている。いや、なぜ赤らめているのかはなんとなく分かる。


 それは、たぶんいやおそらく、俺と登校しているからだと思う。こんな好きでもない俺とマイとコノハは登校している光景を周りの人に見られて、勘違いされるのがほおを赤らめてしまうほどいやなのだろう。そうだ。きっとそうだ。


「本当に何もないのですか。それは、残念なことですね」


「なんでだよ」


 俺がむしゃくしゃしたこのストレスをシンにぶつけたろかー?と思い、問い詰めようとしたが、

「なんでもです。さあ行きましょう。朝垣さんと秋色さんもご一緒に」


「よ、よろしく…」「よろしくです…」


 なんだなんだ?この二人の反応は。どうしたんだ。うーーーーむ。…。もしや!



@@@@@



 しばらく、4人は歩いて西風高校の校門が見えてきた。その校門を見ているといろいろなことを思い出す。マイが、校門の開け方を知らなかったり、西車に藍色バッグを投げられたり…。


 はあ。溜息があとからどんどん出てくる。きっと順番待ちにしているため息君とかため息さんとかいるかもしれない。


 とりあえず、俺がこの校門での出来事を思い返していたらだな。


「いたぁーー!!って、ぬわあにぃいー!?!?おまいってやつは!マイだけでは飽き足らず、コノハにまでもー!?!?」


 こんなやつがおりました。


「誤解だ!というより、マイにも何もしてないぞ俺は!」


 校門では、西車がぶっとい声で、ものすごい活気のいいマグロのようにぴちぴちと暴れていた。そのマグロを持ち上げるかのように、西車に突っ込むものが一名。


「言っちゃダメだろー。それは禁句だよ禁句!ほらー、がんばってハジメくんがそういう事実を隠そうとしているのに」



 ……………………。ジャガイモ顔のポテトだ。



 はあ…。またか。マタコノサイテーポテトハ!ユルサンゾ!


「ポテト、それ違うから。それ虚実だから」


 シンが爆笑している。俺はなぜだかわからんが、こぶしを強く握り、わなわなとふるえあがっていた。ああ、殴りたい。


 マイとコノハは、そっぽを向いている。さっきから、なにも言葉を発さないあたりから推測して、おそらく、あまり西車たちとかかわりたくないとでも思っているのだろう。


「とりあえず、中に入りましょう。ほら、朝垣さんと秋色さんも」


「え?あ、うん…」


「…はいです」


 二人の声に緊張というものが見られた。…やはりな。これはあれだ。こいつらも、シンに一目ぼれってやつをしたのだろう。ふはは、もてる男は大変だな、コノヤロウ。


「おまいってやつはぁーー!!二股を掛ける気かー!?!?許さんぞ!許さんぞよー!」


 耳が劈くほどの俺に言ったんだか、シンにいったんだかわからないような絶叫に、俺は耳をふさぎつつも、西車にチョップを軽く下す。


「すこしだまれ。おまえのその声は飛行機のエンジン音に匹敵する」


 それでもものすごい大声で、いろいろと問い詰めてきやがったので、スルーという魔術を発動し、ポテトに西車を任せて、俺とマイとコノハと爆笑しているシンは、一年四組へ移動した。どうなんのかなー、俺の高校生活…。はあ…。



@@@@@



 俺たちが一年四組の教室に入った瞬間、ひそひそと俺たちのほうを見て何やらいろいろと話声が聞こえてくる。


たとえば、


「さっき、西車が加納が二股かけてるってひそひそ…」「いやいや、もうやっちゃってるって話だよごにょごにょ…」「3Pで?うわーーこそこそ…」


「はあー…」


 何回目だろう。ため息君とため息さん以外にも、ため息殿やため息王やため息姫までいらっしゃっているのかもしれない。悲しいな、それ。


 なんだか、気まずい空気の中で、俺は席に座り、マイは俺の後ろに座り、シンは俺の前に座り、コノハは俺の横に座った。


 廊下のほうでは西車とポテトの漫才がテレビを最大音量で流したかのような大きな声で聞こえてくる。


 ちょんちょんと、肩を後ろからつつかれた。おそらくマイだろう。


 俺は、後ろを振り返り、ちょんちょんつついてきたのが、マイだと確認して、

「なんだ?」


「えと、その…教科書貸して」


 俺は、時間割表を視力のいい目で見て、

「歴史か。ざんねんだが、隣に来い」


「……!!や、いやよ」


 マイは耳を真っ赤に染め、ぷいっと明後日の方向を向いた。そうかそうか。そんなに、この部屋が暑いのか。それと、なんだこの即視感。どっかで見たことある光景だ。


「…じゃあ、コノハに貸してもらえ」


「……」


 しょんぼりしている。マイがしょんぼりしている。俺なんかまずいこと言ったか?


 自分の名前を呼ばれて、暇そうにしだしているコノハが反応しこちらを向いた。


「なんですか?」


「あ、コノハ。1時限目になったら、マイに教科書を見せてやってくれ。なぜだか、こいつは俺の隣で教科書を見るのがたまらなく嫌なのだそうだ」


「…なるほど。ハジメくんは意外と鈍感なんですね」


「え?」


 コノハは、なぜだか冷たい視線を突き刺してきた。いたいいたいいたたああいい!!


 マイは、ほおを赤らめながらも、こちらを向いている。ん?ということはまさかマイは俺に――


「か、勘違いしないでよね!べ、別に教科書がまだないから貸してほしい、ただそれだけなんだから!」


 ……むむむ。やっぱそんなわけないな。本人が違うって言ってるんだしな。


「…じゃあ、俺の隣に来いよ。なぜ、それができない」


「え、えと…………」


 俺はこの様子を見て、なんとなーく閃いた。そうか!俺の前がシンで、それで、俺の隣に移動するとシンに近づいてしまってドクンドクンと心臓が暴れだすってわけか。シンってやつは、モテ男だな。


「俺はどうすりゃあいいんだ?」


「…………」


 なにも言葉を発さないマイを見て、仕方が無いやつだと思いながら椅子から立ちあがった。


「じゃあ、こういうことにしよう。この教科書の今日やるページを担任に頼んでコピーしてくる。それでいいな」


「……うん」


 今日は、妙におとなしいな。これもシンの影響か。まあいいか。


 俺が立ち上がったのを見て、シンが、「私も一緒に御同行いたしましょう」と言ってきてついてくることになった。別に、ついてきてはいけないという理由はないので、だめだとは言わなかった。まあ、あまりついてこられても邪魔なだけなのだが。



@@@@@



 職員室に移動すると、担任であるオタ教師がパソコンをいじくっていた。耳には、イヤホンが装着されており、画面にはどこかしらのアニキャラが…。そんな、オタ教師の半径2メートル間には人が誰もいなかった。


 この教師の小中学生時代を問い詰めてやりたい。だが、今は教科書のコピーの件があるので仕方がなく、我慢する。


 俺は、1tの重たい視線を亀井にぶつけながら近づく。亀井はそれに気がつかない。


「先生」


 アント○の猪木似の亀井の真後ろにまで、移動してもなお、俺の存在に気づかないのを見て、カチンときている俺のその恐ろしい怨念の詰まった声が亀井の鼓膜を通過し、ビックゥ!!と亀井は肩を震わせた。


 そして、パソコンをバッコォォォォンッッ!!と閉じて、グルゥゥゥゥッッ!!とベ○ブレードのごとく回転しながら振り返る。お前はキーボ○ドクラッシャーか…。


「ななななななんだい?」


 『な』が、5つ多いぞ。それと、最初の『な』を発する声が裏返っている。


「この教科書の、…えーと、このページをコピーしてもらえませんか」


 亀井は、なんだそういうことかよ脅かしやがってとでも言っているかのような安堵の息を漏らした。というわけで。


「それと、どんだけアニメ見てるんですか」


「!!!!!!」


 亀井は、涙目になり震え上がっている。どうした。心臓発作でも起こしたか。それとも、ふふ…俺が悪魔にでも見えたか!


 まあ、そんなわけは無いということにして、その後、亀井は震えている手で教科書のコピーをしてくれた。いや、やっとした、とでも言っておこう。やっとだ。やっと。ロス10秒。


 シンは、職員室から出た瞬間ににやけ顔になった。にんまりと笑うその姿は……まあ今なら許してやろう。亀井がいたからな。


「いやー、それにしてもあの教師は変り物ですね。ふふふ」


 多少俺にしてみれば、気味が悪いが、まあ今はどうでもいい。マイが俺を待っている。さあ、教室へ戻ることにしようか。


雪が降ってきてもなお、学校が休校にならない!

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