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壱の魔術  作者: 川犬
第1章
17/38

梅雨前線停滞中-16

ラスト!次回に向けての謎要素付き!

 夕日がきれいだ。


 この病室の窓から入り込んでくる赤色の光はきらきらと俺を含む2名に当てられていた。俺の隣には、マイがいて椅子に座って腕を組んでいる。それで、目を閉じて静かな寝息を漏らしている。疲れたのだろう。もう、約9時間ほどここにいるからな。


 俺も椅子に座っていて、目の前にあるベッドの中の人物をじっと見ている。そのベッドの中に寝ている栗色の髪をした少女は、羽毛布団に身を隠し、気絶しているのか寝ているのか分からない状態で目を閉じていた。


 窓から、涼しい風が入ってきて、俺たちの髪の毛が軽く揺れる。


「……う…ん…?」


 突然、ベッドの中の少女が目を覚ました。ベッドの中に埋めている手を顔に移動させ、目をこすっている。そして、ぱちりとその少女は目を開けた。


 その少女は、目を開けて俺たちを見た瞬間、

「わっわっ!!」


 とかなり驚愕している様子で、ベッドから降りようとする。だが、

「イタッ!」


 その少女は起き上ったところで固まった。俺との戦いで、まだ怪我が治っていないのだろう。


「目を覚ましたか、コノハ」


 その俺の声にびくりと反応するコノハは、こちらを睨みつけた。


「…何の真似です?私はオルタースの国宝を盗んだのですよ。どうして、あの時とどめを刺さなかったんですか?」


「言っただろ?お前を日常に戻してやるって」


「わ、私はそんなこと望んでなんかいないです!それに、あんな大罪なことをしたんですよ?死刑に決まっています」


「それなら、心配はいらない。この隣で眠っているマイが『コノハは私たちが普段監視しているなら、コノハも何もできないんだから罰はないってオルタースの国王が言ってたわ』、なんてこと話していたからな」


 溜息をつきながら、コノハは周りを見渡す。そして、自分の手を見て、再び周りを見渡した。


「ロッドはどこですか!?」


「この世界にはない。なんつったっけなあ、ルフィーナってやつがオルタースの国宝と一緒の持って行った」


 コノハは、肩を下ろしてベッドに横になる。悔しそうだ。


「…私をどうする気なんですか」


 その声にエネルギーというものがまるで感じられなかった。


「どうする気もないぞ。ただ、明日か明後日辺りから、また学校に通わせるだけだ。日常に戻してやるんだよ」


「それじゃなくて」


「? なんだ?」


「私の衣食住はどうする気なんですか…」


 俺は、顔を引きつりあげた。まさか。


 コノハの表情はどんどん暗くなってくる。まさか!


「私は今まで異世界アナザーワールドで生活をしていて、それで、異世界アナザーワールドから直接この学校に来ていたのです。ロッドがなければ魔術が使えません」


「……。…そそそ、そうなのか。はっはっは、それが本当なら満点お笑いだ」


「本当です」


「……」


 俺は心臓をバクバクさせながら、黙り込む。やばい。何も言えない。これはまずい。まずいぞ。かなりまずいぞ。マジまずいぞ。どうするんだ。どうすればいいんだ俺ー!


 …コノハに路上で生活しろだなんて言えるはずがない。俺はそんなサドじゃない!


 窓の外の夕日を見ているコノハは、俺を横目でちらっと見ながら、

「こうなってしまったのはあなたの責任。あなたの家に泊まらせてもらいます」


 ……。…………………………………………。え。


 コノハは、俺が黙り込んでいるのを見て、今度はこっちを見てきた。


「あなたの家に泊まらせてもらいます」


「えーと。うーんと。なぜそうなるんだ?」


「じゃあ、私にホームレスになれとでも言うんですか」


「……えーとだな」


「あなたはそんな冷たい人だったんですね。あの時の、私と戦っている時のあなたは格好よかったのに。悔しいですけど」


 格好良かった、だと?そんな感情を抱かれていたのか。


 …それでも、逃亡を続けるために俺と戦っていた理由があったのか。しかし、それは何だろう。


「なあ。お前はどうして召喚石なんてもん盗んで逃亡なんかしていたんだ?しかも、この西風高校なんかに」


 いきなり、真顔になった俺を見て、ベッドで座り込んでいるコノハは目を細める。


「それは残念ですが、教えられないです。あなたが自分で答えを見つけてください。そのうち、きっと、いや絶対に理由が分かるはずです」


 コノハは、髪をツインテールにしている。


「そうか」


「分かりましたか?分かったんなら、さっさと私に衣食住を用意してくださ」


 コノハが最後の『い』を言う前に、俺の隣で大きな欠伸が聞こえてきた。


 その大きな欠伸をした張本人は、半開きの目でこちらを見据えている。マイだ。


「…んー?あー、コノハ、目を覚ましたのね」


「は、はい」


 マイは眠たそうな表情で今度は俺のほうを見てきた。


「おはよう」


 いきなり、夕日がきれいに見える午後5時なのにおはようと言われて、俺は少々返答に困った。まあ、とりあえず返答しておく。


「お、おはよう」


「よーし。じゃあ、もう帰るわよ」


 マイは、俺の手を引いて、病室の外へ移動しようとしている。俺はその手を振りほどいた。


 俺が振りほどいたのに反応して、マイは振り返る。もう完全に目は覚めたような表情をしていた。早い!


「何よ。まだコノハに用があるの?」


 俺が手を振りほどいた理由、それはコノハが、

「やはり衣食住を用意してくれないんですね…。残酷な人です、あなたは。人を助けておいて、それでそのあとは何もしないだなんて私はどうやって生きればいいんですか。やっぱりホームレスですか。ホームレスなんですか。そんな生活をするよりも、死んだほうが100倍マシです。もういいです。死にま…(半永久的に続く)」


 これに俺は、耐えられなくなったからである。


 おそらく、傷の浅いコノハは、今日明日中あたりで退院できてしまうだろう。そうすれば、何もできなくなる。なぜなら、住む場所がこの世界にはないのだから。


 くそおおおお!!俺は恥ずかしい思いをしなくてはならないのか!やっぱり、あんな任務受けなければよかった!


「どうしたのよ、ハジメ。何黙り込んで震えてんの?」


「え、え、えーととととだなー…。実はコノハは、異世界アナザーワールドに自分の家があって、この世界には住むところがないそうなんだ。だから、実は……コノハに俺の家に泊めてと頼まれてだなー。あ、いや別にいやらしい意味はないですよーーーー、あっはっは!!」


「あっそ。分かったわ」


 おや?と俺は思った。マイってそういうこと(男女が1つの屋根の下で同居すること)をあまり気にしないのか。ほー、よかったよかった。


 マイは、再び前を向き、言葉を発しながら歩みだした。


「じゃあ、あんたんちにベッドは3つ用意しておかなければいけないわねー。まあいいわ。じゃ、先にあんたんちにいってるから」


 ……んんん???


「おいちょっとまて、マイ。ベッドが3つってどういうことだ?まさかお前も――」


「そのまさかにきまってるじゃない」


 ………。


 ガタンッ、という音を立ててマイが扉を開け閉めして行ってしまった。たぶん、マイホームに。俺の家の人口密度が…。どうなってんだ!なんで、こいつらはそういうことを気にしないんだよー!耐えられねーぞ!ウヴァアアアア!!


「大丈夫ですか?頭を抱え込んでブルブル首を振っちゃって。頭の内容物が出てきますよ?」


「…はぁはぁ。だめかもしれない…」


「ふざけないでください。…あの、今回のことはありがとうございます」


 俺は、頭を振りまくって馬鹿になってるのをやめ、コノハの顔を見た。コノハは、俺が見ると、そっぽを向く。


 コノハは、続ける。


「もし、あの時、あなたが私をたす、助けてくれなければ、私は完全に死ぬところでした」


「死ぬところだった?どういうことだ、それは」


「それは、詳しくは言えませんが、とにかく私はある組織に所属しています。そうですね…この世界で言う裏の」


「そうなのか」


 コノハは、いまだに俺と視線を合わせようとしない。


「そうです。それで、私はあなたとの戦いの後、本来ならば、召喚石サモンズストーンの力を使って、龍を召喚するつもりだったんです。しかし、龍を召喚するには莫大なエネルギーが必要なんです。だから、私はそのエネルギーを得るために自らが死ぬことによってそのエネルギーを生み出し、龍を召喚するつもりでいました」


「それを、俺は阻止したってわけか」


「はい、えと、今回の件は、あ、ありがとうございます」


「…そう言うということは、お前は実は死にたくなくて、だれかに助けを求めてたんだな。…すまなかったな。早く気づいてあげられなくて」


 コノハは、今度はなにかを決心したのか俺の顔を見て、天使のように微笑んだ。顔がほんのりと紅潮していたのだが、夕日が当たっていてそれが隠されていた。


「とんでもないです。あなたは、本当に命の恩人です。だから…」


 コノハが熱っぽい視線をこっちに送って来る。これは…。


 と、その時、ガタンッ!という大きな音を立てて、マイが息を荒げながら戻ってきた。走ってきたのだろうか。額には僅かに汗がにじんでいる。


「ハジメ!なんだか嫌な予感がしたわ!」


「はあ?何のよか、っておい!手を引っ張んなああ!!」


 マイは、俺の手を離れないようにどこにあったかは知らないが持っているガムテープで、完全にぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると巻きつけられた。これじゃあ、手をほどこうにもほどくことができないじゃないか。というより、ガムテープをとるときも痛みを感じなくてはいけないだろう。


 とりあえず、何の抵抗もできなくなった俺はコノハに向かって、退院したら俺の家に来いと言い放ってから、あらゆる壁に激突しながらマイに誘拐された。



@@@@@change



 私は、少しだけ寂しげな表情になった。こんな気持ちは初めてだ。この胸が締め付けられるような、苦しい気持ち。この気持ちは、ついさっき沸き起こった。


 やっぱり、ハジメは私とマイ、どちらを選ぶかと聞かれたら、マイを選ぶはず。マイとハジメが出会ってから、たった1日半であそこまで親密度高くなっているんだから、これはもう確定だ。私は、まだハジメとはそんなに会話もしていないし。……。


 それでも、ほとんど他人の私をあそこまで心配してくれたハジメ。ちゃんとした会話を1度くらいしかしていないのに。ハジメはきっと、どんな赤の他人でも、私みたいに本当に心配をかけて、それで救ってくれるだろう。私は特別なんかじゃない。ハジメにとっては私は普通。


そんなのは…イヤダ。


 私は、羽毛布団の上に雫を1滴落とした。



@@@@@change



「いてててて!!やめてくれ!痛い痛いいたああい!」


 俺はマイに、腕が引きちぎられてしまうほど引っ張られて、それでいろいろなものが肩やら頭やらにぶつかり、ものすごいダメージを受けてもなお、引っ張られていた。


 それで、もうさすがに体力的にも精神的にもこれ以上は限界だ…、と思い、気を失いかけた瞬間、マイが止まった。


「うおわあああ!!!」


 ばこっ!という音を立てて、俺(大型トラック)とマイ(猫的小動物)が衝突した。ガムテープで俺の手がマイの手とつながっていて外すことができないのでこうなってしまった。


「きゃあっ!いったいわね!なに激突してんのよ」


「…………チーン」


「えっ!?ちょ!なんで動かないの!?きゃああああ!!」


 マイは、倒れこんで気を失っている俺をガムテープを巻きつけていない方の手で思いっきり揺さぶる。そして、ぎゃーぎゃー叫ばれた。俺は、耳を塞ぎながら、即座に目を覚ました。


 それを見たマイは、とりあえず安堵の息を漏らしている。その安心しているマイは、子供のようで守ってあげたくなるような気分になりそうになるがぐっとこらえた。いけない。マイを、このツンデレオコチャマヤロウを少しでも、可愛いと思ってしまった。いけない!いけないぞ、それは!俺はこんな奴なんかに…。


 溜息をついた俺は、とりあえず、マイの口を手でふさいだ。


「うるさい。それより、なんでいきなり立ち止るんだ。お前は」


 俺が頭を痛そうにさすりながら、ぶっきらぼうに聞くと、マイはくりっとした目を躍らせながら、

「…えーと、あんたんちってどこにあるの?」


 こほん。


「そんなものも知らないでどこに行こうとしていたんだよ!」


「えーーとーー、無我夢中だったんだから、い、いいじゃない!!」


 マイに逆ギレされました。


 俺は、大きな大きなそれはもう太陽系クラスの溜息を吐き、それでも、仕方がないかと心の中でうなずいて、身長低めなマイの背中を押した。


「こっちだ」


 夕日が沈みかけて、夜になりかけているこの世界で俺は空を見上げると、赤い月が浮かんでいた。

 この世界を失いたくはない。そして、こいつも。






@@@@@change



「―――――ふん。このような事態になったのは、誰の責任だ!コノハ・ルイノーズはいなくなって任務が失敗したのは誰のせいだ!!答えられるものはいるか!!」


 ものすごい剣幕で怒鳴っている男がいる。そのひげを長く真下に伸ばしている男に、跪き、頭を深く下げているものが多数いる。その中の一人、とある青年が前に出てこう言った。


「落ち着いてください。悪いのは私たちです。コノハに勝手な行動をとらせてしまったのも私たちのせいです。ですが、次は絶対にオルタース破滅計画書通りに、任務を成功させます。神の予言通りならば、世界は我々のものになるはずです」


「本当だな?その言葉を信じるぞ!もしできなかったら、首が全員飛ぶと思え!!」


 ひげ男以外の、全員が頭を再び下げた。


『ハッ』


 その後、ひげ男から人々が去った。



ふう…。どうにか、22日前に更新をしました。次の更新は22日以降です。そして、第2章始動です!!

それと、22日までの間、第一章の感想をお願いします!

ではまた!


タイトルを「世界を救う高校生!?」から「壱の魔術」に変更しました。何度も変更してすいません(^^;

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