梅雨前線停滞中-14
バトルシーンその2です。やっぱり難しいなあ
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私には信頼しあえるような本当の仲間が1人もいなかった。捨て子だった幼い私を育ててくれたオルタースの人々は、もちろん大切な仲間ではあるが、自分の悩みを打ち明かせるほど信頼できなかった。なぜ、信頼できなかったか。それは簡単で、オルタースの人々は私には優しくするのだが、他国の人々とはよく争い、そして、殺していったからだ。お陰で、オルタースという国は発展していって強い力を手に入れつつあるのだけれども、私には無用なものだった。私がほしいのは、権力だとかそんなものじゃない。……仲間がほしかった。
私は、逃亡者の任務を任された時に、任務先がとある世界の高校だということに胸が高鳴った。しかし、逆に不安でもあった。また、いつもみたいに皆に避けられて仲間が出来る以前に会話すら出来ないかもしれない。私は、何度か任務で人との交流が持てる場所に行ったりしたことがあるのだが、ほとんど会話なんてしたことがなかった。なぜか皆、私を避ける。その理由は自分でもなんとなく分かっていた。だけれども、人との接し方というものをあまり知らない私にはどうしていいか分からなかった。
そんな私に、西風高校で初めて話しかけてくれたのがハジメだった。いつものように、私は冷たい態度をとった。冷たい態度しか取れなかった。なんていったって、そこは俺の席だとか言ってきたから。
結局、私の席は1つ後ろになってしまった。プライドが高い私は、屈辱的だったが、なんだかハジメとの口論が楽しかった。それは久しぶりに、同年代の人間と会話できたからだろう。そんな私は、不機嫌なフリをしながらも、楽しんだ。
休み時間に、ハジメが突然振り返ってきて、以前の高校では友達がいたのかだとか言われた。私はドキッとした。それから、ハジメは俺が友達になってやろうかとも言ってきた。私はうれしすぎて、心臓が破裂しそうで、胸が熱くなるのを感じて、逃げたくなって、会話を無理やり終了させて席から離れた。
その日の放課後に、私は逃亡者を特定して、捕まえるために1年4組で逃亡者とにらみ合っていた。そんな中に入ってきたのもハジメだった。その時は、逃亡者にハジメが殺される予感がして、悲しくなった。せっかく出来た唯一の私の仲間。大切な大切な仲間。守りたい。死なせたくない。
私は、ハジメを勇気を振り絞って、ほとんど使ったことがない魔術を使った。私はあまり魔術が得意じゃないので、ちゃんと異世界にハジメと一緒に行けるか不安だった。もし、次元の狭間に移動してしまったら?その時は、即死だ。だから、本当に不安だった。
でも、私とハジメは奇跡的に助かった。
異世界では、ハジメの知らないことばかりで、私が一つ一ついろいろ教えていった。そして、こう思った。この幻想が永遠につづけばいいなあ、と。だけれども、そこまで世界は甘くない。任務をちゃんと遂行しなければ、任務失敗し、オルタースが滅ぶ可能性が高くなってしまう。それだと、今まで私を育ててくれた、私みたいな人だけを大切にするオルタースの人々がいなくなってしまう。ハジメとオルタースの人々。私は、この2つを天秤にかけようとしたけれども、かけられなかった。どちらも、かけることの出来ない存在になってしまったから。どちらも失いたくなかったから。
だから、私はどちらも選んだ。
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私は朦朧とする意識の中で、誰かに揺さぶられているのが分かった。声もぼんやりとしか聞こえない。だけれども、誰が私を揺さぶっているのか、なんていっているのか、手に取るように分かった。
誰か。それは、きっと、いや絶対に私の仲間。ハジメ。
なんていっているか。死ぬな、生きろ、そんな類の言葉。
その心の中で聞くことが出来る言葉を聞いて、私にも仲間が出来たんだと改めて実感し、それから、気を失った。
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マイは、コノハの炎の玉に直撃して吹っ飛んだ。そして、黒板に勢いよくぶつかり、どさっという音をいやな音を立てて倒れた。
「マイ!」
俺は、黒板の下に倒れているマイの元へ駆け寄った。
マイは、目を閉じてぐったりとしている腹部が赤く染まっていた。
俺は、マイを揺さぶった。揺さぶりまくった。涙が出てきそうなほどの勢いで。
マイは一応呼吸はしているものの虫の息だった。かろうじて呼吸をしている状態である。生きているかどうかも疑わしかった。
これは、俺の不注意がもたらした結果。決してしてはいけなかった不注意。あの時の判断ミス。
「マイ!死ぬな!頼むから死ぬな!俺は、お前に生きててほしいんだ!」
「うふふ。どうです?大切な人がやられたのが自分の小さな判断ミスだってことで」
いつの間にか、詠唱をやめたコノハが地獄神のように微笑んだ。
その瞬間、俺の中の何かがはじけた。周りが見えなくなり出す。見えるのは、マイを傷つけたコノハのみ。
許せねえ。
俺は、猛獣のような目でコノハを見た。
確かに、マイとは1日前に出会ったまだお互いをあまり知らない仲だ。だからといって、その人が傷ついて何も感じないわけがない。いや、俺は赤の他人でも傷つけられれば傷つけたやつを許さない。
コノハは笑った。
「やっと、その力に目覚めたのですね。そうですよ。その意気ですよ。うふふ」
外では大粒の雨が絶えず、泥沼化している地面に降り注いでいた。
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不思議なことに、俺の身体に何かが盛んに動いているのが分かる。それは、魔力。莫大な量が俺の身体をぐるぐると回っている。
そして、自然と思考もいつもより、冴えているような気がする。
マイを愛おしそうに見つめてから、俺は、ふらふらと立ち上がった。コノハはすでに詠唱を始めていて、俺にロッドを向けている。
俺は思考した。この状況でもっとも勝つ可能性が高いのは何か。
すばやく外を見る。外は大雨。俺の属性は水でコノハの属性は火だ。つまり――
バリィィィンッという音を立てて窓ガラスを破って俺は、外に飛び出た。といっても落ちて死ぬわけはない。ここは、1年4組で1階にある教室だからだ。もし、ここが2階だとか、3階だったら俺に勝算はなかっただろう。ここが1階でよかったな。
コノハは俺の予想外の動きに思わず、詠唱を途中でやめて、俺の行動をじろりと見た。
「逃げた、のですか?……かっこ悪い」
俺は、グランドの中心まで泥まみれになりながらも思いっきり走った。
これで何とか、コノハを呼び寄せられたなら…こっちの勝ちだ!こなかったら、あいつはマイにきっとトドメを刺しているだろう。だから、これは賭けである。
俺がグランドの中央に来るころには、コノハは、俺にロッドを向けながら追いかけてきた。
俺は、にやりと笑い、コノハに大きな声で言い放つ。
「お前の属性は火、だろ?こんな雨の中で使えるのか」
コノハが俺に追いついて立ち止まる。だが、詠唱はやめてなかった。
「雷よこの者に征伐を与えよ」
「な――」
コノハは、火属性の魔術師じゃなかったのか……?どうなってんだ……?まさか。
コノハのロッドが青色に輝きだし、一瞬のうちで雷がこのグランド一体に注ぎまくる。雨が降っているので、雷は広範囲でその威力を発揮する。
「アァァアアッッ!!」
ドサリという音を立てて、俺は倒れこんだ。コノハは、そんな俺の無様な姿を覗きながら、微笑む。
「残念ながら、私は火と雷の二属性を使うことが出来るんですよ。うふふ」
どうなってんだ。どうなってんだよ!二属性の魔術が使える?
「では、トドメをさしますよ、ハジメくん」
まずい。殺される。俺はこんなところで死ぬのか?傷ついたマイをまだ助けてもいない。このまま死んでしまっていいのか俺は…。答えは、
良い、訳ねええええだろおおおぉぉお!!
「こんなところで死んで…」
コノハは、おやっといった風な表情になった。
「こんなところで死んで、たまるかよ…。どうしてお前はそんなオルタースの国宝なんて盗んだんだ」
俺は、気力を振り絞って、ゆらゆらと立ち上がる。ゆっくりと、しかし確実に。
「どうしてだよ……。お前はあの時、マイに席を譲ってくれたじゃねえか……。あーいうことができるような人なのに。他にもある。俺とマイが異世界に行ったとき、なぜお前は俺たちを証拠隠滅のために始末しに行かなかった?お前のその腕なら、俺たちなんてノミみたいなもんだろ?」
完全に立ち上がった俺は、息を荒げながらも目でコノハを捕らえる。コノハは、無表情になった。
「そんなこと、あなたには関係なんてないです。これは、私達の計画なんですから」
「……なら、俺は、お前のそのショーもない計画をぶっ潰して、お前をいつもの日常に連れ戻してやる」
「またそれですか」
コノハは、ロッドを鈍器のように使って俺の頭部を殴りつけてきた。俺は、避けようとしたが、肩に当たる。うめき声を上げ、再び倒れこんだ。が。
「……もっと言ってやるよ。お前が聞き飽きるまで!俺は、お前を、一昨日の借りを返すために、ここで、その俺には理解できない計画をぶっ潰す!!オルタースを救うために!」
俺は、倒れこんでもなお立ち上がる。
雨はより一層強く降り出した。
次回!たぶん、このバトルに終止符がうたれます!
それと、そろそろ、冬休みがあけるので更新スピードを下げます。