梅雨前線停滞中-12
今さらなんですけれど、今年もよろしく!!
マイは、俺の目を見たまま、微笑んでくれた。
「ありがとう」
俺は、マイの顔から思わず目をそらしてしまった。そして、さりげなく後ろを向く。
マイの笑顔は、小雨が降っている中、ヒマワリのように眩しかった。
その明るい笑顔を直視することが出来なくなって、俺は目をそらし、後ろを向いたのだ。後ろを向いたのは、頬が熱くなっているのを感じたから。
俺は、こいつにどんな感情を持っているんだろうな……。頭の中ではまだ分からないが、なんとなく心の中では分かっているような気がする。しかし、俺が心にこの感情はなんだと聞いても、心は教えてくれない。まるで、自分で答えを探せというように。
俺は深呼吸をして、マイのほうへ向き直る。マイは、どうしたのとも言わず、ただ俺が向き直るのを待ってくれていた。俺の何かを察しているのか。それとも、俺でさえ分からないこの感情をマイは知っているのか…。…分からん。
マイは、机の上に腰掛けた。
「じゃあ、あんたにとりあえず最低限の基本魔術と水魔術を教えるわ。あー、―――――を捕まえるのは、明日だからね。だから、今から明日の早朝まで魔術の特訓よ!」
「あぁわかっ…て、はあ!?明日の早朝までやるのか!?」
「そうよ。当たり前じゃない!それぐらいやらないと、あんたは魔術をうまく扱えないでしょ」
「な、何を言ってやがるっ!俺は、数時間あれば余裕で魔術を自由自在に扱えるようになれる!だからそんなに――」
「無理よ無理。あんたにそこまでの才能がある訳がないじゃない」
俺はうつむいた。
「……そうなのか…。俺は才能がないのか…」
いつの間にか、シリアスな雰囲気から抜けた俺とマイは、口論を始めていた。
楽しかった。こんなことは、サンタクロースがいると信じきっていたバカなガキだった時以来だ。…もっとこの時間を大切にしなくてはいけない。別れが訪れるそのときまで。
マイは、あくまで任務でこの学校に転校してきているのだ。当然、この任務が無事成功すれば…つまり、逃亡者が捕まればマイはこの学校に存在する意味を無くす。この学校に存在する意味をなくしたマイはおそらく、異世界へ帰ることになるだろう。それは、俺と別れることを示すのだ。だからそのときまで、俺はこいつと…。
…何を考えているんだろうな、俺は。こんなことを考えても仕方が無いのにな。
俺がそんなことを考えているとは知らず、マイは、あわわとあわてたような顔でこちらを見てきた。
「ま、まあ才能なんて、あまり関係ないわよ!」
落ち込んだ様に見せかけていろいろと思考していた俺を励ましてくれているのか。だがな、忘れるなマイさんよ。俺を落ち込ませたフリをさせたのもお前なんだからな。だから、プラスマイナス0だぞ。…そういうことにしておくんだぞ。
俺は、ばっと勢いよく顔を上げると、マイが自然と小さな肩をすくめる。
「よし!じゃあ、もう時間がないから、急いで特訓開始だ。まず何の魔術を教えてくれるんだ?」
マイはしばらく固まっていたが、目に潤いを戻した。
「そ、そうね…。とりあえず、意思疎通の特訓よ」
「基本魔術か」
俺がそう声を発したのは、水魔術ではそんなことが出来そうなものが浮かびあがってこない、と思ったからだ。それは当たっているようで、マイはそうよと言ってきた。
マイは、再びオセロか何かをしていて追い詰められてどうにか打開策はないかと考え込む時のような表情になった。そしてしばらくして、オセロで、追い詰められたが、逆転の一打を見つけた時のような表情になった。
「まず、あんたはまだ魔術に慣れてないから集中するために目を閉じて。そして、私を想像して」
俺は目の前にマイがいるので想像する必要なんてないとは言わず、素直に目を閉じた。そして、マイのことを想像する。
俺の脳内は素直じゃなかった。こんなマイを想像しろだなんて言われてないので、俺は思う存分ものすごいマイを想像しまくった。スクール水着姿のマイ。パジャマ姿のマイ。メイド姿のマイ。そして…etc。
……ここまでくると妄想だ。
はあ、俺って奴は……。なんてことを考えていたんだ…。こんなやつのこんな姿やあんな姿を想像しても仕方がないんだが想像してしまうなんてな……。ついにマイに破壊されたか、俺の脳内理性抑圧機。……修復してやる!! ……シュウフクカンリョウ。これで俺はいつもの俺に戻った。
「そこで、伝えたいことを思い浮かべて!」
俺は、はっきりと聞こえたマイの声どおりにお前って意外と背が小さいなと思い浮かべようとしたが、死刑にされそうなのでやめて、こんにちはと脳内に思い浮かべる。これなら普通に大丈夫だろう。
「…もういいわ。あんたが私に伝えたことは、こんにちは、これであってる?」
俺は目を開けた。マイがバナナの皮を踏んづけてしまったように驚いている。なぜ驚いているのか、何に驚いているのか、謎だ。
「意外と簡単じゃないか」
俺はマイが、まだまだぜんぜんよ、だとか言いそうな予感はしていたんだがまったく違っていた。
「…すごいわね、あんた。1発で簡単な魔術だけれど成功させちゃうなんて……。やっぱり……」
マイは神妙な顔になって、俺を置き去りにして考え込んでいた。
一体何を考えてるんだ? なにがまさかだ。…は!もしかすると…俺がさっき思考した…水着姿のこいつだとか他etcまでもが伝わってしまったとか…? いや…それは無いだろう。
もし、マイに俺が半ばふざけて思考したことが伝わっていたら、マイは即座に俺の心臓をなんらかの魔術で貫いていただろう。となるとこいつは、一体何を思考しているんだ。そうか!分かったぞ!
「マイ!」
マイは、俺が大声を出したのにびくっと震えて、
「な、なによ!?」
「大丈夫だ!俺の魔術よりも、お前の魔術のほうが上だ!」
「はあ!?……当たり前じゃない!何を馬鹿なことを言っているの?それよりも特訓よ特訓!」
俺の推測は完全に外れた。…マイは、俺の魔術があまりにもレベルが高くて、いつか俺に抜かれないだろうかと悩んでいたんじゃないのか? 違うんだとしたらなんだ?
「何、口をあんぐりとあけてんのよ。特訓よ!次は、初心者向けの水魔術について教えるわ」
そこで一旦、俺の思考は、已む無く終了せざるを得なくなってしまい、仕方が無く思考を中断した。
その後、俺とマイは魔術の特訓を学校から場所を変えてまでして、夜8時まで続けた。
意思疎通を1発で成功させた俺がなぜ、8時まで続いたかというと、理由は分からんがどうやら俺は、水魔術が苦手分野に入っていて、基本魔術は得意分野に入っている人間らしい。そんなものだから、初級魔術だけしか学べていない。それも、たったの3種類だけだ。
魔術の特訓を始めたときには、早朝までやるだとか言っていたマイは、疲れたからもうおしまいだとか言いやがり出して、2つの初級魔術の簡易練習法と3つの中級魔術の簡易練習法、そして1つの上級魔術の超簡易練習法だけ紙に書き留めて、勝手に帰宅してしまった。
俺も、くたくたのぼろぼろだったので、魔術の特訓を一人でむなしくするのもあれだと思い、中級魔術の簡易練習法だけ見て、帰宅して飯食って風呂入って歯磨いて欠伸をして寝た。疲労がたまりきって腐っていた俺は、ベッドにダイブしてそのまま寝てしまった。
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次の朝。安らかに眠っている俺の頭の中にガンガン声が響き渡った。
『起きなさい!―――――を捕まえにいくわよ!』
寝ぼけている俺は、あまりのマイの声の大きさに耳をふさいだが、そんなことで脳内に直接訴えかけてくるビッグボイスを防ぐことは悲しいことに出来なかった。ああ、泣きたいぜ。
時計を見ると、6時だった。遠くから高校に通っている奴は普通に起きている時間帯なのだが、いくらなんでも高校の近くに住んでいる俺にとっては早すぎるだろう。
昨日の意思疎通のやり方を何とか思い出した俺は、マイにこう訴えかける。
『まだはやい……ぐぅ』
『二度寝するんじゃ、…無いわよーーッ!!』
「ガハァッ!!」
あまりの声の大きさに目がパッチリと覚め、飛び起きた。ビンタよりもこちらのほうが天と地の差で断然きつい。
俺は閉じた目を擦りながら、
『分かった。もう起きる。もう起きるからそんな大音量のモーニングコールを送らないでくれ』
『…分かったんなら良いわよ。…じゃあこれからのことを説明するわね』
『ああ』
俺は、再び襲ってきた眠魔に打ち勝ち、マイの話を聞くことにする。
『まず、あんたは15分以内で準備を済ませて、学校の1年4組の教室の中に入って。それから、どこか見つかりづらそうなところに隠れて待機してて。それで逃亡者が来たら、背後から襲って』
なんか、マイの言葉の最後に襲ってというこの事情を知らない人が聞くと勘違いされそうなワードが出てきたんだが、捕まえろという意味に自動変換し、スルーした。
『お前はどうするんだ?俺がすべてやるというわけでもないだろう』
『もちろん、私もあんたと一緒よ。それじゃ、時間が無いんだからよろしく頼むわね』
俺は、その言葉を聞くと首を、こき、こき、と鳴らして大きな欠伸をした。そして、ぱぱっと朝食をとり、ぱぱっと制服に着替えて、ぱぱっとその他もろもろをした。
それから、学校に行き、1年4組の教室で適当に教壇の下に隠れて待機した。
マイはもうすでに俺が来た時には来ていて、誰のか知らない机の下に隠れていた。
@@@@@
10分が経過した。やっぱり何も無いんじゃないかと俺が思い始めた丁度その時、誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。耳を澄ますと、足音が大きくなっていることが分かり、ここに向かってきていることを感じ取る。その誰かとは―――
ガラララ
教室のドアが開き、そいつは入ってきた。
そいつは、いつものツインテールではなく、ヘアバンドは外していた。そして、手にはロッドが握られている。
…こいつが、こんなことをする訳がないと思っていたんだがな。これが、この俺が1番見たくない光景が、夢であったらどんなに俺は救われるか。
…絶対にこいつを救う。こいつ自身にお前のしていることは間違っていると気づかせて、召喚石を取り戻し、こいつも含めていつものもう既に日常でなくなった超常という楽しい世界に連れ戻してやる!
俺は胸が苦しくなって、思わず立ち上がってしまった。マイが戸惑うような表情をしたが気にしない。気にならない。
「逃亡者と呼ばれるようなことをしたのはお前なんだな」
その女性は、俺とマイがここに来ることをハジメから知っていたかのような感じで、少しも驚いたりしていなかった。
そいつは、天使のような笑みを浮かべていた。
俺は、拳を強く握りしめた。こいつは…。こいつは…!こいつは…!!
「コノハ、答えろ!」
そろそろ、宿題をやらなければいけないので、更新スピードを少し下げます。