梅雨前線停滞中-10
そろそろ、梅雨前線停滞中は完結します。そろそろといっても、あと5,6話ぐらいあるんですがねw
ルフィーナは俺達に松明を渡して、風のように去っていった後、俺とマイは、魔石を即座に見つけた。
マイによると、俺が見つけたのは、弱泡石という水属性の魔石の中でも一番弱い魔石に分類されるらしく、残念だったわね、と皮肉たっぷりな笑みを浮かべながら、言い放ってきやがった。俺はそれを魔石の強さなんてどうでもいいと言い返した。
マイは、むっと顔をしかめた。
「あんた、本当にそんな魔石でいいの? 一度決めたら、それ以外の魔石を手に入れても、使えなくなるのよ? 魔石ってのは、ひとつ決めたら、それ以外の魔石は使えなくなるんだからね、一部を除いてなんだけど」
「何度も言わせるな。これで別にいい。基本魔術さえ使えればいいんだからな」
「……やっぱり、あんたは基本魔術が使いたくて、魔石がほしいんだなんていいだしたのね。ま、予想は出来てたけれど」
まじか。そんなに俺の顔に魔石ほしいという欲望が表れていたのか。こんどから、欲望が顔に出てこないようにがんばろう。
俺は、マイの目を見て、
「じゃあ、次は魔術師探しだ……って!さっきのルフィーナって言う女性に頼んでおけばよかったな……」
「いえ、その必要もないわ。だって、あんたは魔石を持っていて、魔力が使えるじゃない。その魔力を使ってあんたの世界に戻ればいいだけの話よ」
「そうなのか。俺は魔力を使って帰れるんだな?」
「帰れるわ。だって私があんたの世界に戻れないって言ったのは、魔力が足りなくて、1人なら問題ないんだけれど、あんたも一緒に私の魔力だけで戻ることが出来ないっていうことだから」
「そうだったのか。ならどうやって魔力を使うんだ?そして、俺は何をすれば俺の世界に戻れる」
「あんたは、まだたぶん魔力を制御しきれないはずだから、目を閉じて、意識を集中して。そしたら、あんたの世界の……そうね……あんたの家のあんたの部屋を強く思い浮かべなさい。それで、異次元の世界よ扉を開け私を連れていきなさいって唱えるのよ。いい?大切なのは、強く思い浮かべることだからね」
俺は目を閉じて、意識を集中した。周りの声が聞こえなくなるくらいに集中し、俺の部屋を静かに思い浮かべる。すべての家具の位置、散らばっている教科書やら何とかの位置、色、大きさ、すべてが俺の脳内に流れ込んでくる。
「今よ!唱えなさい!」
俺は全神経を頭の中に集中し、魔術を生まれて初めて詠唱した。
「異次元の世界よ扉を開け俺を連れていけ」
脳内に浮かんでいた俺の部屋は突然、記憶喪失になったかのように消え、思い出せなくなる。
不意にマイの忘れていてそれを思い出してあわてて口に出したような声が聞こえてくる。
「あ、……えと……向こうにいったら、また―――」
その声は途中で途切れた。何も聞こえない。空気が変わった。空気が変わったと感じたのは、一瞬で温度の差が著しく変化したからだ。
その気温の変化だけで、俺は次元移動を成功させたことを理解した。
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俺は、ゆっくりと目を開けた。本当の本当の本当にこの魔術が成功したかどうか最終確認をするためだ。俺の周りに広がっている光景は俺の予想したものとまったく同じだった。
つまり、俺の部屋だった。
「ふう……」
俺は溜息をつき、とりあえず部屋から出た。
俺はまだ早すぎるといわれるかもしれないが一応1人暮らしだ。7歳の時に両親を交通事故で無くし、祖母がいる家に引き取られたものの、俺は迷惑をかけまいと思って、アパートで一人暮らしをはじめたのだ。
これで、女子が入ってきても、万全だぜ!と俺は自慢するわけでもないが、俺の部屋は結構広い。子供にも分かりやすく説明すると、畳12個分ある。
そうすると、賃金が高いだろうというやつがいるかもしれないが、そうでもない。もともと、このアパートには幽霊が出ると評判らしく、それのお陰で賃金がめちゃくちゃ安い。
それなら、毎月祖母から送られてくる金でも足りるということで、俺はこのアパートに巣食うことを決めたのだ。
俺はふらふらと歩みながら、腕時計を見る。火曜日、午前11時を丁度すぎたところだった。つまりだな……この世界と向こうの世界の時空はリンクしているのか…。なるほどな。
そういうわけで、俺が外出した理由は、ずばり西風高校に向かうためである。今日は火曜日だ。それで、だるくとも病気にさえなってなければ絶対に出席を取るまじめな俺は、高校に向かうのだ。
もちろん遅刻扱いにされるだろうが、そんなことよりも休んで心配させることのほうが面倒なので、遅刻のほうが幾分マシだ。
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小雨が降っている中、高校の校門まで行くと、やはりというべきか、門が閉まっていた。しかし、それだけではなかった。誰かの人影が、門を蹴っている。
「開きなさい!あけっつてんだろーがぁ!もう、何で開かないの!?雨で髪が濡れるじゃない!」
……。俺は、面倒なことはごめんなので回れ右をし、引き返そうとして…、
「ちょっと、ハジメ!私が門を蹴っているのを見るだけ見ておいて何私は無関係ですって態度で引き返そうとしてんのよ!こっちに来なさい!!」引き止められた。
不運なことが続いていて疲れている俺は、力の無い声で、
「…それで、何やってんだマイ。お前が門を蹴っている光景は誰が見てもすぐに引き返したくなってしまうぞ」
「うるさいうるさいうるさい!」
またそのネタか。いい加減読者さんも飽きるぞ。やめてくれ。
「とにかく!この門を開けなさい!!押しても開かないのよ!それで引いても開かない!どうなってんの、この門!?」
あなたはバカですか。バカですね。バカだ。バーカ!!
「…こうやるんだ。よく見ておけ」
俺は、門を左の方向に向かって、力を加えた。門はあっけなく簡単に開いた。
マイは口をパクパクさせている。そして、真っ赤になった。
「ししし知ってたわよそんなことぐらい!ただあんたを試したかっただけなんだから!!」
「そうかそうか…はあ」
「な、何溜息ついてんのよ」
俺は、「いやあ、お前が面倒くさいから」とは言えず、なんでもないと面倒くさそうに言った。これでなんとなく伝わっただろうか。
俺は直接伝えるのではなく、間接的になんとなく伝えるというのが好きだ。
直接伝えると、相手を傷つけてしまうことがあるだろうからで、間接的に伝えれば、傷つく傷も最小限に抑えられるだろう。簡単に言えば、俺はやさしーッ!……というナルシ発言は控えておこう。
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結局俺達は、二人で肩を並べて3時限目の授業をしている教室の中に入り、勘違いされる羽目になるのであった。
何の勘違いかといえば…「お前ってマイと…」だとか「デキてんの」だとか「ヒューヒュー」だとか!「転校生をたったの一日で」だとか!!「よしこれはみんなに広めよう!」……だ…と…か………。ほかにもいろいろ陰口叩き込まれているのだがすまん。これ以上はつらい。やめさせてもらう。
とにかく、俺達は二人そろって狐顔の化学教師に「すみません、遅れました」と謝罪した。
「それで、どうして遅刻したのかね?」
俺とマイは残念なことに同時に同じ言葉を発した。
「「寝坊しました」」
シンクロ率99,99999999999999…!!
……やばい。皆の視線が痛い。痛すぎる。身が持たないぞ。
ここまで、俺とマイのシンクロ率は高かったか?もし高いとすればその原因は……異世界小旅行(俺命名)だろう。それ以外の何がある。昨日こいつとであったばかりなんだから、ある訳が無い。
化学教師は、困惑したような、まだ何か疑問を持っているような表情になった。
「そ、そうかね…。…もう、席に着きなさい」
やばい。やばいやばい。やばばばばばばい。
ばが多いような気がするが、それくらいやばいのだ!絶対に化学教師にも勘違いされている。それだけではなく、このクラス全員から、勘違いしている目で見られているということ自体がもうやばい。
ああ、学校に行くのがつらくなりそうだな。
俺とマイは、かろうじて絞りに絞った残りの力で、それぞれの自分の席へと向かい、がたんと言う音を立てながら倒れこむようにして座った。
俺の前のシンが爆笑するのをこらえているのが分かる。それに、俺の隣のコノハさんまでもが「まさか朝垣さんとね」と呆れたような声を発している。
この俺とマイにとっては恐ろしく不幸である空気を変えるには、俺の弱泡石では少々無理がある…。
それは、マイの凍石でも無理だということでもある。何とか誤解を解く方法は無いのだろうか。
俺は、化学の教科書とノートを取り出しながら、疲労の詰まった大きな大きな溜息を吐いた。
次回!話はどんどん急展開に!?