「3」 新人・変人
「なあ、あかせ教室どこだっけ?」
この時の俺は、何気なく聞いた。
そもそも教室は、覚えてたんだよ。
なのに聞くなんておかしいよな?
まあ、どう思われてもいいからな。世間体気にしたってしょうがねえ。
それに、なんというか不自然さを出したくなかった。だって、俺は……2週目だから?
不自然なく自然に振る舞いたかったんだ。自然に振る舞えてるといいけどな。気にしてたってしょうがねえ?気にしてるじゃねえか。アホなのか。俺はよ。
だから、いつまでたっても負け組だったんじゃねえか。地味。陰キャ。負け組。そんな言葉が、俺の頭をよぎり、目の前にいる輝かしい橙星に俺は、にらめっこするかのごとく、見つめてた。
「僕は、覚えてるよ行こうか」
俺達は、3のVへと向かった。教室は、5つある。もちろんVは5つ目だ。誰に言ってんだかな。
去年は、いや、俺が交通事故に会う前は、落ちこぼれのV組。そう呼ばれてた。クラスの全員が、揃いも揃って、ガキばっかだった。当然、俺も例外じゃねえ。頭が良いとか、悪いとか関係ねえのよ。性根から腐ってた。だから、前に進めねえし、協力もできねえわ。努力もできねえわ。根性ねえわ。で、俺が気がつけば、クラスはお釈迦もいいとこだった。
照らしくれよ。橙星、お前がいなきゃな、始まんねえだろ?
「おや? まだ、誰もいないね。僕らが一番最初かな」
最初?だといけどな。俺は、教室内を確認する。見渡したが、やはり誰もいない。どうも俺らが最初らしい。
「みてえだな」
――ガラガラ
俺が、橙星に一言添えると……教室の扉が空いた。
あら、扉開いたのに誰もいねえな。
これは、怪奇現象でもなんでもない。俺らの次に入ってくるクラスメイトの音だ。
ひょっとしたら、先生かもしれねえな。わかんねえけど。俺とあかせは、その動く扉に釘付けだった。
「Hey Akase,How are you?」
「I'm pretty good.」
シルエットが現れたかと思えば、英語!?何言ってんのか全然わかんねえ!
俺が聞き取れんのはあかせだけだ!
「これは、驚きました。英語……できるんですね。橙星さん」
本当だよ。すげえな。何者なんだよ。さっきの地下鉄の時の話と関係あんのか?
「やあ、エリオット。昨日ぶりだね」
エリオット!?
こんなヤツいたか?
なんで俺は覚えてねえんだよ!
超特徴的じゃねえか!
「これはこれは、史也さんじゃないですか」
俺のこと知ってんのか!
マジで、なんで知ってる?
初対面だろ?
あ、昨日俺はいたんだよな。あかせが言ってたな。ということは、会ったことあるってことだよな。会ったていで話さねえと。
「あ、おう。どうも。エリオットだっけか?」
まさか、俺に英語で話してきたりしねえよな。俺はちょっとビクビクしてた。にしても何言うんだろうな。
「素敵ですね。赤いジャケット。かっこいいです」
褒められた!?
この俺が?
俺かっこよくねえけどな。生まれてこのかた初めてだぜ。『かっこいい』なんて、言われたのはよ。まあ、これ。父親のおさがりだけどな。つーかよ、何着てんだ?源高校は確かに制服自由だけどよ。個性的すぎねえか?
いや、でもよ。褒められたら、褒め返すってもんが道理だぜ?
俺もとりあえず、エリオットを褒めるとするか。
「エリオットだっけか? その、青い戦闘服みたいなのも格好いいよ」
我ながら、笑えてくるぜ。青い戦闘服だ?
学校に何しに来てんだよ。ってツッコめよ俺。
それによ金髪にロン毛?どこの国出身だよ。
あのロボットで戦うアニメのパイロットみてえなんだよな。あのー、あれだ。何とかタム!
なんだっけな?忘れちまったな。
こんな人本当にいんのな。たまげたぜ。まるで、フィクションを体現したような見た目をしてやがる。
「Are you being sarcastic?」
アーユービーサカステ……ィ…なんだ?
おい!日本語できるんじゃねえのかよ!
俺の嫌な予想を的中させるんじゃねえ!
てか、英語できねえよ!
しゃあねえ、わからないつっとくか。
「ソーリー。わからんのよ。」
苦し紛れに出た英語がなんで、ソーリーなんだよ。
髭剃りでもしとけ!
髭生えてねえけど!
「あ、すいません。その、史也さんも英語できると思ってました。皮肉ではなさそうですね。ありがとうございます」
いや、イケボ。かっこよ。
エリオットは、俺に握手をしてきた。戦闘服の上からも体格はわかったが、しっかりとした握手だった。
「僕は、アメリカの大学から来た留学生で、他にも4人いますよ」
4人………つまり、5人か?
なんか、多くねえか?
まあ、いい。
俺たちが話していると、続々とクラスメイトと思わしき人達が入ってきたが、誰も彼も初めましてばかりだ。
俺は、新入生か、もしくは転校生か。あのよお、俺、セルフツッコミしてる場合かよ。
にしてもよ、あの時から、俺は少し変だ。誰も覚えちゃいないんだ。まさか、忘れたのか!?
いや、そんなまさかな。あ、やべえわ。笑えねえわ。はは。
橙星が覚えているってことはだ。俺は昨日ここに来ている。
待てよ、違うのか?
ひょっとして来たことになっている。ってことなのか?
なら、橙星に聞けばいいじゃねえか!
「あかせ」
「皆さん席に着いてください。はい、そこ。静かにお願いしますね」
いや、アサシンかよ。
先生影薄くね?
先生なんだよな?
とりあえず、謝っとくか。
「すいません」
いつのまに……
立ってるの俺だけじゃねえか。
俺が椅子を引いて、席に座ると隣にくノ一みてえな女がいる。
黄色をベースにした、派手な衣装だ。高校生にしては露出が多い。
これで校則に引っかかんねえのが不思議なくらいだ。
「皆さん、今日で2日目ですね。おはようございます。驚かれた方もいるかもしれませんが、本日より、 私が担当いたします」
教室中がざわついている。有名な先生なのか?
でも俺は知らねえぞ?
なんでだ?あれ、でもこの声――聞いたことある気がするのはなんでだ?
思い出せ!いやあ、出てこねえ。俺の頭の悪さに腹が立つぜ。
まったくよお!勘弁してくれよ。
「紹介が遅れましたね。私は、この高校を設立し、今や、巨大企業郡となった。AMTの一企業の源グループの元代表である源創立です。以後お見知り置きを」
お、なんだ。誰か挙手してるぜ。
「質問してもいいですか?」
この話し方、留学生か?5人のうちの1人だ。
「どうぞ」
何聞くつもりなんだよ。気になるぜ。
「あなたは、LivingLegendと呼ばれる方だ。ここで、なにをしているんですか?Mr.Minamoto?」
「私は、一大プロジェクトに取り組むために、ここにやってきました。マルチバース規模のプロジェクトです」
「That make a sence.私達全員が参加できるのですか?」
「今は言えません。皆さん、一企業英雄はご存知ですよね?英雄が働き手を募集していますので、成績優秀者には、英雄での所属を約束しましょう。一般企業に就職希望の方や、進学希望の方は、挙手をお願いします」
俺は、手を挙げた。教室内を見渡してみると、もう1人手を挙げている奴がいた。
「お二方にお尋ねします。ご理由はなんですか?」
もう1人の奴が目線を向けられていた。
肌は、褐色に焼けていた。そいつも隣のくノ一と同じでなぜか黄色い、でもってタンクトップを着ていた。
「俺はバスケがしたい! 創立先生!」
はい?
はい?
あったま大丈夫ですか?
なんなんだよこいつ。
いきなりなんなんだ。
教室がざわめいている。
ってよお、そりゃそうだろ?
なんで、就職希望か進学希望なんですか?って聞かれてんのに、バスケがしたいなんだよ!
意味わかんねえよ
「ここで、宣言しておく、俺はNBAに行く!」
いや、知らねえよ。