「22」 Heavy Burden―重い負担
―Spun Memories―
「では、始めましょうか。史也さん。」
先程の態度とは打って変わって、落ち着いてる。その子は、幽体で踵を返す。俺をさんづけする未来人こと世代。
ちなみになんだが、「世代」は「せだい」ではなく、「よだい」と読むらしい。だから俺も世代と呼ぶ。世代は、なにも言っていないのに、なぜ俺が知っているのか。さもそれが当たり前かのように、話が進んでいく。時間は止まったまま、俺達は浮遊し、時間という概念に逆らいながら、そうか自分が時間だったのかと再認識させられる。俺達情報体は死ぬことがないんだろう。生物から死が取り除かれた時、何か途方もないものを感じた。俺には役割がある。ヴァイヴァロスは俺を選んだ。それは、助けるためか。必然だったのか。今となっては、わからないが、「世代」といる時、ヴァイヴァロスは、喋らないんだ。そういえば、いくつかの未来で、ヴァイヴァロスが喋らないことがあった。つまり、この時間軸は間違っているのか?いや、ヴァイヴァロスも止められているとしたら・・・末恐ろしいよ。この子が。未来人って、未来の人って書くけどよ。もう人間じゃないだろ。俺然り。
「世代。何から始めるんだ?」
辺り一面を見渡す。時は止まったまま、依然として変化なし。誰も動いていない。今はおそらく、世代が時間を止めているんだろうが、制約のようなものは見受けられない。
制約がどういうものか説明すると、時間を止めるのは「限度は一日に一回」や、「なんらかの道具を使用しないと時間は止められない」または、「時間を止めた後は、なんらかのデバッグが現れる」等々。それがないこと自体おかしいと思うべきなのか。だが、未来の技術は想像を超えてくる。世代の力が、能力によるものなのか。はたまた、技術によるものなのか。スピリチュアルとも、リアリズムとも捉えられる。俺の考えが、俺の頭の中を過った。それにしても幽体になると、不思議と浄化されたような気分になるんだよなあ。
だからって成仏したわけじゃねえが、それに俺はまだ死んでねえ。誰だよ。『君は死んだことになっている。』って言ったやつはよ。反吐が出るぜ。全く。ああ、橙星か。帰ってこいよ主人公。
「ところでよ、王子連れていくんだよな?その王子はどこにいるんだ?」
「ここです。」
世代が上を指差す。上は青空天井のはずだ。俺は、何言ってんだ………と、思ったら。
「え、嘘だろ。上かよ。おーい!何してんだー!あ、そうか。聞こえねえのか。」
いなかったのにな。右を見ても、左を見ても、後ろを見てもいなかった王子真夏は、宙に浮いていた。よく見てみると、俺と同じように幽体のようなものが出ているのがわかった。
王子真夏は、俺と似たように、学ランの上から、白いジャケットを羽織っている。やっぱり、目元の包帯はつけたままだ。どんだけ人の顔を見たくねえんだよ。全く。
「全く。何してんだかな。あれで隠れてるつもりなのか?」
「では、王子さんも連れて行きましょう。ボクの手を離さないでくださいね。よいしょっと、王子さんを忘れずにっと。」
両手に王子と俺の手を握ると世代の目が輝いた。
◁INSTANT TRANSMISSION▷
「やめ…」
◁FREEZE▷
「やめた!!今は世代もいる。世帯工程さんよぉ!」
「まあまあ、史也さん。聞こえていませんから。」
「『歴史也………なにしやがった。時間を弄るとパラドックスが生まれる。パラドックスの影響は計り知れない。記憶の末梢や人体に影響を及ぼす。それだけじゃねえ、本来歴史にありもしないことが、起きることになる。歴史が変わっちまう。俺のインフィニティキューブでさえ、何百万通りとある選択肢から最適解を選んでいる。ちなみに、どこから来た?』って、彼我王獅子丸さんが言うんです。そういうことなので、王子さんは動けないですけど、創造系概念のインヴィクタスを頂きましょう。」
確かに、今までも俺の記憶に影響はあった。本来起こり得ないことが起きたりもした。それにしても世代、世帯工程に似てるなぁ。演技上手いなぁ。まあ、一回しか聞いてねえけど。
「どうやるんだ?俺達は、幽体じゃねえか。インヴィクタスを纏っているとかいってたよな。てことは、この鎧がそうなのか?でもよ、俺達幽体は物体に触れる事ができないというルールが存在すんだろ?それは、俺もニトロゼウス戦で経験積みだ。だとしたらよ、方法が手段がわからねえよ。」
「簡単さ。僕の空間の力を使えばいい。君、本当に何者なんだ?」
この声は、ならず者か!?
「王子!?なんで、動ける。」
「わからない。きっとその子の影響だ。」
「おそらくですが、そのようですね。ボクは………いえ、なんでもありません。」
「おいおいおい、気になるなぁ。メカニズムがわかんねぇよ。だけどよ、つまりはインヴィクタスを奪うって解釈であってるよな。えっと、でこの全能の世帯工程は誰だっけ?」
「我王さんです。凄い方なんですよ!実は………あれ?前にも説明しませんでした?」
「とりあえず、奪えばいいんだよな?」
だったら………
『彼は、何者なの?』
まただ。俺に話しかけてくる。ホープの後継者とか言ってたよな。
『ダメよ。戻って。』
もう戻れねえよ。
『ジャディシャルズが来るわ。』
頼むぜ。静かにしてくれ。
『私達は、紡がれた記憶。』
―Forced Termination―
「君朝、俺はここで勝たなくちゃならない。」
「息子よ。敗北は確定している」
俺は、刀で何度も攻撃を防いだが、防ぐのがやっとで、攻撃を浴びせる程の筋力が俺にはないことは、百も承知だった。だがよ、有名な数字に関する慣用句がある。『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』ってな。つまりだ、狙うのが難しいピストルでも百発百中なんて、難しいんだからよ。刀で百の斬撃を浴びせても………いや、違う。刀は一撃で致命傷になる。隙を狙った、その苦し紛れの一撃が利となる。
だがよ、この男には、隙が一切ない。これは戦いじゃない。一方的な受け身だ。
どうする?そう言って、自分に問う。
どうする?頭の中で、反芻する。
どうする?自問自答する。
どうする?最適解を見つけたい。
どうする?父親は殺せない。
どうする?でもこいつは………父親じゃない。
どうする?父親じゃなかったら殺していいのか。
どうする?殺したら、どうなる?
俺は、殺人者となる?
その後、どうなる?俺は処刑台に………ここまで、考えたところで、君朝が刀を振り下ろす………俺は血反吐を吐いた。そのままぶっ倒れる。
「負けだ。俺の負け…………だ。」
「数義。ここで尽きるか。」
―Sparkling―
世帯工程の鎧に触れた瞬間だった。眩い光が俺達の視界を塞ぐ。
「な、なんだ!?」
「ヴァイヴァロス様がいるのですか。あなたが、歴史也さんですね。初めまして、私がインヴィクタスです。よろしくお願いします。我王様はこのことを予測しておりました。先程、世代さんの発言は24回目の時です。世代さんも繰り返しているのでしょうか?そのようですね。史也様。アクシオムを止めてください。ヴァイヴァロス様と私が協力すれば、宇宙をも創れます。私の言っている意味はわかりますか?」
「いやいやいや、わかんねえよ。宇宙?壮大すぎるだろ。」
「その手がありましたね!マルチバースを作るんですよ!史也さん!ボクも手伝いますから!」
「僕はおまけか………」
「あ、ああ。大丈夫ですよ!不完全な宇宙に三次元という空間を創ることができれば、三次元生命体が生息できますから!王子真夏さん!貴方様も必要なんですよ!」
「僕は、女の子のいない世界を創りたい。はぁ………」
「で、どうやんの?」
―Sucks―
くだらない作戦だった。血糊の入った風船を口に仕込み、それを俺の鋭利な歯で噛んだだけだ。
そうすると、まるで血反吐を吐いたのかのように見えるって訳だ。
「馬鹿野郎。背後がガラ空きだ!」
「小細工なのは承知している。俺の刀は当たっていない。そうだろ。いずれにせよ、待て。気配を感じる」
俺が背後から君朝へと向けて、刀を振り下ろすとカキンと音がしたかと思えば、奴は見てすらいないのに。俺の斬撃を刀で相殺するように受けてみせた。何て奴なんだ…。
「待つんだ。」
この声は………後ろに誰かいる
誰だ?若いな。とはいっても俺より年上だが……
「あんたは………」
「数義君だよね。初めまして。君朝さん。お子さんがいるなんて、聞いてないですよ。しかもその刀、真剣じゃないですよね。」
「なぜ止める。俺と数義の問題だろう。介入するな。ヒーローK。いや、数多京よ。いつからいた………」
「あんたが………」
この人物が数多京なのか!?至って普通だ。背格好からして大学生くらいか?いや、待て。そう簡単に信じる訳にはいかねえよ。確かめねえと。
「好きな数字はなんだ?」
俺は知っていた。数多京が数字の9が好きなことを………
「数義君。期待を裏切ってしまったかもしれない。でも、僕は数多京なんだ。この通り、ただの大学生なんだ。数字の9が特別好きなだけの大学生なんだ。君がK大学に来ることを待ち望んでいたのに。お父さんと戦っている。これは一体全体どういう状況なんだい?」
「本物だ………えっと京さんですよね?初対面で名前呼ばしてもらいますけど、いいですか!こいつは親父なんかじゃない。人殺しだ!こいつを倒してください。俺に歴史を変えてくれって言ってる、頭のおかしい奴なんですよ。俺の過去見たんですよね?だったら、わかりますよね?倒してください。その拳で、終止符を打ってくださいよ!!」
「殺さんと誓った、戯言ではない」
「矛盾してんだよ!俺と京さんの会話を遮るな!京さんは多くの命を助けた。それに比べで、あんたはどうだ!多くの人の命を奪ったんだ!あんたに話す権利はねえよ!」
「落ちついて、数義君。冷静に話し合おう。」
落ち着いていられねえよ。誰がこの状況で―――
「僕はね、とある方法で君の過去を知ったんだ。確かに、君朝さんの行った事は許されることじゃない。君のことはよく知ってる。そして、いつか歴史也君と戦うことになる。誰に言われたのか、知らないけど英雄に逆らうのは、理由があるんだろうね。僕が敵でも戦いを続けるかい?」
―Time Flies―
「………カク、確認できました。ダメでしたか。」
どもってる?世代の発言がおかしい。
「な、何がだよ。」
《史也様警告です。戻ってください。今なら引き返せます。この声は世代さんには聞こえていません。世代さんは―――》
な、なんだと!?
「そうだな」
「史也さん。今回は諦めましょう。でも、ボク達はいつだって―――」
「ああ」
最後まで聞かずに空返事をすると俺は、自分の行いが間違っていたのか、正しいのかさえ、わからなくなり、どうしようか考えた挙句、我王という男が「やめ」と言いかけていたことから、また、その手にネックレスがなかったことを考慮に入れて、時間を戻すことを決めた。
『時よ戻れ』
《信じていた、戻ってくると》
◁TURN BACK▷
時間は止まったまま、俺の視界から、我王という男が消え、一瞬にして、目の前に数義が現れる。数義は俯いていた。
「おい、数………」
そうか。俺は、数義の体を揺さぶっていたんだ。一つだけ、たった一つだけおかしな事象があった。これは、どう考えても、おかしいだろ。上には黒い服。下にはグレーのパンツを履いた眼鏡の男、いるはずのないニュートンの姿がそこには確かに存在しており、まるで未確認飛行物体のように空中に浮遊している。
「一応聞いておく、名前は?」
「私の名前は、アプフェルです。間に合いました。」
「間に合った?どういう意味だ。」
「聞きたいことがあります。誰に会ったのですか?私は、何も知りませんが、急に行動をやめるのはおかしくないですか?歴史也さん。」
「よだ………なんでもねえよ。俺は、誰にも―――」
「よ?まずいことになりましたね。あなたは本当に気をつけた方がいいですよ。最悪の場合を考えた方がいいかと。」
あれは…………そうか。王子には、時間を止めている時意識があった。そこから、急に時を戻したんだ。対応できるはずがない。助けないと、助けないと空から、王子が、王子真夏が降ってくる…
「おうじ!!」
『止ま……
地面スレスレで王子が浮遊する。
「ふふふ。僕が落ちるわけないだろう。源高校だって、落ちなかったんだから。」
王子は浮きながら、微笑んでいた。
「あなたも浮遊できるんですね。一つ言っておきます。セブンスターはまだ現れませんよ。」
「手を下さないってか?出てこいよ!なんだよ、ひよってんのか?それでもヒーローかよ!」
セブンスターって誰なんだよ。
「だからこそです。まだ、早いんですよ。」
番外編
「22.2」What you can do―あなたにできること
「俺にできることってなんだろうな。」
マルチバースを渡って、四次元を旅した。四次元には、時間という概念がないし、三次元とは違う。普通、人体って透けて見えないだろう。四次元だと、透けるんだ。内蔵や、血管、骨の隅々までが、透けて見える。そこに人間はいなかったし、俺が見たのは得体の知れない何かだった。まだ、人類の踏み込んではいけない領域だった。歴史也なら、辿り着けるかもしれないな。だから、俺は、全力で助けたい。
「僕にできること………」
人を意のままに操れるし、瞬間移動だって、できる。でも、人は苦手だ。顔だって、ろくに見れないし、ラブシンドロームの後遺症で、サングラスか、包帯で、目元を隠さないことには、外に出られない。
でも、何ができるかって言われたら、協力はしたいかな。でなければ、僕は嘘をついたことになってしまうからね✧
「僕にできることですか?」
なんでしょうね。今は言えません。言ったら、面白くないです。失礼します。
「私にできることか」
なんだって、どんなことだって、破壊してみせる。心の足枷だろうと、手の自由を奪う鎖だろうと、破壊してみせる。これは、護るための力。私は、そう決めている。
「・・・」
次回までどうぞよしなに!
Please wait until next time :-)




