「20」 Future And Past―未来と過去
―It Hasn't Come Yet―
◁FREEZE▷
「おそらくですが、ここでの会話は誰も聞いていません。史也さん。覚えていますか?どうやら覚えていないようなので、お初にお目にかかります。と、一言添えておきますね。安心してください。今、時間は止まっています。誰が、止めたかって?ボクですよ。―――です。
早速ですが、話をしましょう。ボクは、未来から来ました。未来というものは、不確定要素しかなくて、ボクも可能性の一部に過ぎないですけれど、ボクの未来について、話しておきますね。ボクがいた未来には、世界大統領と呼ばれる存在がいます。皇一族は、その世界大統領に深く関わっているんです。いわば、実行役。そのため、世界大統領は直接手を下す必要がありません。それが彼らなんです。ああ、そうですよね。世界大統領が誰か気になるところですけど、誰かは言えません。来たるべき、えっと………この時間軸で言うと2100年に世界大統領の発足があるんでしょうか?誰がなるかも今じゃわからないです。現時点での、つまり、不確定要素の僕の未来の世界大統領は、人口問題を解決するために、人間にタイムマシンを使わせて、ここに、いや、過去に送りました。理由は、人類の進化を早めるため。今まで、いませんでしたか?未来を知っている人間や、特殊な名前の人間。超能力を持った人間。そして、皇一族が未来からの使者ということになります。皇橙星君は少し特殊です。未来生まれ、現代育ち、で、また未来に帰りました。その先は言えません。でもって、そもそも世界大統領が、何をしているか気になリますよね。
彼は、人類の選別をしているんです。選別という取捨選択。生かすか殺すか、じゃあ、世界大統領と皇一族は人を殺すのか。まあ、厳密には殺しません。精神が保管されますからね。その精神をインストールして、ロボタに入れれば、ロボタの完成って訳なんです。これが、ロボタの秘密です。彼らは、大元は人間なんですよ。稀に例外も存在するんですけどね。世界大統領は、ロボタにする人間を決めたり、未来の人間の精神を空になった過去の人間の肉体に吹き込んだりします。そうすることで、未来人の完成なんです。肉体は、過去のもの。
でも、記憶や、精神は未来のもの。これが、未来人の秘密。仮にこの未来人をβとします。では、αは?この未来人には特徴がありまして、変わった名前や、瞳孔が大きかったりするんです。そして、なによりこれから起こることを知っています。現代人にとって、未来には不安要素しかないですけれど、未来人からしたら、周知の事実なんですよ。彼らは、人類の発展を早めてきました。歴史上の人物や、偉人のほとんどが未来人なんですよ!
そうですね、日本なら徳川家康が有名ですかね?他にも、源頼朝、足利尊氏。物理学で言ったら、アインシュタイン。哲学で言ったら、ソクラテス。そうそう、あのノーベルも未来人ですよ!でも、現代人が歴史を繰り返すんです。文明の利器の間違った使い方をするんです。それは、もう誰にも止められないんです。歴史をいじる前から、人類は、暴力的で残酷な種族なんです。今の世界大統領は言っていました。「殺人がなくなるといい」と。
でもそれ以前の世界大統領は、残虐非道で最初は、過去の愚かな人間達を殺して、入れ替えていたそうですよ。それが、αですね。
ですが、世界大統領に反感を持つ未来人たちも多くて、何度も世界大統領は、変わったんです。挙句の果てになんとかできないかと考えた結果。ウェルズという名の人物が突如として、現れます。神経であるニューロンをすべてデータ化して、人間の精神を取り出すことに成功したんです。最初は、タイムマシンを使っていたんですが、その必要性はなくなりました。精神転移装置を過去の人間に使うことで肉体を殺さずに、つまり、心臓を止めずに、精神を変えることに成功しました。でもって、肉体を縮小する技術や、他の惑星の開発が進んだり、マルチバースの文明開発が進みました。これで、人口問題は、解決しました。マルチバースは無限に存在しますから、マルチバースの扉を開けることができる者達によって、人間を送ればいいですからね?でもって、H.G.ウェルズ博士は、タイムマシンの開発者でもあるんですけど、史也さん。あなたの子孫でもあるんです。だから、君を殺すわけにはいかないんだ。と、情報体が判断したんだと思います。あなたに生きててほしい。あなたが死んだら、歴史が変わってしまう。世界大統領や、ウェルズ博士が、生まれなくなってしまうんです。だから、あなたは生きているんじゃないかな?って僕は思うんですけどね。あなたが、歴史なんですよ。歴史そのものなんですよ。史也さん。ボクと一緒に未来に来ませんか?」
これは……俺は、何を………目の前に数義がいた。俺の体は、別にある。時間を止めたときと同じ。弾き出された俺の体は、透けている。つまり、幽体になっている。倒れかけている巨大化したアズ。その影を操っているディ厶・シャドウ。ここまで、予測していたか知らないが、未来予知が可能な、トランセンド。
そして、俺に揺さぶられていた、数義。その全てが、静止していた。俺以外に時間を止める人間がいる。いや、人間なのか?本当に人間なのか?だが、この現状が未来人や、世界大統領といった現実味のない話に真実味を帯びさせてくる。まるで、デジャブみたいに………
ちょっと待ってくれ。今の話本当なのか?
躊躇わずには入られない。聞くしかなかった。
「本当に、――未来なのか?」
時間が止まっている。さっきまで、数義の話を聞いていた。父との決別。そして、父と戦う話になったところで、俺は肉体から切り離され、幽体となった。つまり、時間が止まっている。俺が止めたのか?いや、違うよな。この子が止めたんだ。
「僕は、未来じゃないですよ。――世代ですよ。」
世代………やはり。
「そういうことじゃなくてだな。未来って何年後なんだ。」
「何年後とかではなくて、2100年なんです。インターネットの書き込みにもありますよ。ほら、たまにあるじゃないですか。私は、未来人です。って言って、質問受け付ける人。彼らの発言にも、世界大統領は登場することがあるんです。まあ、誰も確かめようがないですけれどね。」
「なぜ、時間を止められる?情報体なのか?さては、アクシオムか?」
全人類の敵「アクシオム」それがこの子なのか?だとしたら、未来なんて教えないはずだ。
「違いますね。アクシオムは、あなたを狙っていたんですよ。気づきました?」
俺を狙っていた?情報体に狙われたという記憶は、俺の記憶にはない。待てよ、狙っていたやつならいる。橙星………アカセがアクシオム?
いや、瞳の色が変化したんだ。俺はその時、幻術か何かで操られているんじゃないか、と推測した。つまり、橙星はアクシオムに操られていた?
「………わかった。『紫の瞳』と関係あるんだろ?」
笑っているな。まさか他にも何か知っているのか?聞くなら今だ!
「そのようですね。アクシオムについては、謎が多いです。そもそもアクシオムとは、自明の理です。意味は、『根拠を立てる必要がなく、それ自体で明らかな道理や論理、真理を意味する四字熟語』です。不思議に思いませんか?」
不思議?おかしなところは何もないはずだ。
「どこがだ?」
「名前ですよ。他の情報体もそうですが、人間の言葉で名前がついているんです。これは、列記とした矛盾点なんですよ。なぜなら、アクシオムは、英語です。彼らは、『概念的な存在』です。なのにですよ。その概念の名前ではなく、意味のある名前がついている。つまり、誰かが名づけたのか。彼らが、我々に言語を教えたとしか、考えられません。どう思われますか?史也さん。」
「ちょっと待ってくれ。他の情報体だって?情報体は一体だろ。ヴァイヴァロスだけじゃねえのか。」
「イエスであり、ノーです。確かに、情報体は、有機体ではないので、1つと数えることができないので、一体二体三体と表現するのは、如何なのものですが、今の所、概念の数だけ存在すると言われています。そして、この時間軸で重要なのは、6体。時間系概念のヴァイヴァロス。創造系概念のインヴィクタス。空間系概念のカイザー。闇系概念のアクシオム。破壊系概念のスプレマシー。そして、光系概念のホープ。この6つの概念で、宇宙を創ったとされています。お気づきかと思われますが、2体で一対です。例えば、時間なら空間。創造なら破壊。闇なら光といったように。相対的なんです。そもそもこの6つの概念を司っていたものがいたとされていて、その生命体の名前は、『ドミヌス』。ドミヌスによって、宇宙は繰り返している。といった定説まで、存在します。これもまた、確かめようがないので、何も言えません。重要なのは、あなたですよ。史也さん。あなたは、その身に時間系概念のヴァイヴァロスを宿しているんです。もしくは、融合とでも言うのでしょうか。キセキです。」
―Crossroads―
俺は、刃を相手に向ける。相手とはもちろん父であり、先祖であり、人殺しの君朝に。
「そうだよな。俺を殺しても、お前に害はない。俺は、お前の息子でしかない。息子というそんな名前だけの存在でしかない。」
「参る」
「行くぞ。」
摺り足で、ゆっくりと距離を詰める。この時が一番緊張する。相手が刀を突然投げてきたら?飛び道具を持っていたら?銃で撃たれたら?と、考えちまう。深呼吸をして、心を落ち着かせる。もし、俺が君朝を斬れば、遺伝的に血の繋がっている、親を殺すことになる。そうすれば、俺は、存在しなくなるのか。牢屋に放り込まれるのか。それとも、正当防衛が適用するのか。どうなんだ。答えこそ、わからないが、真剣はとにかく重たかった。とてもじゃないが、これをかつての源頼朝のように振り回せるとは、思えなかった。どうする?負けるのはわかっている。
―Time Gone By―
一瞬のうちに、途方もない時間が流れる。待つには、長い。生きるには、短い。そんな時間が流れる。
そして、俺の目の前には、この子がいる。この子も何かの情報体なのは、間違いない。なぜなら、伝わってくるんだ。これが、これこそがテレパシーなのか。止められない。思考のように、頭の中に留まり続ける。あの時、ナナセはこんな気分だったのか。これ聞いて、平気でいられるなんてな。正気じゃねえな。
「わかった。もうやめてくれ。たくさんだ。これ以上はいいだろ。」
「そういえば、大事なことを、忘れていました。ああ、すいませんね。史也さん。人間という種族は、ホモ・サピエンスですが、ホモ・ヘックス・サピエンス、ホモ・ヒート・サピエンス、ホモ・ヘイル・サピエンス、ホモ・アルケミー・サピエンスといったように、派生が存在するんです。この人類達は、僕の時間軸にだけ存在するのかもしれません。」
「で、いつ時間を動かすんだ。」
「僕にいい考えがあります。時間を分岐させましょう。いいですか。僕の言う通りにしてください。本来なら、あなたは数義さんと闘うことになるんです。でもって、あなたは負けます。しかし、それは絶対ではありません。時間を飛ばすとどうなるんでしたっけ?」
「やめておけって言われるから時間は飛ばせない………」
「そこですよ。盲点です。時間をなぜ飛ばしちゃダメなのか。あなたは、根本から理解していない。ニトロゼウスの指輪を手に入れること自体が、禁忌なんですよ。だから、彼から力を借りればいい。」
「ちょっと待ってくれ。彼って誰だよ。」
「知らないのですか。お教えしましょう。彼こそが王。真の王。そして、創造系概念の情報体インヴィクタスをその身に纏っている。彼こそが、初代世界皇帝。我王獅子丸ですよ!」
「え?誰だよ?世帯工程?
「なんだよそれ知らねえな。
「子供のごっこ遊びかなにかか?
「にしてもよ、面白い名前だな。我王って、我は王って書くのか。ふはは。
「もしかしてだけどよ、俺は、我王だー!って、王様ごっこするんだろ?あっ………
「おい、俺今なんて………」
「王様ごっこですか?」
「そうだよ。もう1人王って字が名前に入る奴がいる。俺の推測だが、空間系概念のカイザーだったか?カイザーってドイツ語で、皇帝だろ?てことは誰かわかるよな?」
「あー、王子真夏さんのことですか?」
「ちげえだろ!あ、間違えた。そうだよ!『ならず者の王子』だ!危ねぇな。忘れるところだったぜ。あいつは自分の口から、「君の反対だよ。」って臭い台詞を吐きやがった。それにだ。空間を支配しているなら、瞬間移動だって可能だ。あいつのチートみたいな「命令」にも納得がいく。空間そのものを支配するなら、その範囲内の人間を操れてもおかしくないはずだ。だってよ、概念なんだろ?だったらよ、その王子と一緒に未来に行けねえのか?2人でなら、その世帯工程?だったか?にも勝てるんじゃねえか?」
「待ってくださいよ。彼は、ヒーローKと同じく無敗なんですよ。かつて、Love knows no boundariesにて、四帝を打ち負かし、味方につけて、最強になった男です。世帯工程がなにかは、知りませんが。彼を倒せるものは、この世界には存在しません。しーかーし、人間だったらの話です。まあ、僕がいますけどね。それに、時間を操作できるのは、双方共に同じですが、史也さんは、時間の概念そのものなんですよ!時間においてなら、敵なしです。覚えてますか?ボクがなんて言ったか。」
「ああ、もちろん覚えてる。」
『ボクと一緒に未来に来ませんか?』
「だったよな。行こうぜ。我王ってやつに、反逆してやるよ。」
「素晴らしい心意気ですね。それでこそ史也さんです。準備はよろしいですか?」
「始めてくれ。」
番外編
「Ⓢ」Without deviation, ideas will not be born―
逸脱しなければアイデアは生まれない
俺は、悔しかった。典賢に嫉妬していた。最初はそうだった。聡明な奴だと思っていた。計算高いやつだとも思っていた。典賢の「賢い」という字は、ずる賢いの賢いだとそう思っていた。でも、実際は違った。影ながら、努力していた。皮肉を言うやつだったが、それは全て正反対なんだ。逆なんだ。賢い人間は、攻撃性が高いともいう。あいつは、新人賞を取りたがっていた。「僕は必ず小説家になるよ。『なろう』じゃなくて、『なる』なんだ。」と言っていたが、誰もあいつを認めない。作家としてのあいつは、常軌を逸していた。名前こそ売れず、無名だったが、数々の作品を世に生み出してきた。時には、これは小説じゃない。と揶揄されたり、海外文学の真似だ。と謳われたり、いいことなんてひとつもなかった。だが、あいつは優しかった。
そして、自分自身にとても厳しかった。毎朝、5時に起きて、そこから、昼まで小説を書き進めては、昼から、運動を行う。スズカの飯が美味いからと、外食には一切行かず。決して、広くはない家にこのフリーターの俺を受け入れてくれた。そこで俺はしばらく暮らし、とある女性と出会う。
俺は自分が人間じゃないとわかっていながら、その女性と恋に落ち、そのシェアハウスで4人で暮らすことになった。徐々に関係は複雑になり、子供も生まれた。子供が、高校生になり、学校で三好青空という少年と会ったそうだ。その子には、恵まれた才があると、直感でわかった。その子は茜ちゃんと結ばれたが―――今は、どうか知らない。音沙汰がない。噂によれば、3人の子供を授かったらしく、三姉妹だそうだ。実は、長女の炎が家出したらしい。それから、捜索届けも出したらしいが、見つからない。三好青空は、必死に探したが、見つからなかったそうだ。行方知れずとは、このことだな。
時は経ち、後にある大学生が私の元を訪れる。私は、ボクシングは引退していた。彼は、私にボクシングを教えてほしいとせがみ、私に一度会ったことがあるとも発言していた。試しに、練習に付き合ってやると、ミットを一撃で破壊した。九君に似ていたが、やはりそうなのか。
私は事実上40代だが、歳は取らない。宇宙が誕生した時から、概念として存在している。いくつも宇宙を見てきたが、この宇宙は素晴らしい。栄光という言葉が似合う。なかでも、人類という生命体は、特殊だ。知能が高い。それに加えて、協力する。この人類という種族に賭けてみてもいいだろう。私は、そうして人間という仮の姿を手に入れた。それが私だ。名乗るのは、まだ早いだろう。ただ、破壊系概念スプレマシーとして、何億年。何兆年。この宇宙を護ろうではないか。
世代よ。
次回までどうぞよしなに!
Please wait until next time :-)




