「2」 異変・事変
「速報です! 謎のロボットにより街が半壊されました。近隣住民の方は、直ちに避難してください! 繰り返します! 直ちに避難してくださ……」
テレビは砂嵐に切り替わった。砂嵐に切り替わる直前、何者かの紫色の瞳が一瞬だけ映り、俺の頭から、その紫が離れなかった。紫というと、あまり良いイメージはない。俺の中で、紫は不安を表す、何者かの企みなのだろうか。謎のロボット……どこを思い返してみても、ありえないことだらけだ。
「はあ!? こんなことあったか? アニメみてえだな………」
俺は、1つの違和感を覚えた。繰り返していることは、瞬時に悟ったのに………まるで、別の世界で別の人間の人生を歩んでいるかのようだったからだ。
なぜなら、頭が痛いからだ。
「あったか? なあ、史也、あったかってなんだ? 少し変だぞ? 寝ぼけているのか? まあ、そんなことはいい。呑気にテレビを見ている場合か。遅刻するぞ」
俺は、急いで身支度を済ませると、学校へと向かった。俺の通う高校は、基本学ランだが、制服が自由だ。これといった規則がない。だから、俺はいつも赤色のジャケットを羽織っている。この季節は、まだ肌寒い時がある。父さん譲りのこのジャケットは、防寒に最適だ。俺は、新聞を読む父さんに顔を向けた。
「行ってきます」
「サボるなよ」
「はいよ。」
俺は頭を抑えながら、道は、どっちだ?と、考えていた。
トンネルをくぐって、左へ進み、横断歩道を渡る。5回横断歩道を渡ると、地下鉄の入り口が見えてくる。俺の家から、最寄りの駅までは、少し距離がある。
それに加えて、地下鉄で高校の近くである源駅まで、1時間か………
さてと、何すっかな。アニメでも見るか。俺は、アニメが好きだ。他人の人生を味わえるから。面白いから。そして、なにより現実でできないことをアニメは可能にする。その有り得なさかげんが俺を魅了する。
俺は、ポケットからスマホを取り出し、アプリを開いた。サブスクリプションと呼ばれるやつだ。この時代の人間は、スマホでアニメを見ることができる。父さんの時代は、違ったらしい。決まった時間にテレビをつけては、脇目も振らずに見ていたそうだ。
だから、俺は広告という概念を知らない。父さんから聞いた時は、それはもうたまげたさ。
そんなことを考えながら、アニメをしばらく見ていた。ヒーローものだった。とある企業が宣伝を兼ねて作っているらしい。企業名は確かaなんちゃら………なんだっけな。確か、Aから始まるんだが、どうも思い出せねえ。なんだっけな?忘れた。
つーか。これ、見たことあるな。間違いねえ。やっぱり俺、人生繰り返してるだろ。デジャブとか、そういうレベルじゃねえ。確認の為、アニメを最後まで見た。瓜二つってのはこういうことをいうのか。
「つまんね」
思わず声が出た。周りのお客さんの視線が集まる。顔から火が出そうだった。
「す、すいません」
小声で俺が言うと、乗客達は視線を逸らす。
だが、俺から視線を外さなかった奴がいた。なんだ?何の用だ?まさか、喧嘩を売られているのか?勘弁してくれよ。俺、負けるぞ。
「ふふっ、面白いね。史也。おはよう」
初めて聞く声だ。爽やかな声だった。オレンジ色の髪が印象的だった。アニメキャラみてえだ。それに、俺の名前を知っている……知り合いなのか?この俺と?万年ぼっちの俺と?まさかな……
「お、おはよう。え、誰だっけ?」
「酷いなあ。僕さ。橙星だよ」
あかせ?それ名前か?珍しい名前だな。というか聞いたことねえよ。マジで誰なんだ?コイツは。
「人違いだぜ。高校どこだよ」
でも、名前知ってんだよなあ?どういうことだ?
「え、源高校だけど……」
「同じなら、まだしもよ、源高校って……」
え!?同じ高校なのか?すっとぼけてる場合じゃねえ。何年だよ!
「ま、マジか! 何年だ? 1年か2年だろ?」
そりゃそうだよな。同じ学年なら俺が知ってるはずだ。なぜなら、俺は人生2週目だからだ。
「史也大丈夫かい? 僕達同じクラスで、隣りの机じゃないか。記憶喪失なのかい?史也、ちょっとごめん。電話だ」
「もしもし。――です。はい……はい……そうですね。はい。わかりました。これでいいんですよね。わかりました。お爺様。――の名にかけて。使命を果たします」
周りの雑音がやけにうるさいな。聞き取れない部分があった。なんて言ってんだよ。ん?なんだって?お爺様?普通おじいちゃんのことそんなふうに呼ぶか?もしかして……金持ちの孫なのか?
「悪いね。おじいちゃんからだったよ」
「へえ、おじいちゃんいんのかよ」
「あ、そうだ。史也にはまだ言ってなかったよね。僕の一族は由緒ある一族で、代々意志が受け継がれてきたんだ。で、これがまた長いんだけどね、元々は――」
なげぇよ!!!話し全部聞いたけどよ。わけわかんねえ。なんだドリルって、つか誰だよ。知らねえしよ。
「源駅だ。行こうよ。史也。高校に着いたよ」
「あ、ああ」
俺たちは、校舎へと向かってゆっくりと歩き始める。時間に余裕があったからだ。桜が綺麗だった。2回目の桜。そうか、いまは4月なのか。桜がそう言っているように聞こえた。
俺が事故にあったのは、3月だ。不思議な感覚だ。まるで、1年を一瞬で生きているような………時間の感覚がおかしくなりそうだ。平衡感覚は、大丈夫みてえだな。なんで、俺は、繰り返してる………?そんなことを考えていると、自分が生きているか死んでいるのかわからなくなる。ひょっとすると、俺は死んでいるのか。
だが、俺は、地に足をつけて、歩いてるじゃねえか。生きてんだろ。きっと生きてる。不安にならなくていい。それについて、考えようとすると思考が停止すんだ。でも、停止したっていい、なぜなら、俺は生きているから。生きていることとは、つまり死にゆくこと。だから生きてる。死ぬためにじゃねえ。何かをするために生かされている?まさかな……




